第45話 結2

 数日後、団子屋に悠がやって来た。

「この前食べた団子の味が忘れられなくてねぇ。いろんな種類を混ぜて二十本ほど包んでくれるかい」

「へぇ、只今お茶をお持ちしますんで」

 茂助は気を利かせて鬼火に茶を出させた。悠は団子を包んでいる茂助に目をやりながら何気なく言った。

「松太郎とお清は二人揃って同じお店に奉公してるよ。あたしが昔世話になったお茶屋問屋さんだ。あそこの旦那なら良くしてくださる」

 鬼火は黙って頭を下げた。

「それと……これ、三郎太の兄さんから預かって来た。使うだろうって」

 悠に手渡された風呂敷を開くと、枝鳴長屋で三人から貰った硯箱が入っていた。予期せず涙がこぼれた。

「ありがとうございます。大切にします。三郎太さんにも、栄吉さんにも、お恵にもよろしくお伝えください」

 そこへちょうど伝次がやって来た。包んだ団子を抱えた茂助が中から出て来て、悠に手渡した。

「おう、鬼火。伝次の話を聞いておけ」

 鬼火は手の甲で涙をぬぐうと、「はい」と返事をした。

「邪魔したね」

 悠は鬼火に微笑みかけると団子の包みを抱えて店を出て行った。


                                

(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

柿ノ木川話譚2 ー凍夜の巻ー 如月芳美 @kisaragi_yoshimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ