エピローグ お伽噺の終わりに

 なんど太陽が天を巡り、星々が瞬いては消えていったことでしょう。

 人間の国を記した地図に細かい変化はありましたが、大地も海も、すがたを変えずそこにありました。



 これは、どこかの国に嫁いだ、とある国のお姫様の物語です。


 彼女は由緒ある国のお妃として、また多くの子ども達の母として、生涯惜しみない愛を注いだと言われています。

 そうして、両国の友好と発展のため力を尽くした王妃は、自らの子が王位を継ぐのを見届けたあと、静かに息を引き取ったのでした。


 生前は、大した贅沢ぜいたくもせず慎ましく暮らしたという彼女ですが、その最期に、ちょっと変わった遺言を残していたそうです。


『わたくしが死んだあとは、ひつぎを海に沈めてちょうだいね』


 どうしてそんな遺言を残したのか、その理由を知るものはいませんでしたが、臣下たちが王妃の棺を、海に沈めた時のことでした。



 ――波間に漂う白い百合ゆりの香りが、ひと際強くなったと思ったら。


 海のどこからか、この世のものとは思えぬほどの、透き通った幸せそうな歌声が、聴こえてきたのでありました。

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人魚とお姫様 梅咲ゆう @umeyuu

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