二人で一つ。
たまごやき
キス。
「ユウ、今日カラオケいかねー?」
「んー?いいよー」
授業が終わり、皆が帰る用意をして騒がしい教室の中、クラスメイトのアカリが誘ってきたので特に予定もないが、考えるフリをしてOKした。
「てかさ、てかさ3組の飯田と1組の田中、付き合ったらしいよ!」
「えー?マジー?」
誰だっけ...?なんてことを考えながら帰る用意をする。
「朝比奈さん」
「げっ...」
聞き覚えのあるうんざりする程、透き通った声にアタシはびくりと反応する。
目の前にやって来たアタシを呼ぶ女の名前は...
「......黒澤...レイ...」
艶のある長い黒髪に、長い睫毛と大きな瞳。健康的な薄ピンクの唇を持つ彼女は、女であるアタシでさえも見惚れてしまうほどだ。
「朝比奈さん、今から私と来てくれるかしら?」
そう言うと、黒澤は教室を出ていった。
はぁ...?アタシ、なんかしたっけ...?
黒澤とアタシは犬猿の仲で有名だ。アタシは校則違反をよくしている。そのせいで、学級委員長の黒澤に注意されるのだ。その度にアタシたちは口論をし、クラス内ではこれが名物だとか言われている。
実際その通りで、アタシは黒澤のことが大の嫌いだ。すっぴんの癖にアタシよりも可愛くて、頭も良くて運動もできて。ずるいと思ってしまう。アタシだって努力してるのに、どれもこれも中途半端だ。だからアタシは、最初からなんでもできる黒澤に嫉妬してしまっている。気に食わないのだ。
...アイツに呼ばれたってことは気づかないうちに校則違反したのかな?この学校、結構厳しいんだよね...。またアイツにガミガミ言われないといけないのか...。
自分の未来を想像して、憂鬱な気分になる。
「ごめんアカリ、さき、行っといて」
「おっけー。ユウ、またなんかしたのー?」
「何もしてない!」
...筈。
ため息を付きながら椅子から立ち上がり、アタシは黒澤の後を追い掛けた。
アタシたちは今、生徒会室にいて、面と向かいあっている。
「...で、なに?黒澤。アタシ急いでんだけど」
「アンタが忘れ物していたから渡そうと思ったのだけど、いらないの?」
「...は?忘れ物...??だったら教室で渡せばいいじゃん」
アタシがそう言うと、黒澤は鞄から一冊の本を取り出した。
「...ッ!それ...!」
「これを堂々と教室で渡して良かったの?まさか、アンタにこんな趣味があるなんてね...」
黒澤が持っていた本は、アタシが先週なくしたと思っていた百合マンガだった。
「あんなにカレシが欲しいとか言ってた朝比奈さんがまさか、女の子が好きだなんてね」
「...うるさい、返して」
見られた。よりにもよって大嫌いな相手に誰にも見られたくないアタシの趣味を見られてしまった。
背中に嫌な汗が流れる。頭の中がぐるぐるしてうまく物事を考えられない。
「ふーん、朝比奈さんってこんなプレイが好きなんだー」
黒澤がマンガを開いてい指差し、嫌味たっぷりに言ってくる。その様子を見たアタシはぐっと拳を握り締めた。
「いいから、返してッ!!」
アタシは大声を出し、黒澤の手を掴んだ。まさか反撃に出るとは向こうも思っていなかったのだろう。驚いた黒澤は後ろに下がろうとしたが躓いてしまい、後ろに倒れそうになる。
「ちょっ...」
勢い余って尻餅をついた黒澤に、上から覆い被さるようにアタシが倒れ込み──
───ちゅ。
キスをしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます