第24話 シェール
2日目もトラブルなどはなく、御者が言ったよりも早い時間――午後2時頃に王都に到着した。……厳密には到着したのか微妙なところだが。
何故かというと、王都へ入るために通らなければならない門の前にいるからだ。
王都へ入るには16方位それぞれの名を冠する門を必ず通らなければならず、そこで検査などを受ける。人が多い場合は当然だが、自分の番が来るまで待つ。僕たちが門前に来る前に数人がいたため、兵士がその検査をしており、それが終わるまで待っているという訳だ。
ちなみに、王都の周囲は高さ4、5mほどの石の壁で囲まれている。それくらいなら不法侵入もできそうだが……きっと兵士が巡回しているのだろう。そして、検査では身分証明的なこともするらしい。
それについて気になることがあったので、家を出発した日の2日前にティグリスに聞いておいた。
それについてのティグリスの返答はこう。
「君の身分を証明する物? それは……これを見せて『特殊魔力可視鏡へ』と言えば良いよ。それで通れるはずさ」
ティグリスがそう言って僕に渡したのは、ガーネットのような透き通った深みのある赤色の……石だった。そう、変哲のないただの綺麗な石。少なくとも僕にとっては。だが、これで通れるらしい。
それから少し経ち、僕達が検査を受ける番になった。ソルデウスを始めとした面々は、板のような物を見せるとあっさりと門を通されていく。
そして、あっという間に僕の番が来た。5人の中では僕が最後である。……御者を含めると、最後なのは御者だが。
こんな石で門を通れるのか、と半信半疑で僕は兵士に例の石を見せる。
「特殊魔力可視鏡へ……お願いします」
僕がそう言うと、兵士の一人が例の石を持ってどこかへ行った。それから2分ほど経つと、例の石を返却され、門を通された。
……本当に通れた。まさかこんな石で通れるとはな。
ただの綺麗な石という訳ではないということが判明したものの、詳しくは分からない。まあ、僕には知らなくても良いことだ。あまり深く考えるのはやめよう。
***
僕達が、試験の結果が出るまでに宿泊することになっている宿は、学園側が管理している宿となっている。普段は普通の宿として経営しているそうだが、この時期になると受験生専用の宿になるらしい。収容人数は1軒で400人。それが10軒あるため、収容人数は合計4000人となる。
……そういえば、王立人材育成学園の今年度の受験者は1953人だったか。やはり、以前に聞いた時よりも少し増えている。宿の収容人数的には少ないように思えるが、全然少なくない。
そして、王立人材育成学園やその宿は王都の中でも外側にあるため、先ほど通った門――東門から馬車で1時間も掛からない。現在はその移動中だ。
「そういえば、その宿ってどんな感じなんだ? 俺、あんま知らねえんだよな」
「僕もあまり知らない」
ゼルシスもその宿についてはあまり知らないんだな。流石にソルデウス達は知っているだろう。そう思って、ソルデウスの方に視線を向ける。
「……はぁ」
何故かため息を
「知りたいなら『教えて』の一言ぐらい言えよ。まあ、伝われば別にいいんだけどな」
結局どちらなんだろう? 言った方が伝わりやすいだろうから、やはり言った方が良いのか。次からはそう言うとしよう。
「宿の名前は『シェール』と言うんだが……それくらいは知っているよな?」
「……知らなかった」
「ほーん、そんな名前だったんだなぁ」
またソルデウスから呆れた目で見られた。
「まあいい。話を進めるぞ。……『シェール』は1軒ごとに1号、2号……というような感じで、10号まである。部屋の数や設備はほぼ同じで、1室は4人まで収容可能で、人数に余裕があったら1人で使うこともできる。宿泊費は安い割に設備がしっかりしているから人気があるぞ。ちなみに、今回泊まるのは2号だ」
「大体分かったぜ!」
「教えてくれてありがとうな」
ソルデウスのお陰で『シェール』については分かった。……肝心の王立人材育成学園についてまだ詳しく知らないままだが。
吸血鬼の福音歌《ヴァンパイア・ゴスペル》 nulla @nulla
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。吸血鬼の福音歌《ヴァンパイア・ゴスペル》の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます