幼き留守番っ子の悩み

神永 遙麦

幼き留守番っ子の悩み

「ねえ、ママ。あのね、今日幼稚園の詩篇23全部言えたよ!」


 精一杯背伸びをした美桜みおを、チラリと見た心梨ここなは「そう」と言い玄関に向かった。

「あのね、みお、優勝したの!」と、美桜は暗唱聖句大会の景品を心梨の前に突き出した。

「そう」と、心梨は靴を履いた。「お腹減ったらテーブルの上にあるおにぎり食べてね」

 美桜は「は〜い」と気怠げに返事をした。

「今日遅くなるからちゃんと8時に寝てね。ママ、お仕事行ってくるから。ピンポン来ても絶対開けちゃダメだよ。パパが帰ってきたら、ビスケット食べていいよ」と、早口で言い出ていった。


 美桜はドアに向かって「べー」と舌を出した。「ママのけちんぼ!」

 ガチャガチャ、と鍵の閉まる音がした。

 美桜はリビングまで精一杯大きな足音を立てて戻った。


「景品」を乱雑に机の上に放ると、タブレットでアニメを見た。「ママ」が選んだ英語のアニメ。

 アニメに飽きた美桜は動画サイトを見始めた。オススメをどんどん見ていたら、の○太が家族をどんどん殺していく動画に当たってしまった。美桜は慌てて泣きじゃくりながらタブレットを閉じた。でもタブレットを閉じれば、ますます怖くなってくる。さっきのシーンが何度も何度も頭の中に出てくる。

 Si○iに「ママ」から連絡ないか聞いてみたけど、何もなかった。


 不貞腐れた美桜は、机の上にあった「景品」を取った。字とふりがなが大きい聖書で、優勝の景品だった。優勝の景品はイラスト付きの聖書だった。

 そう言えば、今日は土曜日なのに何でママお仕事に行ったんだろう? なぁぜなぁぜ?

 首を傾げながら、適当にページを開いた。真ん中から外れた所を開いた。吸い込まれるように、一節が目に留まった。

 

「子どもたちを、わたしのところに来させなさい。邪魔してはいけません」

 何度も何度も聞いたことがある箇所なのに、初めて5歳の帆愛の心にストンと入ってきた。

 

 イエス様は嫌じゃないのかな? さっさって出てかない? 話してもうるさがらないかな?

 頬杖をつきながら考えていると、小さなサムエルの話を思い出した。


 だから、おにぎりを食べた。頑張って歯磨きして、お布団に入った。時計は7時を指している。

 美桜は、ワクワクドキドキしながらイエス様が自分の名前を呼んでくれるのを待った。

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幼き留守番っ子の悩み 神永 遙麦 @hosanna_7

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