毒虫

うろこ道

毒虫

 地虫じむしのもそもそというかたくちがあまりにも間が抜けていて、トウト鳥は寒椿かんつばきの緑ばかりの枝葉の中からひょいと顔を出し、小ばかにしたようにあはあはとわらった。

「ばかな地虫め。ついばんでやろうぞ、ついばんでやろうぞ」

 地虫は黒々とぬめった土から重たい頭をもぞともたげ、トウト鳥を見上げた。

「食えるものなら食うがいい。吾が身には毒がある」

「うそを言え。おまえの肉は臭いだけで毒などありはせぬわ」

 トウト鳥は白い喉をそらし呵呵かかわらった。

 地虫はさも悔しげにそのしろめつけると、吐き捨てるように言い放った。

うらめしおまえを殺すために、今日まで溜め込んできたのじゃ。腹のくちぬ毒のつゆをのみ、苦い土を食ろうてきたのじゃ。ほうら、食うがいい、食うがいい」

 地虫のくぐもった声音こわねすごみをおびて、トウト鳥をおびえさせた。

「そろそろ北の一番風が吹く。おまえの相手などしてはおれぬ」

「いずこへ往くか」

「南方じゃ。あたたかな極楽浄土じゃ。おまえは死ぬまで冷えた黒土くろつちの中に居ればよい」

 地虫は何故なぜじゃ如何どうしてじゃと身をよじって土の中を転げまわった。

 その拍子に、やわい皮膚がずるりと剥けた。

「トウト鳥よ。食うと言うたではないか」

「おまえのくさい肉など食わぬ」

「食うてたもれ、吾はそなたのために胃の腑を毒で満たしてきたのじゃ。触れるだけでいいのじゃ」

 地虫はうちの毒におかされ、ぶすぶすと嫌な臭いを立ち上げて解け崩れていった。そのさも凄まじい様子にトウト鳥は身を震わせ、海老茶えびちゃの羽根をばさとひるがえすと、寒椿の若葉を二三叩き、はたはたと飛び去っていった。

 すでにまなこもとろけて身内に沈んでしまった地虫は、それでも泣きながら空を見上げ、請うた。

「からだがとけてしまう、食うてたもれ、食うてたもれ」

 くぐもった地虫の声はにごり、ぐぶぐぶと湿った音でしかなくなった。

 トウト鳥がむらさきの空に消えたころを見はからって、青い甲虫が土を割って這い出てきた。

「ばかな地虫め。言わねばわからぬものを」

 甲虫は口吻こうふんをのばし、地虫の腐った肉をぺろぺろと舐めはじめた。

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毒虫 うろこ道 @urokomichi

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