4-1 

冒険者ギルド内はいつもの活気に加えて、今日は特別な緊張感が漂っていた。ギルドの中庭では、冒険者たちが一斉に武具を身につけ、準備を整えていた。その中には初心者からベテランまで、さまざまな冒険者が混ざり合っている。


掲示板の前では、依頼の内容や報酬金額を競り合う声が絶えず、多くの冒険者たちが情報を求めて集まっていた。新たな任務に挑戦するため、彼らは焦りを隠しきれず、掲示板と受付カウンターに群がっていた。


訓練場では、剣を振るう音や魔法の唱え声が絶え間なく聞こえ、冒険者たちは命をかけて技術を磨いていた。訓練を受ける冒険者たちの汗が床を濡らし、その懸命さがギルド内に満ちていた。


さらに、中庭では冒険者たちが任務の報告や成果を分かち合い、その成功を祝っていた。笑顔と笑い声が飛び交い、興奮冷めやらぬ冒険の話に耳を傾ける者もいた。


一方、ギルドの事務所では、職員が懸命に任務の調整や冒険者の登録を行っていた。机の周りには書類や地図が散乱し、急ぎの依頼に追われるスタッフの様子がうかがえた。


「まーた死亡者リストの更新だ。これで何回目だ? いくらなんでも最近多すぎやしないか」

「迷宮の調査が全然進まない! プラチナランク以上の冒険者は迷宮の危険性を知っているから頼んでもなかなか調査依頼を受けてくれないからなあ……」


ギルドの職員が頭を抱えて突っ伏した。


「どうしたもんかねぇ……」


ギルドの職員達が巷で噂されている“迷宮”の事で頭を悩ませている。

長年の研究により迷宮ダンジョンというものは三種類あるという事が周知されている。


一つ目の迷宮は自然迷宮。多くの自然迷宮は地上に存在し、複雑な地形及び自然環境。苛烈な生態系や地質上踏破するのが非常に困難。グロームスワンプに存在しているキノコの群生地がコレに該当する。


二つ目の迷宮は遺跡迷宮。大半の遺跡迷宮には歴史的背景があり、その殆どは歴史の中で踏破されてきた。故に今となってはもぬけの殻となった遺跡が殆どであり、踏破されていない迷宮は極僅かとなっている。

しかし一方で攻略、若しくは時間経過と共に消滅してしまう魔法の遺跡迷宮もある。


三つ目に生物迷宮がある。

自然迷宮に並ぶ危険度の高い迷宮であり、殆どの場合変人、奇人でもない限り探索しようとは思わない。生物型と言われている為、迷宮内は複雑怪奇な構造となっており、独自の生態系がそこにはある。

地上に生息している魔物や怪物とは違ったものが現れる為、それらの対処及び攻略が非常に困難な場合が多い。

自ら魔物の体内に入ろうだとか、食われてみようと思わないように、生物型の迷宮は迷宮そのものが巨大な生命体である為に危険視されているのだ。


どの迷宮にも最深部には強力なアーティファクトが眠っており、攻略難易度が高ければ高い程それらの価値は飛躍的に跳ね上がる。


「一応生還者によれば、新しく出現した迷宮は生物型だという事が分かっているらしいが確定情報じゃない。報告した冒険者は錯乱状態で今も入院している」

「この街で最高ランクの冒険者といえば?……」


女性職員が首を傾げながら記憶を辿る。

するともう一人の女性職員が寄ってきて言った。


「オリハルコンランクのアランさん、同様にメラルダさん、ライオネルさん。ミスリルランクのラインハルトさんになります」

「あーダメだ! 全員駄目だ! 可能性がありそうなラインハルトさんは多忙すぎて無理だし後の連中は話を持ち掛けてみたが自由人すぎてつっぱねられた」


上司である男性職員が頭を掻きむしった。


「となるとダイヤモンドランクの冒険者への依頼になりますね」

「ダイヤモンドかあ……その辺の奴らは実力はあるけどなあ……」

「あはは……言いたい事はわかります。彼らは実力がありますから殆どが遠征してしまっていますからね。たとえ戻ってきても好んで迷宮探索は受けてくれないでしょうからね」

「だとするとプラチナランク……いや、プラチナはダメだ。実力不足だ」

「ですねえ」

「あークソ。折角の迷宮だがお蔵入りだな。定期的に入口から魔物やら怪物やらが溢れねぇようにギルド公認の依頼だけだしておけ」

「承知しました」


そういって職員達は仕事に戻った。





セントリアの街から東側、ランタンフォレストの中心部から北東へと向かった先に最近出現した迷

宮がある。


ランタンフォレストを抜けた先にある深い森はミスティックウッズと呼ばれていて、夜になると微精霊が活発に一つの球体となって飛び回る。

木の葉は月光に照らされ青白く光り輝き、夜にしか咲かない花や薬草が顔を出す幻想的な森だ。


しかしこの幻想的な森の一部に異変が起きている。突如として現れた迷宮が巨大な大穴を形成し、大穴の周辺は高濃度の魔素によって汚染され草木が枯れ果ててしまっているのだ。


栄養に富んだ土は肉塊と骨の山へと変貌し、混沌とした地に変えてしまった。


通称貪食の迷宮。

凶暴かつ目に入る生き物を捕食する貪食種の魔物が数多く出現する上に、未知の魔物も存在している。

迷宮内が巨大な生物の体の中のようであり、時間経過と共に入り口が閉じる。閉じた後は七日以上開く事は無いと言う報告からこの名が付けられた。


迷宮に迷い込んだ怪物や人間を決して逃さないこの迷宮は数多くの挑戦者はいたものの、その殆どが一層目で敗走を余儀なくされている。

二層目以降の情報が殆ど無く、生還者も少ないため迷宮の情報が少ない。


こうした世界各国に存在している迷宮は発見され次第国を上げて探索し、アーティファクトの回収を急ぐものだ。

しかし相手は生物迷宮であるが故に効率が困難。高ランクの冒険者は揃って依頼を見た瞬間眉間にシワを寄せて突っぱねてしまう。


それ程にまでこの生物迷宮は危険であり、攻略にしても探索にしても嫌がられるのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒険生活日記。 だるい @darudarudarui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ