【短編】VTuberのゲームの師匠~コーチングしたら、教え子たちが大会で優勝して感動する話~

キョウキョウ

短編

 ある日、メールが送られてきた。内容は、ゲームのコーチングをしてほしいというもの。


 俺がゲームをプレイしている配信を見た人が送ってくれたのかな。


  たまに視聴者から、そんなお願いをされることがあった。登録者数は459人、配信視聴者数の平均が数十人という弱小な俺。見てくれている人に感謝して、お願いを引き受けたいという気持ちはある。でも流石に、一人ひとり教えることは出来ないよな。


 とりあえず、断りのメールを送ろう。そして、次の配信の企画にする。それを見てもらって、上達するための参考にしてほしいと返信すればいい。


「えっ、これって……」


 メールの返事を書くために、送り主の名前を確認した。なんとなく、見覚えのある名前。ネットで検索してみると、一番上に動画配信サイトのチャンネルページが出てきた。


 それをクリックすると、可愛らしいキャラクターが出てきた。乃間まのムイという名前も表示される。この人だ。


「ひゃっ!?」


 登録者数を見ると、100万人を超える大人気の人だった。思わず変な声が出てしまったけど、無理もないと思う。だって、こんな有名な配信者からメールが送られてくるなんて。


「いやいやいや、これはちょっと……」


 違うよな。イタズラだろう。こんな凄い人が、俺なんかにメールでお願いしてくるなんて、あり得ない。でも、本人だったとしたら……。


 送り主のアドレスを確認する。SNSのプロフィールに書かれているものと一緒だ。アドレスが偽装されている可能性はないか。色々と調べるため、メールソースを確認してみたり、似たような事例がないかネットで探してみたりした。


 そして、本物だという結論に至った。


 でも、どうして俺なんだ。俺の配信なんかを見てくれたのか。こんな凄い人が? 

疑問だらけだけど、早く返信しないとマズイかも。待たせないように、とりあえず返信する。




 それから連絡を取り合うことになって、なぜか彼女と一緒に配信するという流れになった。どういうことなのかさっぱり分からない。



 約束の日になって、いきなり配信がスタートされる。


「え、えっと。よろしくお願いします」

『よろしくお願いします、師匠!』


 ボイスチャットから聞こえてくる元気よく可愛らしい声に、俺の緊張が増していく。これで良いのだろうか。いきなり、師匠なんて呼ばれているけれど。


 彼女と話すのは、これが初めて。今回のために、少し前の配信や動画などチェックして準備してきたけれど、上手く話せる自信がない。


『えーっと……。じゃあ、まずは軽く自己紹介からお願いします』

「あ、はい。えっと、プロゲーマーの松岡真之介まつおかしんのすけです。よろしくお願いします。あ、今はチームには所属していないんですけど」

『よろしくお願いします、師匠! 私は、乃間まのムイです』

「あ、うん。配信とか見ました」

『えっ!? ちょ、ちょっと! 私の配信を見ちゃったんですか!?』

「失礼がないよう、事前にチェックしておこうと思って」

『あわっ!? そ、それじゃあ師匠との会話を準備する配信も、もしかして……?』

「準備する配信? いや、それは見てないかな」

『あわわっ!? また、墓穴を掘っちゃましたッ』


 軽快なトークで、場の雰囲気を作ってくれる乃間さん。流石だなと思っていると、彼女が少し落ち着いたところで話題が変わる。


『あの、もう既に何度も呼んじゃってますけど、師匠って呼んでもいいですか?』

「あーうん。いや、別に構わないよ。でも、師匠って呼ばれるような柄じゃなと思うけど」

『そんな事ありませんよ! だって、凄く強いじゃないですか! 私も、師匠の配信を見たんですよ』


 ものすごく尊敬されている。その事が嬉しくもあり、同時にプレッシャーを感じてしまう。だって、彼女のほうが凄い人気者だから。動画の再生数は凄いし、生配信の視聴者の数なんて数万を超える。


「って、えっ!?」

『どうしました、師匠?』

「こ、この配信、3万人も見てるの……?」

『そうみたいですね! 師匠への注目が凄いんですよ』

「い、いや。これは、君の人気――」

『早速、師匠の腕前を皆に見てもらいましょう。凄いんですよ!』

「あ、え、うん。そ、そうだね」

『じゃあ、いきますね』


 彼女とパーティーを組んで、レディを出す。いきなりぶっつけ本番。まずは一緒にゲームをすることから始めてくれる。


 プレイするのは、最近大人気のFPSゲームだ。バトルロイヤルというジャンルの、数十名のプレイヤーが生き残りを懸けて銃を撃ち合い、戦うというもの。


 こんな緊張の中でゲームするなんて、なかなか無い経験だぞ。大会のときだって、こんなにガチガチに緊張することはなかった。失敗なんて出来ないよな。


『え、あ! キャァァァ!?』

「乃間さん、敵に撃たれた?」

『う、撃たれました! 一瞬で、やられちゃいました! ゴメンナサイ』

「大丈夫。任せて」


 ゲームのプレイに集中すると、緊張が和らいできた。敵の位置を確認して、狙いを定める。そして。


『わ! 当たった! 凄いっ! って、ゴメンナサイ、ウルサイですよね。ここは、黙ってます』

「大丈夫。もう、倒したから」


 配信者らしく、常に楽しく話してくれる彼女。だが、撃ち合いの最中は気を使って黙ろうとしてくれる。だけど既に敵を倒したから、黙る必要はない。


『え! もう!? 凄いっ!』

「ふふっ。今、蘇生するね」

『ありがとうございます、お願いします!』


 楽しそうにプレイする彼女を見ているうちに、いつの間にか俺も楽しんでいた。


 乃間さんの動きは、かなりの初心者だった。彼女の動きを見てアドバイスしたり、敵の倒し方を教えたりしているうちに、あっという間に時間が過ぎていった。




『本日は、ありがとうございましたッ! この短時間で、かなり上達した気分です。師匠のおかげですよ』

「いやいや。全然だよ」

『また、教えてください!』

「分かった。いつでも教えるよ」

『やった!』


 でも、何で彼女は俺にコーチングを頼んだのか。


『それはですね、実は近いうちにゲームの大会に出場する予定なんです。そこで優勝するために上手くなりたいから、教えてもらおうと思って』


 なるほど、そういう理由だったのか。大会の優勝を目指して頑張ろうとしているのなら、教え甲斐があるな。彼女には、頑張ってもらおう!



 その配信が終わった後、俺の登録者数が1万人を超えた。




 その後、乃間ムイにコーチングを行った。どんどん成長する彼女の姿を見ていると、自分もやる気が出てきたり。もっと強くなって、彼女の力になりたいと思うようになった。


 彼女の仲間と合流して、その子たちにも教えることに。


 ちょっとした揉め事や事件など起きながら、Vtuberの彼女たちにコーチングする日々が続く。


 そして大会の本番、乃間さんが今までに磨いてきた実力を発揮。見事に優勝した。それを見ていた俺は、ものすごく感動したりして。


 そこから更に、Vtuberの知り合いの輪が広がっていき、乃間さんの師匠として人気が出るようになったり。


 そんな物語が、これから始まるかもしれない。



***



松岡真之介まつおかしんのすけ


色々なゲームの大会に参加して、手に入れた賞金で生活するプロゲーマー。

格闘ゲーム、カードゲーム、FPSなど、どんなジャンルでも実力を発揮する凄腕。


Vtuberの乃間と出会う前までの配信では人気がなかったが、彼女と出会ってから知られるようになって、どんどん人気になっていく。世間に知られるように。


実はゲームのコーチングも、かなりうまい。



乃間まのムイ


登録者数100万人を超える大人気のVtuber。


ゲームの大会に出場することが決まって優勝を目指すが、ゲームの腕前は初心者。

たまたま見た配信で、凄腕の松岡真之介を知った。この人に教えてもらいたいと思いメールを送る。


松岡真之介のことを尊敬して、師匠と呼んで慕う。

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