第15話



それからしばらく戦いは続き、ついに決着がついた。

ラータさんの剣先が倒れたアヴィスさんの喉元を捉えたのだ。


「勝負あり!」


審判が勝敗を告げると同時に歓声が上がる。

その瞬間、ラータさんも地面に倒れ込んだ。


2人は倒れながら何かを会話していたが、周囲の割れんばかりの歓声に全てかき消されてしまい何も聞こえない。


「行かなくていいんですか?」

「え?」


先ほど守ってくれた男性に言われて我に返る。


「アヴィス様とラータ様が呼んでいますよ」


男性に示された方向を見ると、仰向けに倒れたはずの2人が肩を並べてうつ伏せになりながら手招きをしていた。


「無理です無理です無理ですって!!!」


2人は朗らかに笑っているが、一旦周囲の人の多さを再確認してほしい。

こんな中に入って行けるはずがない。


私が全力で首を横に振るのを見て、2人は顔を見合わせてしまった。

それから何を思ったのか、2人は支え合いながらゆっくり立ち上がる。

しかしどうやら体力が限界だったようで、再び崩れるように倒れてしまった。


流石に周囲から心配の声が上がり始めた時、グラウンドに繋がる扉から見覚えのある人物が入って来た。


「ったく、連絡が入ったと思ったら2人して倒れるとかどういうことよ!後で説教だからね」


高い位置で結ばれた薄桃色の長髪を揺らして白衣を翻しているのは、間違いなくルクスさんだ。

相当苛立った様子で近くの兵士に指示を飛ばしている。


「ルクスさんだ」

「え、ルクス様ともお知り合いなのか!?」


私が何気なく彼女の名前を呟いたことにより、またもや周囲がざわつく。

確かに軍医とは言っていたし、皆お世話になったことがあるのかもしれない。

そしてざわめきに彼女が気づきこちらを見た途端、目を大きく見開いた。


「ナルミちゃん!?なんでここにいるの!?」

「えっと…」


手招きをされたため周囲の人にお礼を言ってから、諦めて階段を下りてグラウンドに向かう。

もう一度問われたため、プロポーズを受け入れた話から国王との謁見、職場見学を兼ねて戦いを見ていたことを簡潔に伝えるとルクスさんは納得したように何度も深く首肯する。


「なーるほど、そういうことだったの。どうして止めなかったの?」

「いや、だって……」


ちらっと周囲に目を向けると、ルクスさんは何かを察したようだ。


「まぁ、この人数じゃ仕方ないか。ちょっと待ってて」

「あ、はい…」


呆れたようにため息をつくと、彼女は観客席に向けて手を拡声器のような形にすると口に当てる。


「模擬戦はこれにて終了だから皆も暗くなる前に帰るんだよー!もう日が暮れかけてるから気を付けてねー!」


その言葉を聞いて、闘技場にいた人たちは続々と帰っていく。

どうやら家庭を持っている人もいるらしく、夕飯が!なんていう声も聞こえてくる。


「さぁ、これで心置き無く話せるわね」

「ありがとうございます」

「いいのよ。…にしても、この馬鹿たちはどうしようかしら」


ルクスさんは完全に気を失ってしまっている2人を見下ろしながら困ったように頭を掻いている。


「とりあえず医務室に連れて行きますか?」

「そうねぇ…悪いけれど、ナルミちゃんも手伝ってもらえる?」

「勿論です!」


タイミングよくルクスさんに指示を飛ばされた数人の兵士が担架を持ってくる。

そのまま彼らにも協力してもらい、なんとか2人を担架に乗せて務室に運んでもらっている道中、ルクスさんは私に話しかけてきた。


「でもまさか、アヴィスと結婚するなんて思わなかったわ」

「えへへ……なんか成りゆきで」


今日のことだが、なんだか遠い昔のことのように思えてしまう。

だけど後悔はしていない。

私の答えを聞いたルクスさんは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そっか。……本当に良かった」

「はい」

「もしアヴィスと喧嘩したらいつでも私のところに来ていいからね」

「ありがとうございます」


冗談っぽく笑う彼女に感謝も込めて笑い返す。

医務室に着き、2人をベッドに寝かせた所で兵士たちは各々の家に帰っていった。

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前線の花嫁 宮野 智羽 @miyano_chiha

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