晩夏の延長線

見咲影弥

プロローグ

 いっせーので進み始めたはずの足並みはいつの頃からだったろう、少しずつズレ始めた。僕らは皆歩調が違った。準備体操をし始めたと思えば、急に全速力で走り出す奴。崩れ落ちて延々と泣き続ける奴。後ろばかり振り返って慎重に一歩を選ぶ奴。微笑を浮かべて姿を消した奴。足並みが揃わないのも当然だ。世の中にはいろんな奴がいるから。そして気づいたときには手遅れだった。僕の周りには誰もいなくなっていた。前を行く友の足跡さえも、もう見えない。僕は今、立ち止まっている。十七年の歳月をかけて描いた地図の続きはまだ空白のままだ。誰かがお膳立てしてくれた道はない。この先の延長線は僕が描かなくてはならないのだ。それなのに僕は未だに筆を執ることができないでいる。筆を握れども、その手は微動だにしない。思考は止まったまま、時だけが残酷に進んでゆく——。



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