第20話 * 紫紺の洞窟 7*
アリスもあずみも呻き声をあげて床に横たわっている。
その様子をデュラハンは、強者の風格で見守っているようだった。
そして、ゆっくりと剣を持ち上げてアリスへと一歩一歩近づいてくる。
『アリスちゃん! これ使って!』
【ゆんゆんさんがスピードポーションをくれました】
「ゆんゆんさん! ありがとっ」
アリスはマーチからスピードポーションを取り出すと、躊躇なく蓋をむしり取って飲み干す。
「まずい!」
アリスが飲み干すのと、デュラハンが剣を振り下ろすのはほぼ同時だった。
上がった素早さでアリスは攻撃を掻い潜る。
標的を失ったデュラハンの剣は、地面をえぐった。
「あずみちゃん! 囮になるから攻撃して!」
「でも、」
「大丈夫! 力を込めて! 落ち着いて攻撃すれば大丈夫!」
「う、うう」
「あずみちゃんならできる!!」
アリスはあずみを叱咤激励しながら、デュラハンの攻撃を避け続けた。
あずみは、起き上がりながら日本刀の柄を握り締めてデュラハンを睨みつける。
蹴られた腹部はまだ痛い。
跳ね飛ばされた時の衝撃で、頭も痛い。
今日、紫紺の洞窟に入ってから日本刀を握りしめている腕はもう、握力が残っていなかった。
それでも、アリスの信頼に応えようともう一度、刀を握りしめる。
「私も、配信者なんだ! こんなところで倒れているわけにはいかないの!!」
あずみは鬨の声をあげると、デュラハンの背後に接近して刀を振り折ろす。
あずみの刀は、デュラハンの後ろ足を切り落とした。
「やった!!」
『すごい!!』
『やったじゃん!』
マーチからのコメント読み上げでも、あずみの行動を讃えるコメントがちらほら聞こえた。
画面の向こう側からの声援にあずみも嬉しくなる。
褒められるのってうれしい! と配信の醍醐味を味わったあずみだった。
その直後、足を切り飛ばされてバランスを崩したデュラハンが上半身をひねり、盾を振り回してあずみを殴りつけた。
「べぶっ」
情けない悲鳴をあげてあずみが吹き飛ばされる。
「あずみちゃん!」
アリスが悲鳴のように、あずみに呼びかけるがあずみにその声は届かなかった。
デュラハンが思い切り殴りつけた盾にあずみは顔面を潰された。
「っ!!」
「あずみちゃん!!」
あずみは叫び声にならない叫びをあげている。
顔面を潰されて、声も出ないらしい。
『あああ! あずみちゃん!』
『グロッ』
『なむなむ』
『いったか』
あずみが倒れたことでコメントは大騒ぎだった。
配信画面には、マスコットによるモザイクがかかっているだろうがあずみの顔面を想像することは容易いだろう。
そして、あずみの全身がキラキラと光り輝いていく。
ダメージが限界を越えたのだろう。街のゲートに戻される時の光だった。
アリスは、密かに息をはいた。
これであずみは街に戻される。その時には潰された顔も戻っているから一安心だ。
「あずみちゃん、戻されちゃいましたね〜。一人でデュラハン相手にするの大変そう! でも、まぁいつものことですし!」
あずみという獲物が消えたことを確認したデュラハンは、ゆっくりと振り返った。
後ろ足が一本ないというのに、ふらつきもせずに余裕のある出立だ。
「それじゃ、ここからはアリスちゃんの単独配信でーす! よろしくね!」
『頑張って』
『アリスちゃん! がんば』
『首落ちて!』
「いや〜。ここで首落としたら、死んじゃうよ。踏み潰されちゃう」
コメントに軽口で返す間も、アリスはデュラハンの隙をうかがっていた。
アリスは飛んだ。
デュラハンの頭部のない首を目掛けてメイスを振り下ろす。
デュラハンになんなく、盾で防がれた。
金属がぶつかり合う音が響いて、広場に反響する。
盾に打ち払われて、アリスは吹き飛ばされて壁に激突する。
「痛ってぇ」
床に倒れ込んだアリスは、首を振りながら膝をつく。
その間にもデュラハンはゆったりと近づいてきた。
「完全になめてくれてるじゃないの」
デュラハンの余裕ともとれる動きにアリスは、悪態をついた。
メイスを支えにして立ち上がる。
これ以上ダメージを受ければ、アリスも街に戻されてしまうだろう。
それはなんとしても避けたい。
配信者としてはきちんとデュラハンを倒して終了にしたいところだった。
デュラハンの弱点はどこだろう。
少なくとも、何も乗っていない首ではないだろう。
それならば、狙うは一択。
腕に抱えられている頭部だ。
振り返ってみれば、デュラハンは頭部を庇っていたようにも見える。
アリスはメイスを握りしめると、ダッシュしてデュラハンに肉薄した。
デュラハンは、アリスに止めをさすべく剣を振り下ろす。
「攻撃が単純なんだよ!」
アリスはデュラハンの下をスライディングで滑り抜けた。
背後をとる。
デュラハンは、振り返ろうとするが追いつけない。
「トドメだ!!」
地面を蹴り上げ、デュラハンの馬尻に飛び乗ると両手で握ったメイスをデュラハ
ンの頭部に叩き込んだ。
「っくっ!」
アリスの手には、頭蓋骨が砕ける感触が伝わってくる。
めりごり、という音はマーチをとおして配信されただろうか。
勢いがついたままアリスは床に着地するとゴロゴロと二回転して止まった。
「いぇーい! みてくれました!? デュラハンやっつけました!!」
マーチに向かってポーズを決める。
『すごーい』
『おめでとう!』
【ゆんゆんさんが900ルクス課金しました】
【ゆいぴょんさんが600ルクス課金しました】
【まさひーさんが750ルクス課金しました】
【あんこさんが800ルクス課金しました】
【†闇の翼†さんが500ルクス課金しました】
【さめっこさんが500ルクス課金しました】
「みんなありがとう!」
アリスがいぇーいとポーズを決めている間に、デュラハンは光の粒となって消
えていった。
「これで、デュラハンを倒せました! みんなみてくれてありがとう!」
『おつかれ〜』
『最後すごかった』
『アリスちゃん、すごーい』
「長時間の配信、付き合ってくれてありがとう! 明日も同じ時間に配信しまー
す」
『またな〜』
『明日も楽しみ〜』
『じゃぁね〜』
「それじゃ、あずみちゃんを回収しに戻ろうと思います! バイバイ!!」
挨拶をして、アリスは配信を終わらせる。
配信が終わったことを確認するとアリスは一つ、ため息をついた。
あずみにいきなり、エリアボスはきつかっただろう。
少なくとも、もっと雑魚で経験を積ませてあげるべきだったと思う。
まぁ、まさか、エリアボスが出てくるとは思わなかったというアリスの認識の甘さが原因といえば原因だろう。
「あずみちゃん、泣かないといいけどな」
アリスはテレポ石を取り出すと、街のゲートへと戻っていった。
***
「あずみちゃん、ここに座り込んでいたら他の人に迷惑だよ」
アリスが街に戻るとあずみはまだ、そこにいた。
ゲートの光の中に座り込んでメソメソと泣いている。
アリスが声をかけるものの、あずみは泣くばかりだった。
「もう、泣くのはえんま亭についてからだよ」
アリスはあずみを引っ張り上げるて立たせる。
それにあずみは逆らわなかった。
「配信の最中に街に戻されるのは、まぁ、屈辱だけどさ。誰にでも一回や二回、あることだよ」
アリスはなんと声をかけていいものか迷い、当たり障りのない言葉をかけた。
「……」
「うん? なに」
あずみがなにやらつぶやいたようだった。
アリスは聞き取れず、耳を近づける。
「……ったです」
「うん」
「痛くて、痛くて、死んじゃうかと思いました」
「うん。そうだね」
「あのモンスターも怖かったし。なんなんですか、あれ」
「エリアボス。Lv3にいるとは思わなかった。あずみちゃんにはまだ早かったよね。ごめん」
「謝らないでください。先輩が悪いわけじゃない」
「痛かったし、怖かったし、こんなこと続けないといけないんですか!?」
あずみは吐き出すように怒鳴った。
アリスは、なにも言わずに聞いている。
「こんなこと、私、続けるの嫌です!」
「別に、戦わなくも配信はできる。配信しなくたっていい。でも、それじゃ、この世界では生きていかないんだよ」
アリスは、ポツリとつぶやいた。
アリスはあずみの手を握って、中央通りを歩いていく。
*** ***
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