第70話 おまけ_不注意で捕まりました

 先行して2章の冒頭を少しだけ、公開します。





 僕は移動用のスライムから降りて、海岸に降り立った。

 地形は崖ばかりだ。足を滑らせると危ないな。

 眼を閉じて集中する……。


「きゅぅ~?」


 見つけた。今回の目的の変異スライムだ。

 人の街での発生じゃなくて助かったな。まだこの場所ならば、人目がない。

 急いで移動して、捕獲する。


「今日は、これで終わりでいいかな?」


 とりあえず、変異種のスライムは確保出来た。ニーズヘッグからの依頼だった。

 移動用のスライムには、檻がある。その中に捕まえたスライムを入れる。

 見つかる前に帰らないといけない。

 僕はスライムに乗って、雨会婆アメーバ島へ移動することにした。

 あまり、人の住む土地で活動したくない。監視カメラがあるだろうし。見られていると思った方がいいよな。


「スライムライダー……いや、スライムボートかな? 発想さえあれば、新規にスライムを作れるのは、助かっているんだよな。飛ぶスライムは、今後に期待かな……」


 本当に、便利生物だ。陸上も水上も移動出来るのであれば、とても重宝する。

 時速30キロメートルでも実用性がある。

 海に向かって移動を開始した時だった。


「…………!」


 ――音を拾った。

 人の声だった。

 反射してしまった。

 そちらを向いてしまったんだ。


「相馬さん!」


「怜奈さん……」


 ――ドクン


 心臓が高鳴った。いや、体じゃない。魂が震えた――そんな感じだ。

 生れて初めての感覚。

 気がつくと、僕はスライムから降りて、怜奈さんに駆け寄っていた。



 パルクールと呼べる動きで、河原と崖を進んで行く。

 後少し……、もう少しで怜奈さんに触れられる距離まで来た。

 ……ここで、視線が合った。


「止まれ!」


 誰かも分からない、静止命令を受ける。

 僕は、足を止めた。怜奈さんにあと一歩で触れられる距離だけど……、その一歩が――出なかった。

 周囲を見渡すと、無数の銃口が僕に向けられている。


 そして……、怜奈さんは……、怯えていた。

 信じられない――目が、そう物語っていた。

 そうだった、僕は死亡したことになっていたんだ。なにを錯乱していたのか。

 僕は、怜奈さんに向けた手を降ろした。

 その後、手錠を受ける。


 抵抗は……、しなかった。





 僕は、スライム防衛隊に捕まってしまったみたいだ。犯罪は犯していないけど……、罪状というのであれば、不法侵入かな? 戸籍も国籍も持ってないしね。

 拘束衣というのかな? 手足が動かない。それと、猿ぐつわだ。声も出せない。

 目隠しがないのは……、なんでだろう?


 周囲を見渡す。


『かなり厳重な牢屋みたいだな……』


 多分だけど、『覚醒者』用の施設なんだろうな。

 セラミック素材の壁と床。

 牢屋の格子には、電流が流れていそうだ。

 トイレをどうするか……。何時間このままなんだろう……。


『今日は、第五研究所近くだったのか。迂闊だったな』


 海岸だけの移動だったので、気がつかなかった。体の弱かった以前の僕は、砂浜しか知らない。地形から第五研究所を連想出来なかった、僕の失敗だな。


 これからのことを考える。

 ニーズヘッグが、どう動くかだよな。正直、思考が読めない。助けてくれるのか、見捨てるのか……。助けてくれるのであれば、全面戦争になってしまう。

 考えていると、誰かが入って来た。


「お前が、才羽相馬か……」


 猿ぐつわを外してくれた? なんだろう、この人……。


「ありがとうございます。それと、ちょっと訂正を。僕は、才羽相馬から作られたクローン体です。本人は、死亡したと思います」


「どうでもいいよ。意思疎通が、出来るんだろう? 本体とか意味がない。もういないからな。つうか、俺の仕事を増やすなよ」


 なんだこの人……。情報を提供しているつもりなんだけど。僕に興味がない?

 ぶっきらぼうな性格に感じるだけ?


「え~と、どちら様ですか?」


「序列一位で、通じるか? わざわざ呼ばれたんだよ。暴れないでくれよな?」


 ――ゾク


 その言葉に、背筋が冷えた。

 前から興味を持っていた人物が、会いに来てくれた。この人だったのか。

 そうだ、未知の存在である僕を尋問するのに、これほど適した人もいない。

 逃げ出す気はなかったけど、逃げられなくなったのか。


 少しの不注意で、大事になってしまったんだな。

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