第70話 おまけ_不注意で捕まりました
先行して2章の冒頭を少しだけ、公開します。
◇
僕は移動用のスライムから降りて、海岸に降り立った。
地形は崖ばかりだ。足を滑らせると危ないな。
眼を閉じて集中する……。
「きゅぅ~?」
見つけた。今回の目的の変異スライムだ。
人の街での発生じゃなくて助かったな。まだこの場所ならば、人目がない。
急いで移動して、捕獲する。
「今日は、これで終わりでいいかな?」
とりあえず、変異種のスライムは確保出来た。ニーズヘッグからの依頼だった。
移動用のスライムには、檻がある。その中に捕まえたスライムを入れる。
見つかる前に帰らないといけない。
僕はスライムに乗って、
あまり、人の住む土地で活動したくない。監視カメラがあるだろうし。見られていると思った方がいいよな。
「スライムライダー……いや、スライムボートかな? 発想さえあれば、新規にスライムを作れるのは、助かっているんだよな。飛ぶスライムは、今後に期待かな……」
本当に、便利生物だ。陸上も水上も移動出来るのであれば、とても重宝する。
時速30キロメートルでも実用性がある。
海に向かって移動を開始した時だった。
「…………!」
――音を拾った。
人の声だった。
反射してしまった。
そちらを向いてしまったんだ。
「相馬さん!」
「怜奈さん……」
――ドクン
心臓が高鳴った。いや、体じゃない。魂が震えた――そんな感じだ。
生れて初めての感覚。
気がつくと、僕はスライムから降りて、怜奈さんに駆け寄っていた。
パルクールと呼べる動きで、河原と崖を進んで行く。
後少し……、もう少しで怜奈さんに触れられる距離まで来た。
……ここで、視線が合った。
「止まれ!」
誰かも分からない、静止命令を受ける。
僕は、足を止めた。怜奈さんにあと一歩で触れられる距離だけど……、その一歩が――出なかった。
周囲を見渡すと、無数の銃口が僕に向けられている。
そして……、怜奈さんは……、怯えていた。
信じられない――目が、そう物語っていた。
そうだった、僕は死亡したことになっていたんだ。なにを錯乱していたのか。
僕は、怜奈さんに向けた手を降ろした。
その後、手錠を受ける。
抵抗は……、しなかった。
◇
僕は、スライム防衛隊に捕まってしまったみたいだ。犯罪は犯していないけど……、罪状というのであれば、不法侵入かな? 戸籍も国籍も持ってないしね。
拘束衣というのかな? 手足が動かない。それと、猿ぐつわだ。声も出せない。
目隠しがないのは……、なんでだろう?
周囲を見渡す。
『かなり厳重な牢屋みたいだな……』
多分だけど、『覚醒者』用の施設なんだろうな。
セラミック素材の壁と床。
牢屋の格子には、電流が流れていそうだ。
トイレをどうするか……。何時間このままなんだろう……。
『今日は、第五研究所近くだったのか。迂闊だったな』
海岸だけの移動だったので、気がつかなかった。体の弱かった以前の僕は、砂浜しか知らない。地形から第五研究所を連想出来なかった、僕の失敗だな。
これからのことを考える。
ニーズヘッグが、どう動くかだよな。正直、思考が読めない。助けてくれるのか、見捨てるのか……。助けてくれるのであれば、全面戦争になってしまう。
考えていると、誰かが入って来た。
「お前が、才羽相馬か……」
猿ぐつわを外してくれた? なんだろう、この人……。
「ありがとうございます。それと、ちょっと訂正を。僕は、才羽相馬から作られたクローン体です。本人は、死亡したと思います」
「どうでもいいよ。意思疎通が、出来るんだろう? 本体とか意味がない。もういないからな。つうか、俺の仕事を増やすなよ」
なんだこの人……。情報を提供しているつもりなんだけど。僕に興味がない?
ぶっきらぼうな性格に感じるだけ?
「え~と、どちら様ですか?」
「序列一位で、通じるか? わざわざ呼ばれたんだよ。暴れないでくれよな?」
――ゾク
その言葉に、背筋が冷えた。
前から興味を持っていた人物が、会いに来てくれた。この人だったのか。
そうだ、未知の存在である僕を尋問するのに、これほど適した人もいない。
逃げ出す気はなかったけど、逃げられなくなったのか。
少しの不注意で、大事になってしまったんだな。
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