花弁は突如舞い降りる
杉野みくや
花弁は突如舞い降りる
男とは、単純な生き物だ。
おだてられれば調子に乗り、馬鹿なことには全力を注ぐ。
新学年に上がった俺たちはクラス写真を撮影することになった。黒板に描かれた大きな桜を背に、俺たちは何列かに分かれて並んでいた。
自慢ではないが、クラスの中では背が高い方だった。そのため、俺は当然のごとく1番後ろの列に並んでいた。
すると、前にいるやつが突如、ふざけて俺に寄りかかってきた。俺はやつを支えきれずに黒板に思いっきり背中をぶつけてしまった。
「ちょっと何してるの。危ないでしょ?」
前にいる女子が愚痴るような口調で注意する。そんなの知ったこっちゃないと言うように俺たちは笑って聞く耳を持たなかった。
「はい写真撮るよ〜。みんな、1+1は〜?」
「「に、に〜」」
中学生にもなってこんな子どもみたいなことを言うのはさすがに気恥ずかしい感じがした。自然と頬が引きつる感じがしたが、写真を撮ってくれた事務の先生は「OKで〜す」と朗らかに答えた。
写真を撮り終えた俺たちは席を元に戻すために黒板から離れた。すると、先ほど注意してきた女子が「ねえ」と話してかけてきた。
「ん?」
「背中にチョークの粉ついてるよ」
「まじ!?あいつのせいじゃねえかよ、も〜!」
俺は母親に小言を言われる未来が見えて思わず顔をしかめた。しかし、次にかけられた声は全く予想外のものだった。
「ほら、後ろ向いて」
「え?」
言われるがままに俺は後ろを向いた。すると、バシン!という音と共に鈍い痛みが背中を襲った。
「痛って!そんな強くはたかなくてもいいだろ!?」
「あっはは。ごめんごめん」
そう言うと彼女は満面の笑みを見せた。太陽のように明るく、屈託のない笑顔が俺の胸を強烈に締め付けた。
それが何を意味するのか気づくまでに、少々時間を要した。
男とは、単純な生き物だ。
何気ない表情ひとつで、見る目がコロッと変わってしまう。
俺の心は既に桜色に染まってしまっていた。
花弁は突如舞い降りる 杉野みくや @yakumi_maru
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