第26話 後悔と絶望の中で~まさおアフター~【まさお視点】
……あれからどれくらい時間がたっただろうか。
警察に捕まった後、俺は酷く体調を崩して病院送りから施設に収監された。
元気が出る魔法のおハーブが身体によくないものだったことに加えて、過剰に摂取しすぎたことで俺の身体はボロボロになってしまっていたのだ。
今では自分で起き上がる事も難しく、ベッドの上に括りつけられて日がな天井を見上げていることしかない。意識はハッキリしているが言葉を発するのも難しく、生きているのに死んでいるのと変わらないように思う。
くそくそくそくそくそ、こんな有様じゃ女とおセッセに励むことも出来やしない。
俺様のびっぐでまぐなむなぺにぺにさんが泣いてるぜ!!それもこれもあれもどれも全部全部全部全部全部たっくんのせいだあのクソガキャァ……!!俺をこんな有様にしやがって絶対にゆるさなえ…じゃなかったゆるさねえ……!!
いつまでこんな芋虫ライフをおくればいいのかはわからないが、早く元気になってたっくんに報復して取り巻きのメスガキどもや俺を裏切った女どもをヒィヒィいわせてやるんだ!!
そうだ、たっくんの顔面を腫れ上がるまでボコボコに殴りつけた後で、去勢っ!してやるんだ。そして身動きの取れないたっくんの前で、たっくんが連れていた女を殴りまくりながら玩具のように弄んでやるんだ。く~っ、最高!はやく元気になってくれよ俺のボディ!!
―――
そんな風に復讐心といずれヤってやる報復の凌辱の妄想だけを生きがいに俺は日々を生きていた。
時々親父の代理人というやる気のないオッサンが様子見に面会に来るが、他には何も変わらないただ朝起きて寝るだけの寝たきりの日々なので妄想に耽る意外にやる事がないのだから仕方がないね。
そんなある日の事、俺に面会に来たオッサンの様子がいつもと違った。
寝たきりの近くの椅子に腰かけると、俺を憐れむような目で見てひとり喋りを始めた。
「お父さんの会社の清算が終わりました。会社は別の会社に吸収合併され、無くなりましたよ」
返事はできないが、しっかり聞こえている。親父の会社無くなっちまったのか。
ショックだった。あんなにデカくてブイブイいわせていた親父の会社が……。歌い手を上がったら会社の親父の会社の副社長になってもいいと思っていた。部下をパワハラしまくりながら会社でイケイケドンドンする人生プランだってあったのに。
「それと、お父さんが亡くなられました。心労によるものだと思われますが、道端で倒れてそのまま帰らぬ人になりました。
お父さんの遺産や会社の売却費用の大半は債権や君が起こした事件の慰謝料に充てられましたが、以前君を釈放までもっていった弁護士さんが君がこの施設で暮らしていけるだけの額は回収して管理することになりましたので、君はこの施設で暮らすことができます。……君に聞こえているかはわかりませんけどね」
……親父が、死んだ?
アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!なんでなんでなんでなんでどぼじで?どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!あああああああああっ、あーっ!!!ほ、ほーっほああーっ!!ほぁーっ!
嘘だ嘘だ!それが嘘だと叫びたい!
頭をかきむしりながら泣き叫びたい。だけど動かないんだからだが、声が出ないんだよ!!!何なんだよ俺の子の身体は!!
やっぱり全部やっぱりたっくんの所為じゃねーかあああああああああああっ!!!
「私が此処に来るのは今日で最後になります。……お父さんは貴方の被害者の人達に謝罪をしながら、最後まで貴方を心配していたようですよ」
そう言ってやる気のないおっさんが部屋を出ていった後、俺は誰もいなくなった部屋で声もなく泣いた。動くことも叫ぶこともできないが、涙だけは出た。止まらなかった。そしてその瞬間、すとん、と胸に何かが落ちるように、理解できてしまった。
―――たっくんのせい?違う。……嘘だ……俺の、所為だ。
何もかも全部おれのせいじゃぁないか。
……俺が馬鹿をやったばかりにたくさんの人に迷惑をかけたから謝らないといけない。
俺はたくさんの女の子の人生とその家族を滅茶苦茶にした。
俺がセフレにして使い捨ててきた一人一人に家族がいて家庭があって、人生があった。そういったものまで俺は踏みにじったんだ。
親父が俺を大切に思ってくれていたように、俺が踏みにじった子にはその子を大切に思う家族が痛んだ。そういうものを全部俺が滅茶苦茶にしたんだ。
俺は、クズだ。どうしようもないゲスで、ゴミで、生きる価値のない蛆虫で、性犯罪者なんだ。都合よく他人のせいにして喚き散らして現実を見ていないだけの小卒頭のこどおじなんだ。
今、一人になってやっとそれがわかった。ここまで堕ち切ってやっとわかるってのがどうしようもない奴過ぎる。
謝っても到底許される事じゃないのはわかっているが、それでも謝りたい。詫びたい。償いたい。
いっそ理解できないままの馬鹿なクズでいられたらどんなによかっただろうか。
だがここにきておれは、自分がしたことの罪と、その大きさをゆっくり理解していってしまった。だから俺は謝りたいという気持ちと、自分がしてきたことへのもう、後悔しかない。
そんな風に心が絶望に塗りつぶされたからか、それとも興奮して体力を使ってしまったのか、身体からなにか大切なものが抜け落ちていくように感じる。
瞼が降りてくるのを止められない。身体を襲う痛みと気だるさ、これはただの眠さじゃない。もう二度と瞼が開かなくなってしまうやつだ。
いやだ、このままこんな風に終わるのは嫌だ。死ぬのはいい、だけど、俺は自分がしていたことが酷い事だって事がやっとわかったんだ。なのにこのまま終わりたくない、焼けた鉄板の上で土下座でもする、指を詰めろと言われたら5本でも十本でも詰める、自慢のまぐなむさんを切り落とせと言われたならちょん切る。
けど、誰にも詫びることも謝る事も出来ないまま死ぬのなんて嫌だ。嫌だ、いやだ……!!
だが、そんな俺の必死の心の叫びもむなしく、瞼が閉じ俺はめのまえがまっくらになった!
これは自業自得、因果応報なんだろ、そうなんだろ。
あぁ、けど。……もし人生をやりなおせるなら、今度は間違えないから。
コンプレックスで捻くれる様な事はしないし、誰かを逆恨みすることもしない。
自分の事の為だけに生きるんじゃなくて、人の為になって、それで人から好かれるように、正しく生きるから。
正義の味方みたいにそんな風に、俺は生きてみたいん、アッ、アッ……アッ……しにゅ…駄目だ、俺、死ぬの、ぜ……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ―――――
薄れゆく意識の中で最後にそんな事を願いながら、俺はバカで哀れで惨めな人生をゆっくりと終えた。
個人Vをしていた幼馴染が歌い手(笑)に寝取られたけど、2人が人生の坂を転がり堕ちていくのを眺めていることにした。 サドガワイツキ @sadogawa_ituki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。個人Vをしていた幼馴染が歌い手(笑)に寝取られたけど、2人が人生の坂を転がり堕ちていくのを眺めていることにした。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます