晩夏の道を駆け抜けたいんだ、今という今を生きるために

ミステリー要素もある青春もの。
人生の生き方についての考え方を、今一度見つめ直すきっかけになるかもしれない。

「いっせーので進み始めたはずの足並みはいつの頃からだったろう、少しずつズレ始めた」は、作品全体を暗示させるようで、それでいてまだよくわからない。
だからこそ、あれこれ想像し、興味を持たせる書き出しが良い。

ゴミ捨て場を、『檻』と名付けているところが、象徴的。
爽が封印してきたものとは、怜が大好きで親友だと思っていた気持ちであり、肝試しをしては語り合った特別な場所でもある。
『檻』そのものが、爽の心を表している。 

進路相談の帰り、遠回りをして立ち寄ろうとするのは、忘れがたい場所であると同時に、進路を決めるためにも自分と向き合う必要があるから。
物理的に行動することで、内面の変化も同時に描いている。
『檻』に訪れるのは、爽自身の心の『殻』に少しずつヒビを入れていく行為。
だから訪れるたびに、ちょっとずつヒビを入れては、少しずつ思い出していく。
この書き方がすばらしい。

止まっていた時間がようやく動き出す。
青春の苦さを感じつつ、怜との思い出を忘れない限り、きっと書き続けていくだろう。