第3-12話 エリナ視点
寄生体とエリナの激しい魔法戦が続く中、エリナは冷静さを失わず、巧みな戦術を駆使して対抗していた。
胸元に輝くゴールドプレートは、彼女が一つ上のランクの冒険者であることを物語っていた。防御魔法の展開も早く、治癒魔法も使いこなす彼女は、私以上の実力を持つ魔法使いだ。
でも、それが何だというのですか。
「行きます!」
エリナはそう叫ぶと魔法の杖に魔力を込めた。
杖の先端にある魔石が輝くと、彼女は魔法の名を叫んだ。
「ストーンブラスト!」
鋭利な石飛礫が寄生体へと放たれる。
しかしその攻撃は魔法障壁により防がれた。
障壁に激突した石飛礫は粉々に砕けて飛散する。
やはりダメですか……。
「アデルワーゲン」
寄生体が魔法を唱える。
寄生体がもっていた魔法の杖が光り、杖をエリナに向けて振るう。
すると木の根っこがボコボコと音を立てて寄生体の周囲に現れる。
「魔術!?」
魔術は魔法よりも劣る。
それは“未完成”であるからだ。
魔法は魔術と比べて研究が進んでおり発動の容易さや素早さには定評があり、それでいて効果や能力が保証されている。
魔法は魔法の適正さえあれば誰でも扱う事が出来るのも魔法の特長だ。
一方魔術は未完成品であるが故に術式を自由に改造できる利点がある。しかしながら癖があるせいで使用者本人しか扱えなかったり、独自の流派等があり扱いづらさが目立つ。
運用の難しさ、術式の研究に何十年、何百年と時間を要するので術者が少ない。
未完成な術式が多く精度も低い為、純粋に魔法での打ち合いをしたら魔法が勝つ事は魔法使いの常識。
「防御魔法展開!」
エリナは防御魔法で身を固める。
「アデルバルデスト」
寄生体の周囲を蠢いている木の根っこから小さな花の蕾がぽこぽこと現れる。蕾は瞬く間に成熟し、今にも爆発しそうなほど真っ赤に膨れ上がっていった。
「アースウォール!」
エリナは即座に危険を察知し分厚い土壁を作り上げた。
成熟された蕾が弾けると、散弾銃のように種子が飛び散り土壁に抉り込んだ。
「アデルワーゲン」
アースウォールに撃ち込まれた種子が魔法に反応し、急速に成長し根を生やす。
飛び散った種子がその場に根を張り、エリナの周囲を取り囲んでいった。
これはマズイですね……散弾のように種子を拡散させ、そこから更に根を生やす魔法……。
厄介ですね……私よりも優れた魔法使いだったのでしょうが、ノアさんの言った通りあなたの魔法はキノコの群生地内では安定しなかったのでしょう。
「正攻法で勝てないのであれば搦め手を使うしかないですね。アーススワンプ!」
寄生体周辺の地面を液状化する。
寄生体が泥濘となった地面に足を滑らせるとエリナを取り囲んでいた木の根の動きが鈍る。
寄生体が使用している魔法は集中力を必要とする。
集中力を必要とする魔法の特長は、一定の魔力で広範囲に及ぶ魔法を継続させる事ができる。
一方で、その集中力が切れてしまった場合、使用している魔法の効力は著しく低下、若しくは消滅する。
足元に気を取られ、ほんの僅かな隙が魔法の精度を大きく下げた。
木の根の動きが鈍り、一部は急速に枯れ果て消滅したのだ。
エリナはその隙をしっかりと見極め、自分を取り囲んでいた蠢く木の根に向かってストーンブラストを放ち、槍のように改造された杖で叩き斬って行く。
力任せに振るうだけで簡単に砕ける脆さとなり、エリナは根を薙ぎ払いながら寄生体との距離を縮めていった。
この距離なら確実に仕留められる!
「これでお終いです! ストーンブラスト!」
優位をとったエリナが杖を振りかざし、魔法を唱えた。
鋭く尖らせた魔法の石を複数生成し寄生体に向けて放つ。
しかし──。
「アデルワーゲン」
地中から這い出てきた木の根が壁を作り出し石飛礫を防いだ。
寄生体は体勢を整えながら立ち上がり、魔術を発動させたのだ。
先に放ったアデルバルデスト、植物の種子を飛ばす魔法がアデルワーゲンにより発動。運悪く種子の上に立っていたエリナの脚が木の根に絡めとられる。
「これはマズイ……!」
一刻も早く防御魔法を展開しないと――やられる。
「アデルバルデスト」
エリナを絡めとっている木の根から蕾が現れると急速に成長を始める。
エリナはこの魔法の威力を知っている。
蕾が爆ぜた時、無数の細かな種子が散弾銃のように放たれるのだ。
アースウォールで築き上げた分厚い土壁に激しい損傷を与える程の威力を持つ。
これがもしも至近距離で放たれれば、人の身体など木っ端微塵に吹き飛ぶ。
しかし今のエリナにはどうする事も出来なかった。
彼女はまだ未熟であるが故に、防御魔法の精度が高く無い。故にこの種子が爆ぜた時、それは彼女の死を意味する。
エリナの顔が恐怖に染まった時――一瞬だけ視界に入った青い一閃が寄生体の頭を貫く。
僅かに遅れて轟音が響くと、寄生体の頭部が木っ端微塵に弾けた。
恐怖していたエリナの表情は驚愕へと変貌する。
寄生体はそのまま倒れるとピクリとも動かない。
雑木林の奥の方で狼煙のように煙が風に揺らぐ。
エリナはそれがノアの一撃によるものだと気づいた。
「ノアさん……助かりました」
エリナは腰が抜けたようにその場に座り込んだ。しかし何故か涙が溢れてくる。
彼女は噛み締めているのだ。
命を助けられた事。
そして、自分の力不足を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます