第43話 【初配信】你好!つよつよキョンシー蘇瑪麗です♡【#virtuala/#新人Vtuber】

※作者は広東語(廣東話)、中国普通話はネットでかじった程度のエアプです。英語も苦手。自信がある方は優しくツッコミくれると嬉しいです。


ネイホゥ! 香港から来ました、つよつよキョンシースゥ瑪麗マァリィです♡ 音量大丈夫かな?」


ランたそ激推し「海外ネキ⁈」

にんにん丸「大丈夫」

ytc9999「大丈夫」


「そだよ海外ネキだよ〜。音量大丈夫みたいでよかったです。早速自己紹介するのでスライド、どん!」


 挨拶こそ広東カントン語だが、流暢な日本語はネイティブなみ。萌え声というほど高くないけど、滑舌が良くて聞き取りやすいかわいい声。画面には白髪はくはつに赤い眼のハーフツインテールの美少女。彼女こそが我がvirtualaの隠し玉、感情交差点の同期になるかもしれなかった幻の一期生の一人である。


 濃いピンクと青を基調にした、中華風のいわゆるキョンシー衣装。ただし二次元なのでミニスカートで、札の貼られた帽子はハットピンになっている。virtualaに入った時点で追加になった、赤いツノ付きカチューシャをしていて、見た目の年齢は十代前半ほどだろうか。かわいい女の子が得意なミキさんデザインの良さが詰まった見た目をしている。


 見た目に関しては、感情交差点の二人と違い、中の人の意向を色濃く反映しており、もとになったイラストから2Dモデルを作る際に、『胸は絶対に盛ってはならない』『顔はいくら幼くてもいい』『太ももはいくら太くてもいい』『すらっとした等身ではなく、ずんぐりしててもいいからかわいく』『白髪赤目は譲れない』『ミキママのょぅι゛ょは至高』などいくつか要望もあったそうだ。なんでそんな日本語知っているんだ。


 ロリコ……少女趣味の女オタク、リアルの性的関心うんぬんではなく、二次元の幼女キャラを好む女性というのは珍しくないので、彼女もそのタイプなのかもしれない。外国人ということもあって、ちょっと遠く感じていたけれど、ある意味でみっくんより『こちら側』の人かも。


 自己紹介は彼女の言葉をそのまま引用しよう。ちなみに広東語の箇所は、リスニング能力ゼロの私こと恋沼ひかるの聞きっかじりと、自動生成の字幕に頼ったものなので正確ではない。なんなら文章ごと間違っている可能性もあるので悪しからず。


「改めまして、スゥ瑪麗マァリィです。苏玛丽だと日本ニキが表記しにくいから日本漢字にしてます。スーちゃんでもメアリーちゃんでもいいけど、ソネちゃんって呼ばれることが多いから、そう呼んでくれると嬉しい! 名無しのキョンシーだった頃、ゲームが大好きすぎて、オンラインゲームで暴れ散らしてたらつけられた名前なんだ。けっこう気に入ってるよ! それから新年おめでとう! サァニンファィロァ! 言ってもいいのかな〜ってソワソワしてるリスナーさんもいると思うから、自分から言っちゃうけど、Streamixストリーミックスというプラットフォームで去年まで配信してたよ」


おねもり「あ、それいいのねw」

カツ丼「ソネちゃんだ〜」

DDD「新年快樂」


 この場合の新年は旧正月のことである。


 知らない人には普通の中国名にも聞こえる、というか見える彼女の名前だが、日本でも有名な二次創作用語、最強夢主あるいはチート主人公を指す、どちらかといえば蔑称を元にしている。メアリー・スーだとそのまんますぎるのでスー・メアリーになってはいるが、本人のいうオンラインゲームで暴れ散らしてたらつけられたあだ名というのは本当のことで、何か悪いことをしていたわけではないが、若気のいたりの生意気な態度と強すぎることから、悪口として言われていたものをそのまま使っているこというから驚きである。中国語圏でもメアリー・スー概念は著名なオタク用語らしい。


 ちなみにソネちゃんというあだ名は、蘇・瑪麗の音読みがソ・マレイであることから日本リスナーに蘇ネキと呼ばれたことがきっかけで、それが省略されてソネになったらしい。もはや原型をとどめていない。メアリー・スーだとほぼエゴサが不可能だったところについた個性的なあだ名だったため、リスナーも本人ももっぱらソネちゃんで通しているのだとか。


「元々virtualaを追いかけてて、結成当初にランたそが『新人もとりたい〜』って口走ってた段階で、爆速でDM送ったの。ミキママの娘になりたすぎて〜。そもそもStreamixストリーミックスからメインの活動場所をRealTubeに移そうと思ってたタイミングだったし。念願かなってこのバチボコに可愛い体で生まれてきたってわけね。嬉しい〜」


 彼女いわくゲーマーとしての腕に限界を感じ、ゲームの腕ではなく実況として楽しい配信をしようと方針を転換しようとしていたところだったらしい。Streamixストリーミックス時代から白い髪に赤い目のキョンシーの立ち絵は使っていた。


 ミキママことギンガミキさんのガチファンということで、virtuala加入により得た2Dモデルは大層気に入っているらしい。virtualaの演者、スタッフ全員が見えるチャットにモデルの画像を何百枚も誤爆していたのでミキさんのイラストへの愛は深いようだ。


「チラッと話したけど、母国語は広東語だけどバーチャル日本在住で、日本語も話せるよ! 配信は主に日本語でするけど、繁体字、簡体字、英語は読めるからどんどんコメントしてね。需要があったら他の言語の枠もやろうと思ってるよ」


 香港出身の彼女は、現在大学で経済学の勉強をしているらしい。プロとも交流があったほどのゲーム、特にFPSの腕前と、母国語の広東語、ネイティブなみの日本語を操り、いわゆる中国語(普通話)と英語も堪能という高い言語能力は、身も蓋もないことをいえばなぜ小規模なvirtualaに、と疑問に思うほどのスペックだ。言語能力に関していえば、繁体字と簡体字と日本語漢字の全てが読み書きできる漢字マスターでもある。


 家庭の事情でデビューが遅れに遅れても、美宇が高待遇で迎え入れたことは不思議でもなんでもないだろう。virtualaデビューの意志は固く、デビューが遅れたのは本当に家庭の事情から。デビュー前に暴露があっても、クロノが炎上しても、その意志は揺るがなかったようだから、よほどミキさんのファンなんだろう。


 私があまり見ないFPS系のゲーム実況配信者、という私にはあまり縁のない人だったので、ちょっと警戒していたのだが、virtuala愛が高じての加入であることが、今見ている初配信からもわかるので、一安心である。


 彼女のマネージャーとは少しだけチャットで話した。多言語配信者であること、今までいないゲーム実況がメインのVtuberであることを加味して、もともとゲーム実況者の手伝いをしていた中国語ができる人が専属でついている。


「好きなものはゲームと日本のアイドル! アイドルの夢は儚く消えたほど筋金入りの音痴だけど、いつか歌枠もできたらいいな。StreamixではFPSが中心だったけど、RealTubeでは他のゲームも積極的にやりたい! 視聴者参加型も企画してるから、ツブヤイターをフォローして、情報をチェックしてね!」


 さりげなくSNSのフォローを促すのが上手い。流石は経験者と言ったところか。初配信ながら、チャンネル登録者もぐんぐん伸びている。同接も多い。


「嫌いなものは指示厨とチーター!」


 それは、そう。ちょくちょく共感ポイントが。一期生になるかもしれなかったとはいえ、他の人とは事情が違うことからシークレット枠扱いだったり、マネージャーが私が代打になる前から別の人を探していたり、みっくんや大輝とは別枠だった彼女。この配信を通じて、急に親近感が湧いている。


 スライドを使った自己紹介、かつデビュー前に正体がバレないように、ショートでもツブヤイターでも姿と声を公開していなかったにもかかわらず、数字の面から言えば、感情交差点の初配信よりもだいぶ盛り上がっている。むしろ姿も声も明かしていなかったからこそ、見に来る人が多いのだろうか。


 箱の新人というだけで、箱推しは見に来るのだから、声はデビュー配信でお披露目の方がいい、というのは、大きな規模の企業勢では常識である。でも感情交差点の二人は、ツブヤイター稼働からデビュー配信まで間延びしてしまったこともあり、箱推しの熱が冷めかけていて、デビュー前にショートでの自己紹介をしてもらっていたのだ。それはそれで戦略としてはアリだったと思っているけど、この盛り上がりを見ると、お披露目から一気呵成にデビュー配信の方が良い流れだったのかな、なんて考えちゃうなぁ。


 私はただのオタクであって、マネジメントに関してはど素人である。配信の方向性を決めるのがマネジメントに関係あるかは置いておいて、もっと専門知識がある人が運営にいた方がよかったんじゃないか、と思うことはたくさんある。専門知識がある程度あった旧マネージャーが失踪して、急遽、私が入社したから仕方がないことなんだけど。


 クロノの一連の騒動は、配信初心者のみっくんが抱えていた、個人情報の取り扱いなどネットリテラシーの欠如を、運営がうまくサポートできなかったことが原因なので、ちょっと責任を感じてもいる。みっくんは元バンドマンで、サブカル方面には明るいけど、Vtuberオタクに多いアニメ・漫画・ゲームを好みインターネットにどっぷりな、ザ・オタクな人種ではない。本人は、陰キャはアニオタの専売特許ではないから、自分はサブカル陰キャでオタクと対立する人種ではない、的なことを言ってたけど、オタクサイドとしてはシンパシーを感じにくい人物ではある。でもそこが魅力でもあると思うので、インターネット知識など足りないところを運営がうまく補えれば、もっと堅実な活動ができたのではないか、なんて、タラレバを言ってもしょうがないけど。


 それに、オタクなら安心かと言われればそうではない。オタク構文丸出しの私みたいなのが、Vtuberできるかと言えばそうではないのと同じ。何気なく人種という単語をネットミームの文脈で使ってしまったけれど、外国人がデビューした企業でミームの文脈の『人種』は不適切かもしれない。


 どうにかならないかなぁ。


 内部事情なんて知りようがないので真偽は不明だが、大手ではコンプライアンス研修が必須らしいし、その手の講義を受ける機会を設けてもらった方がいいんだろうか。いや、でも、私や大輝はともかく、みっくんが講義を真面目に聞くかわかんないけど……。


 「よかったら、チャンネル登録とグッドボタンをお願いします。如果有興趣嘅話,請挍like同埋訂閱我嘅頻道噬! Thank you for listening」


 かわいい見た目、聞き取りやすい声、加えて多言語を操り、なおかつオタクも親しみやすさを感じる日本インターネット界隈への理解度の高さ。受けないはずがない大型新人は、個人からの加入という点を加味してもなお期待を上回る大躍進を遂げ、初配信を終えた時点でチャンネル登録者一万人超えという、virtuala初の快挙を成し遂げたのであった。

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インターネット・バケモノズ〜バーチャルの裏側のラブ&コメディ〜 刻露清秀 @kokuro-seisyu

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