第19話 * 紫紺の洞窟 6*
「了解!」
四台目を光らせた時、アリスと台座の直線上にゾンビが入り込んできた。
「邪魔、邪魔、邪魔!」
アリスは叫ぶとメイスを振り回してゾンビを殴り倒す。
五台目に走り込んでクリスタルを光らせる。
「最後の、一台!」
残りは中央の一台だ。視界の端で確認すれば、一台目に光らせたクリスタルはすでに点滅を初めている。
『アリスちゃん! 頑張って』
『あとちょっと!』
『急げ急げ!』
「これで、終了!!」
「やりましたね! 先輩!」
アリスが中央の台座に滑り込んでクリスタルを光らせたのは、ギリギリのタイミングだった。
全てのクリスタルが、紫色に光る。
あずみは、ゾンビを倒してアリスに近寄ってきた。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、全身で嬉しさを表現している。
「あずみちゃんは素直だよね〜」
光が満たされると紫の光柱が六本、立ち昇った。
「さーて、何が起こるでしょうか」
アリスの声にかぶるように、大きな石がこすり合わされるような音が広場の奥から聞こえてきた。
紫の光の向こう、奥の壁が音を立ててスライドしていく。
音とともに壁が開き切ると、その暗闇の奥に巨大な影が見えた。
重量感のある足音がゆっくりと広場に入ってくる。
見えたのは、六本足の馬のような巨躯に筋肉質の人間の上半身が乗っている。
そして、首を手に持っていた。
「これは、デュラハン!」
「え?」
「どうやら、エリアボスみたいだね。これは想定していなかったな〜」
迂闊だったな、とアリスが呟く。
『首ぽろりがかぶるね』
「首ぽろりは向こうが本家かな〜」
「呑気なこと言ってないでください! 先輩!」
デュラハンはどこをみているのかわかりずらい。
四本の腕、首を抱いている腕の他には、剣と盾が握られている。
「たぶん、ここのデュラハンに挑むのは僕たちが最初かな? 腕がなるね!」
アリスとあずみが武器を構え、デュラハンと対峙する。
最初は、ジリジリとした睨み合いだった。
お互いにお互いを観察しあう。
デュラハンの獲物は間に盾。そして、アリスの胴体ほどもありそうな筋肉質の腕。
あの腕に殴られただけでも大ダメージは確実だろう。
『頑張れ〜』
『ファイト!』
『締めに大物来たね〜』
『サクッとやちゃって〜』
「あずみちゃん、なるべく攻撃は避けてね」
「は、はい」
「僕が正面からいく。あずみちゃんは後ろに回り込んで」
そんな打ち合わせをしている二人。デュラハンは、後ろ脚で地面を蹴ると二人を目掛けて突っ込んできた。
「きゃっ」
「くそっ」
あずみは避けることができなかった。
デュラハンの巨体に吹き飛ばされたあずみは床に転がり、二、三回転がった。呻き声が上がる。
デュラハンは跳ね飛ばしたあずみに向かって剣を振り下ろした。
「あずみちゃん!」
剣と日本刀がぶつかりあう音が響く。あずみはギリギリでデュラハンの攻撃を防ぐことができたらしい。
アリスはほっと胸を撫で下ろすと、走り込んでジャンプをし、デュラハンの上半身目掛けてメイスを殴り下ろした。
デュラハンには読まれていたらしい、アリスの攻撃は盾で阻まれる。
「賢いじゃない! 頭がないくせに!」
デュラハンはメイスを防いだ盾を振ってアリスを吹き飛ばした。アリスは壁まで飛ばされるが、壁に着地して一回転。床に降り立った。
アリスの方が厄介だと見定めたらしいデュラハンは、アリスに向かって突進し剣を振りおろす。
アリスはメイスで受け止めた。甲高い金属音が広場に響き渡る。
そのまま、デュラハンはメイスごとアリスを床に沈めようと力をこめてきた。
「先輩!」
ようやく、立ち直ったあずみがデュラハンの背後から刀を振るう。
まだ、吹き飛ばされたダメージが残っていたのだろう狙いが浅く、有効な斬撃にならなかった。
デュラハンの背後の皮膚がわずかに切れるにとどまった。
デュラハンはあずみの攻撃にはわずかの注意も払わなかった。
アリスを鎮めるべく、剣に残った腕をそえて力を増す。
「くっ」
倍になった腕力にアリスは敵わない。受け止めるのに精一杯だった。
「うぐぐ、あずみちゃん! 足を狙って!」
デュラハンの剣に耐えながら、アリスは叫んだ。
あずみは、剣を二度、三度、と振るって後ろ足に切り込んでいく。
刀が後ろ足に食い込んだ。そのまま、押し切ろうとあずみが力を込める。
と、デュラハンの足が蹴り上がった。
「ぎゃ!!」
蹄があずみの腹部に命中。あずみは悲鳴にもならない声をあげて、吹き飛ばされた。
その間にも、アリスはデュラハンの剣と力勝負を演じていた。
「二人同時に相手にしてるくせに……」
デュラハンの力が一瞬、弱まった。チャンス! とアリスは攻勢に転じようとメイスを握り直す。
しかし、デュラハンは間髪入れずに力の方向を変えると、アリスを掬い投げるように下から上へと殴りつけた。
「うぎゃ!!」
殴りあげられたアリスは放物線を描いて飛ばされる。
二、三回、床でバウンドしたアリスは呻き声をあげた。
*** ***
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