閑話 15年後のメイドの手記
あたしはリン。
元王妃付きのメイド兼護衛、今は隠居した元王妃のメイド長をやってます。
この国が転覆一歩手前までいった魔女マリーの起こした大騒動、通称「魔女の災典」から15年とちょっとが経過しました。
あれから皆がどうなったか、備忘録代わりに書き記しておきたいと思います。
まずうちの主人のティア様とその伴侶であるフィル様。
もうこの2人が胸焼けするぐらいラブラブで、特にティア様なんてご自分の健康も年も考えずに「フィルの子供を産んであげたいの」って言ってポコポコポコポコ子供産んで、この15年で双子込みで9人ですよ?ほんと何考えてるんですか?
そんな感じで一時期の領主の屋敷はもう託児所状態で毎日が戦争でした、今は大分落ち着きましたが…。
そしてその元凶の2人は流石に子供はつくらなくなったとはいえ今でも隙あらばいちゃついてます。
朝起きればキスをするし、どこか出かける時もいってらっしゃいとおかえりの時は絶対キス、キスキスキスの嵐。
子供が見ててもお構いなしなんで教育に悪すぎます。
そして生まれた子どもたちも、親がゴリゴリの魔法使いの血統のためかまあ魔法の扱いが上手いのなんのって。
そして生まれた9人が9人全員魔法使いなんてもうほんと相性良すぎて勝手にやってろって感じです。
特に長女と次男は既に両親を超える魔力を持っていて、長女のシンシアちゃんなんて魔力強化込みの腕相撲で奥様に勝利してましたよ。おおこわ。
そして嫡男以外の魔法使いを産んだ家に発生するのが嵐のような貴族間の婚約者の取り合いです。
魔法使いの魔力はそこそこの確率で子孫に遺伝するので、男だろうが女だろうが結婚相手には困りません。
旦那様なんかは次男に生まれていたら引っ張りだこだったと思います。
そんな状況ですから、既に9人のうち8人は婚約者が決まっているような状況で。
最速で生まれた次の日に婚約者が決まった子もいますから、どれだけ皆魔法使いに渇望しているかがわかります。
そしてその理由は「魔女の災典」以降、大きく変わったこの国のあり方が原因です。
あまりにも魔法に対しての対策がザルだった点を現王サイオン様は深く反省し、対魔力防御の研究の奨励と、魅了防止の為に防御研究が成熟するまでは魔法使いを要職に就かせる政策を取り、その一環で国中の魔法使いが王家に大量に採用されました。
魅了されて使い物にならなくなった文官や武官の穴を埋めるねらいもあったみたいです。
しかし当然、急に王宮のルールを知らない魔法使いが増えればいざこざも増えるわけですし、魔法使いを急に出世させれば元からいた人たちは良く思わないわけで。
そんな感じで思い上がった連中を軒並み叩きのめしていたのが旦那様です。
旦那様は基本的に王都出入り禁止だったのですが『政治情勢を鑑みて』という便利な方便でわずか1年でその罪はなかったことになり、ちょくちょくと王都へ呼びつけられて魔法使いに対して実力差をわからせた上で教育をしたり、純粋に座学を教えたりとかなり忙しくされていました。
元いた人たちからもフィルバドールが対処するのであれば、という信頼を元々勝ち得ている点も重用された理由の1つです。
王宮務めの人は旦那様の功績を知ってる人ばかりですからね。
まあその忙しさもティア様からサイオン様宛に「フィルは私の物なので即刻返しなさい」というブチギレ文書が投擲された事でかなり仕事量が軽減されるわけですが。
そしてサイオン様が直面したのが「真に頼れる魔法使いの数が少なすぎる」という点です。
いくら優秀な魔法使いがいるからといってその人が100%信用できるかというとやっぱりそこは違うわけで。
サイオン様が王になられた当時真に頼れると判断していたのは妻のミュレス様に旦那様と奥様、そして旦那様のお父様であられるバトラス辺境伯の4人のみ。
そこで目をつけられたのが旦那様と姫様の子供です。
9人全員強い魔力を持っていて血縁であり教育面も問題ない、という事で現段階で8人いるうちの4人は既に王宮で働く事が決まっています。
長女のシンシアちゃんはなんとサイオン様の長男…王太子の婚約者です。
血が濃くなりすぎるのでは?という話もありましたが現状を鑑みると致し方ないという結論になり、ゴーサインが出されたとか。
ああ、サイオン様とミュレス様も非常に仲が良いです、こちらはバカップルといった趣ではありませんが。
なんでもミュレス様から聞いた話によると元々最初からサイオン様はミュレス様を好いていたとか。
子供も5人生まれ、うち2人が魔法使いの素質ありという事らしいです。
…うちがおかしいだけで普通はこんなんですからね、確率的に。
旦那様のところも3人兄妹で魔力持ちは旦那様1人ですし。
そしてその旦那様の故郷であるエニュオ領ですが、弟君にあたるトーマス様が何事もなく治めてらっしゃいます。
そしてエニュオ領には次男のカノン君がトーマス様のご息女と婚約して嫁ぐことになっています。
そして自動的にカノン君は時期辺境伯に内定。
なにせまだまだ元気とはいえ、エニュオ領の治安維持はバトラス辺境伯に一任されている状況。
その役目をカノン君が担う事を期待されるという訳です。
こちらも血統の濃さが話題に上がりましたが、ワシが死んだらどうするのだ?という辺境伯の言葉に誰も反対できず。
まあ、シンシアちゃんもカノン君もとても良い子達なので心配はいらないでしょう。
請われて婚約したわけですし、貴重な魔法使いですから向こうも下にも置かない扱いで迎えてくれるでしょう。
で、最後にあたしのことなのですが…一応、書いておきます。
わたしも34歳、もう少しで35歳になろうというどこに出しても恥ずかしくはない年増なのですが…現在、妊娠中です。
お相手は旦那様…ではなく、その長男のルバート…つまりこの土地を継ぐ方です。
そしてその方は責任を取ってあたしと結婚すると仰っています。
つまりわたしは次期領主の妻になるわけです、えー…。
始まりはルバートが7歳の頃にいきなり「沢山考えたけどリンさんが好き」と告白してきた事にあります。
まあ長男ということもあって家族総出で甘やかしたのと、奥様が年子を量産していたのもあって触れ合う機会はわたしが一番多かったのもありますから、こういう事もあるだろうなと軽くあしらっていたのですが、どうも本気も本気だったようで。
ルバートが10歳になる頃には奥様から許可を取り付け、本人も気移りすることもなくあたしに一途で、実家も大賛成で早く子供を作れという流れになってしまい、気付けば一切逃げ場がなくなっていました。
私もここまでされると逃げるわけにもいかないので、腹を括って申し出に応じました。
…なんだかんだ言って結婚したかったのは事実ですしね。
そしてルバートの性徴を待って…こういう関係になった感じです。
そしてこの手記は将来ルバートがわたしに飽きたとかぬかして離縁や浮気をしたときに見せようと思います。
「浮気なんてするわけないじゃないか」
「うわっ!」
見られてた!
「うわじゃない、ぼくはリン一筋だよ」
「保険ですって…考えても見てください、あたしとルバートは奥様と旦那様以上に年の差があるんですよ」
「うちの親はさっきも庭先でずーっと抱き合ってたよ、年の差なんて関係ない。ああいう仲の良い夫婦になればいいんだよ、それに」
ルバートがあたしからペンを取り上げ、最後の行にシャッシャと斜線を入れてなかったことにしながら話を続けます。
「この結婚話はサイオン叔父さんも認めたものだからね、リンにOKを貰うために沢山の人に協力してもらったのにそんなことするわけないよ」
「…私が愛想つかすとは思わないんですね」
「思わないし、させないね…リンには母様みたいにぼくの子供を沢山産んで貰うから、皆で幸せになろう」
そう言って無遠慮に頬を撫でてきました。
まったくこの男は…。
まだ14歳だっていうのに誰に似たんだか。
…両方かな。
―――――――――――――――――――――――――――――
蛙の子は蛙というやつです。
よろしければコメントやフォロー、☆で評価して頂けると頂けると幸いです
やるだけやった男の話 ~平民の娘に国王ごと魅了された国をなんとか立て直す~ @ringegge
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます