第71話 おまけ_序列一位

 序列一位?

 第一研究所の人?

 黛さんの、100倍の討伐数を誇る人だ。


「序列一位の人が、わざわざ……。僕のために?」


「記憶が……、あるんだな? 肉体は、確実に灰にしたと聞いたが……」


 あ~、試されていたか。

 それと、カメラとマイクもありそうだな。外で、偉い人と怜奈さんが見ていそうだ。


「僕からの質問は、受け付けてくれませんよね?」


「まあ、そうなる」


「それでは、答えられる範囲で答えます」


 序列一位の人は、ため息を吐いた。


「話が早くて助かるよ。まあ、なんだ。雨会婆アメーバ島でなにしてるかだよな。お前が乗っていたスライムが、雨会婆アメーバ島から出入りしてるのを確認してから、上は大慌てなんだよ」


「う~ん。ニーズヘッグが、依頼を出して来ましてね。それを手伝っています。今回は、変異したスライムの捕獲でした。僕の乗って来たスライムを変形させて捕獲していますから、確認できると思います。檻の中に入っています」


「ほう? ニーズヘッグと意思疎通が、出来るのか?」


「そうなります。多分ですけどニーズヘッグには、人間並みの知性があります」


 声を出すのは別な少女だけど、それは伏せておこう。伝えても意味がない。


「そのニーズヘッグが、才羽相馬が帰って来ないと知ったならば、どんな行動をとると思う?」


 ニーズヘッグの行動か……。読めないんだよな。

 まず、少女の〈再生〉が終わっていない。今、人間側の技術を持っているのは、僕だけでもない。研究者向きなのは、僕だけだけど。

 それに依頼として多いのは、変異種のスライムの捕獲だ。

 返答に迷うな……。


「奪い返しには……、来ない……かな?」


「は~。そこは、『来る』と言えよ。そんなんじゃ、何時まで経ってもこの塀の中だぞ?」


「もしかして、嘘が分かります? そんな能力スキルを持っている?」


「手の内をバラしても、意味ないんだがな。俺の能力スキルは、〈ステータス〉だ。あらゆるモノを言語化と数値化できる。〈鑑定〉で数値化して変更だな。それと、嘘発見器か……。まあ、想像力次第なんじゃないか?」


 おやまあ……。正直な人だ。

 それと、〈ステータス〉か……。能力スキル頼りの僕にとっては、相性が悪いかもしれない。ゴングと同時にノックダウンさせられるのが落ちかな。

 レベル差というか経験値が、桁違いだと思う。


「なあ、そんな拘束具は、意味ないんだろう? 腹を割って話そうぜ」


 う~ん。抵抗の意志を見せるつもりは、なかったんだけどな。

 〈炎〉を纏って、拘束衣を燃やして行く。新しく獲得した僕のスキルだ。焔さんの能力スキルが近いかな。


「まあ、そうなるわな。『覚醒者』をそんな服で拘束出来るわけもない。これで、落ち着いて話せる」


「飲み物をなにか、貰えませんか?」





 とりあえず、聞かれたことに答えて行く。

 正直、雨会婆アメーバ島は、僕にも未知の領域だ。

 明確な答えは返せていない。


「とりあえず、ニーズヘッグに領土拡大の意志はないと……。それしか分からないんだな。人間との共存を望んでいると考えている?」


「……ベヒーモスを雨会婆アメーバ島まで連れてきてくれれば、僕が処理しますよ? それと、スライムの突発的発生ですね。それを止めたがっています。人間側の思惑とも一致していると思います」


 引っかけてみる。


「ああ……。ベヒーモスは消滅した。お前の手柄だよ」


 駆け引きにもなんないな。

 でもそうか、良かった。ベヒーモスは討伐出来ていたか。

 僕が倒したのかは、重要じゃない。今、いないことだけ聞けただけでも十分だ。


「ついでに言うと、第五の5人は、東京湾にいる。第八研究所の建設に参加して貰っている。お前が死亡してからちょっとあってな。労役みたいなもんだ」


「……」


 この一位の人の思惑はなんだ?

 僕の欲しい情報を、話していいのか?


「僕の生存は……、伝えないでください」


「無理じゃね? 今頃、特秘回線で見てると思うぞ?」


「黛さんが来ない時点で、信憑性がないですね」


「まゆずみ……、第五の空間魔法使いか。そうだな。知られれば駆けつけているかもな」


 もしかして、黛さんは、日本中を逃げ回っている? 現在あの5人は、どうなっているんだろう……。

 ここで、誰か来た。


「……久しぶりだね」


「山本さん?」


 第五研究所の責任者が来た?



 牢屋から出された……。

 3人で歩きながら話す。何故か僕は、解放されるみたいだ。

 歩きながら、理由を聞いた。


「僕は……、邪魔だと?」


「そうなる。政府の使っているAIの計算結果が出た。早急に解放した方がいい――とね。修復作業中なので、ここまで時間がかかったよ」


 AI……、あれか……。信用ならないんだよな。

 民間も、『的中率』を検証していたっけ。だけど、たまに未来予測を当てるので、無下にもできない。条件さえ揃えば、経済学者を超えるんだそうだ。

 でも、修復中なんだ? バグ修正でもしていたんだろうか?


「八雲さんは、今どうしていますか? いくつか、研究に役立つ情報を渡したいです。口頭でもかまいません」


「君に、生前に面識のあった『覚醒者』を会わせるべきではない。そんな結果なんだよ」


 どんな計算結果だよ。利益も不利益も受け取らないのか。


「う~ん。後は……、メタルは生きていますか? 僕の飼っていたスライムです」


「ああ。活躍して貰っている。〈無効化〉だけだか、使える者がいてね。重宝されているよ。〈強化〉も望まれていたんだけどね。そして悪いが、才羽君に返せないのだ」


 メタルは、生きてくれれば不満はないかな。触れさせてくれれば、僕はまた〈崩壊〉が使えるけど、会わせてくれそうにない。〈固定〉と〈崩壊〉が揃わないと、僕の本領は発揮できないけど、諦めてもいる。

 後は……、ないかな。親兄弟には、興味がない。


 僕の戸籍について聞いたのだけど、抹消されているのだそうだ。ちなみに死因は、モンスターの突発発生に巻き込まれた――になってんだそうだ。


「ほれ、前を向いてみな」


 視線を向ける……。顔を――上げる。


「怜奈さん……」


 怜奈さんが、出口みたいな所で待っていてくれた。バツが悪そうだな。視線が泳いでいる。


「相馬さん……。本当に、相馬さんなんですか?」


「う~ん。やっぱり、別人になるんだと思います。記憶は、引き継いでいるんですけどね。肉体と魂が、違うというか」


「……私には、分からないですよ。判別がつきません」


「もう、2年経ったのですね。その看護師の制服、似合ってますよ。出来れば、スライム防衛隊のエンブレムのない制服が見たかったんですけどね」


 怜奈さんは、困惑している。

 僕も冷静になって来た。怜奈さんに触れたいという欲求は、なくなっていた。


 ――ゴン×2


 序列一位と山本さんが、僕を殴って来た。


「「少し、女心を学んで来い!」」


雨会婆アメーバ島に、女性はいませんよ?」


 ちょっと嘘を混ぜる。

 いるっちゃいるが、恋愛対象外だ。それに、存在を知られたくない。人間は、僕だけが住んでいると思わせたい。日本の人工衛星が何処まで捉えているかは分からないけどね。


「あはは……。やっぱり、相馬さんですね」


 怜奈さんが、笑ってくれた。

 僕には、これだけで十分だ。


 研究所を出て、海岸まで歩く。

 移動用のスライムが、待っていてくれた。


「攻撃は、しないんですね……」


「我々とて、スライムを見境なく殺したいわけじゃないんだよ。モンスター化したら、やむなく処分だけどね」


 山本さんは、信頼できそうだ。


「元第五の5人には、よろしく伝えてください」


「さて……。どう伝えたモノか」


「それと、怜奈さん。看護師を頑張ってください。スライムの暴れない世界……。もしかしたら作れるかもしれません。僕は、そんな世界を創ってみたいと思います」


「相馬さん……」


 怜奈さんは、泣き出しそうだ。

 抱きしめてもいいかもしれないけど、映像に残ってしまう。それは、怜奈さんの将来に悪い影響を与えそうだ。それも、多大にだ。


「それと……、最後に名前を教えて貰えませんか?」


 序列一位の人を見る。


「市ノ瀬だ。もう会わないことを願うよ」


 今日の最大の収穫は、この人に会えたことかな。


「一応……、言っておきます。僕の最大の目的は、三体の五大モンスターの討伐になります。ニーズヘッグは、スライムの突然発生を止めたいみたいです。特に核のあるスライムですね。変異種と呼ばれているスライムです。メタルみたいに知能がある個体が、含まれているんですよ。今は、事前察知して保護しています。上陸許可は下りないと思いますが……、また来ます」


 全員が、驚いた表情を見せた。

 一礼をする。


「それではこれで……」


 その後、僕は移動用スライムに乗って帰路に着いた。



雨会婆アメーバ島が、動いていないといいな」

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