第74話 おまけ_バハムート1

 アンリと別れて、また自室に戻ろうとした。

 ここで、声をかけられる。


「ソーマ。その持っている蜜柑を分けてくれ」


「ナオト? 帰って来たの?」


 ナオトは、雨会婆アメーバ島の住人の一人だ。

 人の土地に出向いていたはずだけど、もう戻って来たんだ?


 僕は再度、倉庫へ移動した。


「とりあえず、10個ね。全員が集まったら分配量を決めよう」


「ああ、先に貰えるだけで十分だよ」


 〈固定〉を解除して、ナオトに蜜柑を渡す。

 ナオトは、近場に座って、食べ始めた。蜜柑の皮は、回収して再利用するので、集めて貰っている。七味唐辛子の材料の一つのはずだ。調味料になると期待しよう。

 僕も、ナオトの前に座った。


「お土産とかない? アンリにだけでも……」


「モグモグ。少し酸っぱいな。完熟前に収穫したみたいだな。それと……、お土産か~。贅沢を覚えさせるとさ、後が怖くね?」


 つまりは、お土産はないってことか。


「食事とかしてこなかったの?」


「う~ん。ハンバーガーを食って来たくらいだな。ソーマも出かけたんじゃないのか?」


 一個くらい買って来てよ、と言いたい。アンリが喜ぶと思うんだけどな。


「僕は……、海岸で目的のスライムを捕まえられたんでね。街までは行かなかったよ。それに、お金も持っていないしね」


 ここで、ナオトが袋を出した。

 僕に投げ渡される。


「結構重いね……。小銭?」


「俺のスキルを使って、街中に落ちている貨幣を集めただけさ。二千円くらいはある。紙幣は、俺が使いたいと思う。欲しいモノがあったら、言ってくれ。値段次第で買って来てやる」


「ナオトは、便利なスキルだよね。身分証さえあれば、僕でもリサイクルショップで換金できるんだけどな~。今の僕は、貨幣を得る手段がないから、なにも買えないんだし」


「しょうがねぇじゃん? この島の住人は、世捨て人なんだし。それと、ソーマは、考え方次第だと思うぞ? スキルを複数持ってんだし。時間あんだしさ、考えてみれば?」


「なにが、しょうがないの?」


 2人で声の方向を見る。


「なんだ、アンリか。蜜柑だけどさ、もう少し熟させようぜ。食べられなくはないんだけど、甘味が足らない」


 ここで、アンリがキレた。アンリのストレートパンチが、ナオトの顔面を捉える。

 ナオト……。ストレートに言い過ぎだよ。


「なんだとは、なんだ! それと私は、この酸っぱいのが好きなの!」


 アンリがスキルを使い始める。ナオトが逃げ出すので、周囲が壊れ始めた。倉庫とはいえ、数少ない建物を壊さないでくれ……。

 しょうがないので、僕はアンリを〈固定〉した。アンリが、空中で彫刻のように止まる。


「あはは。アンリは、ソーマにべったりだな~。いつも通りだ。戻って来たって感じだな」


 鼻血を出しながら言う言葉じゃないと思うんだけど……。


「からかうのもほどほどにね。ナオトを〈固定〉する場合もあるからね?」


「ああ。それと、連絡事項があった。バハムートが動き出したらしい。富士山周辺は、大混乱らしいぜ。場合によっては、『覚醒者』が集まるかもな。見ものかもしれないぜ?」


 バハムート……。五大モンスターの一体だ。

 富士山山頂に陣取っている。発生当初の登山途中では、スライム防衛隊を撃退した凶暴なモンスター。

 まず、飛べるというのがとても厄介だ。そして、物理攻撃が効かない。最悪なのが、ブレス攻撃だ。怪獣映画みたいに、炎を吐き出す。原理は分からないけど、可燃性の気体を吐き出しているらしい。

 スライムは、炭素結合を操る……。ロケットの液体燃料とは言わないけど、ガソリンくらいなら作れるんだろう。天然ガスやプロパンガスみたいな何かだと、読んだこともあったな。どこぞの学者が推論を立てていた。


 バハムートが発見された時は、炎を纏うモンスターだと思われていたけど、実際には、『温度を喰うモンスター』だった。攻撃を与え続けるたびに、エネルギーを与え続けていると気がついた時には、手遅れだった。

 その後、バハムートは移動を続けて、富士山山頂に陣取った。

 一説には、マグマを吸っていると言われている。噴火はないので、地熱かな……。

 それと、日光浴って話もあったな。


「どんな風に動いているか分かる?」


「近くの海で海底火山が爆発したらしい。噴火? まあ、小規模だけどな。それで、海の上で旋回しているって話だ。それと、不定期に、海岸と富士山山頂で休憩するんだとさ。移動範囲が広いので、被害が出ないように、苦労しているみたいだ」


 疑問に思ってしまう。モンスターは、海水を嫌う。

 スライム単体であれば別だ。モンスター化した後は、海水には近づかないはずだ。

 僕は、スライムを変質させて海上移動用のボートを作った。本当は、モンスター化した昆虫でも良かったんだけど、島から離れようとはしなかったので断念した経緯がある。


「そんでさ、アメリカと中国が軍を派遣しているらしい。まあ、海上封鎖だよな。日本海側だったら、戦端が開かれていたかもな。他国なら海に落とそうと画策するだろうし。その結果どうなるのかは、誰にも分かんないんだよ」


 スライムとモンスターの発生は、日本のみに留めたいのが、世界共通の認識だ。

 五大モンスターが、世界中に生まれ出したら、人類の文明の衰退を招く……。誰もが理解している。

 怪獣映画や、某有名ゲームみたいな世界になったら終わりだ。『一狩り行こうぜ』では、済まなくなる。


「ありがとう。覚えておくよ」


「五大モンスターに対峙できるのは、ソーマだけだからな。俺たちは、後方支援だ。行く時は、声をかけてくれ。もしくは、全員が集まってからだな」


 新しい体を手に入れて、スキルも手に入れた。

 だけど、まだ準備ができているとは言い難い。


「きゅっ!」


 ここで、ポイズンが来た。

 ニーズヘッグが、僕たちを呼んでいるみたいだ。

 アンリの〈固定〉を解除する。


「あれ?」


「アンリ。ニーズヘッグが呼んでるってさ、3人で行こう」


 アンリの矛先がこちらに来たよ……。





 ポイズンを肩に乗せて走る。

 島の中央にある『世界樹』まで競争になった。


「身体強化系であれば、アンリが一番だな」


 もう、人間の限界を超えている。

 オリンピックで、全種目金メダル獲れるんじゃないかな? 僕たちが遅いので、空中でクルクルと回っているし。


「遅いぞ……」


 ニーズヘッグ側からも来てくれたか。

 これで、時短になった。

 大森林の中で話し合いを始める。


「ポイズンが、呼んでいるとのことでしたが?」


「話は聞いているだろうが、バハムートだ。この島に呼ぼうと思う」


 討伐じゃないんだ……。それと、さっき聞いたばかりなんだけどな。


「生かす意味は?」


「あれは、殺せんよ。ソーマであれば、倒せるかもしれんがな。メタルと呼んでいた個体は、モンスターの天敵になりえるが、まだ取り返せてはいないのだろう?」


「バハムートに知性は、ありませんよね?」


「ないだろうな……。変温動物や鳥類に近い。熱源を探しているだけだ。他の大陸に移動されると面倒だから、保護しようと思う。もしくは、居場所の提供だな」


 人の領域の活火山に移動されたら、大混乱だな。

 この島の中央には、噴煙が上がっている山頂がある。

 バハムートならば、住めるとの考えなんだろう。


 一応、間違いはない。話に筋は通っている。


「そうすると、スライム防衛隊とアメリカ軍、中国軍に手を出させずにこの島に連れて来るのが命題ですかね。かなり難しそうだ」


「全員が揃えば、行けんじゃない? ソーマの〈固定〉なら問答無用なんだしさ」


「僕らが攻撃されるかもしれないんだよ。先にスライム防衛隊に連絡した方がいいかもね。僕たちは国籍もないので、人権もない。そうなると、信用もされないんだよ」


「む~。全部沈めちゃおうよ~」


 アンリが、物騒なことを言い出した。


「誰か、スライム防衛隊に連絡を取れるといいんですけどね」


「「ソーマ以外にいないじゃん?」」


 そうなるか……。

 山本さんが、妥当かな。序列一位の人は……、怖かった。


 いや……、他の人でも――いいか。他の『覚醒者』。

 見つけて貰うのがいいかもしれない。殴られるのを覚悟してだけど。

 まず、旧第六のメンバーが第一候補かな。いきなり旧第五のメンバーだと、殺されても文句を言えない。


 それだけのことをしてしまったんだと、今更ながら思い出した。





 才羽相馬とソーマは、若干の別人にしたいと思っています。

 続きを書くのであれば、

 ・ベヒーモス戦でなにがあったか

 ・バハムート戦

 ・序列隊員VS雨会婆アメーバ島勢力

 かな~。ヒロインをどうするか……。ハッピーエンドであれば、平屋の家に帰る描写で終わりになるのかな……。


 公開は、ここまでとします。

 次の投稿は……、コンテスト次第ですかね?

 去年からすると、ドラゴンノベルスかな?

 エタったらそこまでと思ってください。

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現代でスライムが発見されました~食べると若返るみたいですが、僕は変異種を食べて無双します~ 信仙夜祭 @tomi1070

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