黄昏時という閉じられた世界で繰り広げられる、孤独な者同士の邂逅

受賞された作品とのことで、楽しみに読ませていただきました!

音楽的で流れるような文章の中に織り込まれた情景描写が秀逸で、瓶に閉じ込められた黄昏の眩さ、貯金箱に入った電車の音などが本当に聴こえてきそうでした。

昼でも夜でもない「黄昏」は、他者が入り込めない、外の世界と交わることが難しい主人公と吉田君二人だけの時間であり空間だったのかもしれません。

それこそ本や瓶のように閉じられた、神秘的な世界です。

「私」は吉田君と黄昏の世界で言葉なく交わりますが、ある日吉田君はいなくなり二人の交流は途絶えてしまいます。

黄昏から切り離された世界は、どこか空虚で物足りないのではないでしょうか。

人々は黄昏がなくなったことに気づいても、吉田君がいなくなったことを気にとめず、黄昏だけが消えた時間が過ぎて行きます。

彼が黄昏を盗んだのは、日常に空白を生じさせることで自分の存在を知って欲しかったのか、それともただ黄昏に魅せられていたのか。

彼はまたこの世界のどこかで黄昏を集めているのかもしれません。
詳しいことは分からないし、分からなくていい。

閉じられた世界から逃げた黄昏のように、主人公も少しずつ外の世界に心を開くことができたら——。

また吉田君とどこか別の会うことができたら、何を話すんでしょうか。

本や瓶の中に閉じ込められた幻想的な黄昏の風景、その中で生まれる孤独な者同士の心の交わり。

そんな繊細な諸々が見事な筆致で表現され、最後一抹の切なさと哀愁が心に落ちてくる、素晴らしい作品でした。