これからどうしよう。
「嘘でしょ...」
黒澤が頭を抱えながらぼそりと呟く。アタシたちはなぜか、離れようとすると心臓に痛みが走り、離れたくても離れなくなってしまったのだ。
「なんでアンタなんかと...」
「それはこっちのセリフよッ!!」
マジ、なんなの...趣味はバレるわ、嫌いなやつとキスして離れられなくなるわ...
「これからどうしよ...」
アタシがほぼ諦めたように空を見上げて言うと、黒澤は突然アタシに詰め寄ってきた。
「なっ、なに」
顔が近い。さっきキスしたことを思い出してしまい、顔が赤くなる。どうにか視線を逸らそうとするも、黒澤のその綺麗でカタチの良い唇を、まじまじと見つめてしまう。
流石に黒澤も近いと感じたのか、顔を真っ赤にして勢いよく後ろへ下がった。
「...なに思い出してんの...!変態...!」
「はっ、はぁ!?アンタこそ意識してんじゃないの!?大体アンタが──」
無駄な争いを続け、少し疲れたアタシたちは我に返り、状況を確認することにした。
「...取り敢えず、約5メートル。これ以上離れると心臓に痛みが走るわ」
「...うん」
「それで...これからのことなんだけど...家...どうする?」
ふむ...確かに物理的に離れられない今、アタシたちどっちの家に行くかという問題が発生する。
「アタシの家はママしかいないけど、仕事でほとんど帰ってこないし...その、黒澤がいいなら、泊まれるよ...黒澤は?」
ただ、女の子を自分の家に誘うだけなのになんだかやけに恥ずかしい。恥ずかしさを誤魔化す為に自分の金髪を指で弄る。
「私は......親とあんまり仲が良くないから...家、でても大丈夫...」
うーん、なんだか地雷を踏んだみたいだ。黒澤が言葉を発する度に負のオーラで空間を満たし、小さくしぼんでいくように見える...
正直、なんて言葉を掛ければいいかわからないから、気にしないことにする。
「じゃあ、アタシの家、来なよ。ママ、今日帰ってこないから」
「......そうすることにする.........襲わないでよ...」
「襲わないわっ!!」
コイツ、人をなんだと思ってんのよっ!
思わず罵詈雑言を浴びせそうになるが喉の一歩手前で飲み込んだ。
「──そうだ。朝比奈さん、バイトしてる?」
「...へ?バイト??...してるけ...ってうわっ!?」
突然、黒澤が詰め寄ってくる。なんかデジャブ。さっきよりも距離はあるものの、十分と近い距離で黒澤は真剣な眼差しを向けてくる。
その形相にアタシは思わず唾を飲み込んだ。
「どこで、働いてるの?」
やけに『どこ』の部分を強調してくる。黒澤の鬼気迫る表情に、茶化さないほうがいいなと思いそのままアタシは答えを口にする。
「コンビニだけど...」
「...コンビニ...」
答えを聞いた黒澤はなにやらブツブツと言いながら考え込んでしまった。その様子が心配になり、アタシは声を掛けようとしたが、途中で遮られてしまった。
「黒──」
「今すぐやめるって連絡しなさい」
「──さ...え?」
「やめるって!連絡しなさい」
「な、なんで!」
訳がわからない。なんで黒澤にそんなこと決められないといけないの!
「なんでって...!アンタがコンビニでバイトしてる間、ずっと側にいないといけないのよ!?」
「...あ、そっか」
そりゃそうだ、今のこの離れられない状況下でバイトなんてロクにできない。もしバイト先が飲食店だったりしたらアタシのバイト中に黒澤はずっと席に座るなりして待っておかないといけない。お客さんやお店に迷惑だ。いや、まぁ。コンビニの中に居続けられるのも迷惑だが。まぁ動き回れる分、まだマシだろう
...それは兎も角、
「そんなすぐにやめられないよ!あ、明日!明日バイトが終わったらちゃんと店長に言うから!明日だけ我慢して!!」
「~ッ!わかったわよ!...なんで私が...」
黒澤はぶつくさ文句を言って、そっぽを向いてしまう。そんな様子にほんの、ほんの少しだけアタシは可愛いと思ってしまった。
「「.........」」
無言の時間が続く。この沈黙の時間に終わりを告げたのは、アタシが先だった。
「取り敢えず...家、帰ろっか...」
「......うん...」
黒澤とアタシはのそりと起き上がる。
アタシたちはどんよりとした空気の中、生徒会室を出たのであった。
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