第72話 おまけ_帰って来た雨会婆島

 とりあえず、人間側からの妨害はなかった。人工衛星から監視されていそうだけど、妨害もなく、雨会婆アメーバ島に帰って来れたのだ。

 僕は、雨会婆アメーバ島に降り立った。


「僕は、人類の敵に認定はされていないんだな……。変異種のスライムとは認識されていないと考えようか」


 まあ、考え過ぎか。

 理解できない存在だろうけど、人類は僕に攻撃はして来なかった。その結果が重要だ。


「「「きゅっ!」」」


 スライムたちが、騒いでいる。


「んっ? ニーズヘッグが? 僕を呼んでいるの?」


 少しだけ、スライムとも意思疎通出来るようになって来た。なんとなく、言語での会話が成り立って来た。

 どうやら、呼ばれているようだ。怒っているのかな?


 森の中を進む。

 考えていると、ニーズヘッグが現れた。

 向こうから来てくれたか。


「ただいま戻りました」


「なにをしていた? 何故、わざわざ捕まるようなまねを……」


 時間にして5時間程度、遅れただけじゃない?


「ちょっと、知り合いがいましてね。それと、情報を貰って来ました」


「……戻らなければ、こちらから撃って出るつもりだったのだぞ!」


 ニーズヘッグは、僕を助けてくれるのか?

 まあ、まだ頭の上に乗せている少女は、自我が目覚めていない。


「僕の不注意でした。今後は、第五……今日向かった場所と、ベヒーモスがいた東京湾は、なるべく避けてください。二度目は……、危ないかもしれません」


「回答になっていないが?」


 遅かれ早かれだ。


「人間側としては、僕に興味はないみたいです。利益も不利益もない……、そう判断されました」


「……血肉を分けた者は、いないのか?」


「一番、僕に興味のない人たちですね」


「……そなたが、分からんよ」


 ニーズヘッグは、血縁っていう概念を持っているんだな。





 檻から、捕獲したスライムを出す。


「さあ、今日からここがお前の住処だよ」


「きゅ?」


 スライムは、フラフラしながら森を散策し始めた。

 途中で、昆虫たちが寄って来たけど、食べることはしない。


「適正が、ないんだな……。怖い能力スキルでなければいいんだけど」


 調べないといけない。


「少し貰うよ」


 スライムの一部分を指で掬う。

 それを、舐めてみる……。


「……こいつ、ヤバいタイプだな。捕まえて正解だった」


 人の住む世界で、また『覚醒者』が生れるところだった。それも、危険なタイプが。


 スライムを膝に乗せて、僕も一休みすることにした。

 水筒から水をかけてあげる。僕も水を一口飲んだ。


「僕も大分、生水に慣れたよな」


 殺菌されていない水……。それしか手に入らなかった。

 でも、新しい体は、すぐに対応してくれた。腹を下すことはなかったんだ。

 まあ、離島とはいえ、日本の水なんだ。江戸時代以前は、飲んでいたはずだ。


「きゅ~~」


 新入りのスライムが、気持ちよさそうに体積を増やす。

 正直、処分が正しい。

 だけど、ニーズヘッグは、良しとしなかった。


「スライムの突然発生……。理由が分からないけど、ニーズヘッグは、感知できる。今は変異種だけを捕まえに行っているけど、それも完璧じゃない。沖縄から北海道までは、カバーしきれていないのが現状だ」


 ニーズヘッグの思惑が、分からない。


「変異種だけでも保護したいって、言われてもね」


 それと、少女のクローンだ。上手くいかない。

 研究所に残されていた設備……、まあ顕微鏡とかだけど。それと、スライムを使って2体作ったけど、目覚めることはなかった。

 禁忌に触れている気もするし、気が引けるのが本音だ。


「なんか、いろいろと進まないよな……。五大モンスターの討伐もだ。力をつける必要があるけど、この方法で良いのかどうか……」


 新入りのスライムは、ウロウロするだけだ。種類によっては、樹に取り込まれるのだけど、そんなタイプではなかったらしい。

 スライムを抱える。

 僕は、立ち上がって川に向かった。



 川で新入りのスライムを放す。


「「「きゅっ?」」」


 他のスライムが、集まって来てしまった。


「この、スライムに好かれる体質も、改善出来ないもんかな……」


 足元が、スライムで埋まっているよ。


「いい傾向じゃない? 変異スライムも、大分増えて来てるんだしさ。島のモンスターもソーマに従っている。なんか問題あるの?」


 上を向く。

 この島の、同居人の一人が、木の枝に乗っていた。

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