第73話 おまけ_雨会婆島の生活1

「なんだ、アンリか」


「なんだとは、なんだ? 労いに来てやったのに」


 そう言って、アンリは、おにぎりを投げて来た。笹の葉で包まれている。


 ――パシ


 僕は、投げられたおにぎりをキャッチした。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 おにぎりに齧りつく。正直、美味しくない。塩を入れ過ぎだよ。具は、生魚だし。

 怜奈さんの料理が、恋しいな。


「もぐもぐ……、他の人たちは?」


「ニーズヘッグの依頼を受けて、出張してるね。今は、あたしだけ」


 ……まあ、大丈夫か。僕以外は、顔が割れていない――らしい。

 清潔な服装さえ手に入れば、彼等たちは人の街に紛れられる。

 お金が手に入れば、外食して来てもいいだろうし。


 それに、雨会婆アメーバ島で生まれ育ったわけじゃないんだ。

 常識くらいは、あるだろう。


 おにぎりを食べ終わった。

 僕もジャンプして、木の枝に掴みかかる。

 足元をスライムが埋め尽くして、歩けなかったからだ。


 木の枝を移動して、アンリの近くに移動する。


「報告事項とかある? 連絡かな?」


「う~ん。蜜柑が生ったくらいかな? 畑は、まだ先だね」


 正直、物資不足だ。

 麦畑と米の田んぼは作ったけど、収穫は微々たるものだ。農業は、経験と知識だよね。

 タンパク質は、海魚が主だ。

 それと、ビタミンが足らない。野草とキノコを食べているけど、我慢にも限界がある。考えないといけない。


「そんじゃ、休むね」


「む~。つまらない奴だな……」





 島のかろうじて残っていた建物に移動する。

 屋根があるだけでも、十分だ。

 電気、ガス、水道はないけどね。2年もいると慣れた。


 僕の個室で、ベッドに横になる。


「何時まで、この状況が続くのかな……」


 ニーズヘッグの依頼を熟す……。それは、人族の混乱を引き起こさないことに繋がる。

 僕にとっても、多少の利益がある。


「政府のAIは、僕に不干渉を望んで来たってのが、問題なんだよな……」


 今更、戻ろうとは思わない。

 人として生きるのは……、興味がない。

 スライム研究は――楽しいとさえ言える。現状は、食べ物以外に不満がない。


「交流……、無理か。絶縁状を突き付けられたんだものね。八雲さんと情報交換だけでもしたかったけど、それすら無理になったんだよな」


 しばらくは、雨会婆アメーバ島から出ない方がいいと思う。

 今日は抵抗しなかったから、軽い拘束で終わったけど、撃たれたら、抵抗しないといけない。

 そして、今の僕は、スライム防衛隊とでも渡り合えるほどのスキルを抱えている。


「序列一位の……市ノ瀬さんか。衝突したら、勝てるかな?」


 最悪の未来を想像してみる。

 まあ、本気出せば、互角ぐらいには持ち込めるだろう。

 そうなれば、雨会婆アメーバ島の他の住人がいる。連携すれば、研究所一つくらいは、潰してしまいそうだ。


 嫌な未来を想像してしまった。


「人は、理解できないモノに恐怖を抱くんだったよな。そうなると、雨会婆アメーバ島だけじゃない、僕も不気味な存在になっているんだろうな」


 まあ、衝突は避ければいい。スライムの扱い方だけなんだ。食べるか、保護するかの違いだけだし。

 深海に帰すと、その後の足取りが辿れないので、行えていない。


「スライムの管理……、問題はそれだけなんだ」


 僕は静かに瞼を閉じだ。少し休もう、考え過ぎだ。


 ――ドス


 誰かが、僕のお腹に乗って来た?


「アンリ? 個人の部屋には立ち入らないルールだよ?」


「ほい、蜜柑。つまんないソーマへ」


 口に蜜柑を押し付けられる。せめて皮を剥こうよ。

 アンリは、かなり前から雨会婆アメーバ島にいるらしい。

 理由は分からないけど、島からは出ない。本人が望まないと聞いている。

 主に農業を担当して貰っている。見て貰っている……、かな? 任せきれていない部分が多い。水撒きをお願いしたら、水たまりを作っていたし。

 それと、年頃になったみたいだ。異性に興味が出て来たんだろうな。見た目は、14~15歳くらいだ。


 僕はアンリと共に、ミカン畑へ向かった。



「結構収穫したんだね」


「そそ。〈冷凍〉してよ。〈時間停止〉でもいいよ?」


 そのために、僕の部屋に来たのか。

 右手をかざして、蜜柑を〈固定〉する。これで腐ることもない。僕なら何時でも取り出せるしね。冷凍保存より、いい状態で保存できる。


「にしし、ありがとう」


 アンリが、抱きついて胸を当てて来る。

 ご褒美のつもりなのかな……。膨らみ始めて、まだ育っていないので嬉しくないな。それと、誰の入れ知恵なのか。

 頭を掴んで引き剥がす。


「む~。痛い、痛って!」


「とりあえず、全員戻って来たら、分配しようか」


 まあ、他の人はお金を稼いで、街で食事して来そうだけどね。

 お土産で、アンリの機嫌をとって貰おう。

 お土産……、買って来るよな? 僕は、忘れたけど。

 いや、人の街に立ち入る気がないので、アンリのお土産は無理だったな。

 お金もないし。


 言い訳が多いけど、少し考えるか。





 人外ヒロインが、いいのでしょうか……。

 この場合は、マーメイド?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る