帰宅。

 アカリに「ごめん!今日用事できたからカラオケ行けない!またいつか行こ!」とメッセージを送っておいたアタシは、黒澤と一緒にロッカーへと向かい、上履きから靴へと履き替える。


 アタシたちは校門を出て、二人並んで歩き始めた。……並んで?


「…ねぇ黒澤、なんでそんなに離れてんの?めっちゃギリギリ攻めるじゃん。なに?アンタってドMなの?痛みで快感感じちゃうタイプ?」

「…うるさい!アンタ、レズだから襲ってくるかもしれないでしょ!?だから離れてんのよっ!」

「はぁ…!?確かにアタシは女の子がその…すっ、好きだけどアンタなんかこっちから願い下げよ!!自意識カジョーじゃないのっ!?マジキモいんだけど!」

「「むぎぎぎ…」」


 アタシと黒澤は火花を放ちながら睨みあうが、二人ともすぐに視線を反らす。こんなやり取りをさっきから何回もしている。もー…なんなのよ、コイツ…マジ最悪だわ…絶対に離れられないなんて…なんで黒澤と目が合う度、こんなにドキドキすんのよ…わけわかんない…きっと、黒澤が私と距離を取るからだ…心臓が痛いからやめてほしいんだけど!……でも、これ以上近寄られても恥ずかしいから嫌だし…あーもう!ムシャクシャするー!


 アタシは心の中で叫びをあげながら黒澤と一緒に一定の距離を保ったまま歩いて帰る。相変わらず心臓はドキドキしたまんまだったけど、不思議と気分は悪くなかった。





「ついたよ。ここがアタシとママの家」


 もうかれこれ16年ぐらい住んでいる普通の一軒家だ。


 アタシは薄汚い扉に鍵を差し込み、回して開ける。古いせいか、なかなか鍵が回らなかったが、何回か試しているとスッと開いた。ほんとこの扉直して欲しいよ…


「ただいまー」

「…お、おじゃまします…」


 黒澤はなぜかわからないが緊張している。何をそんなに緊張する必要があるのか…?まさか、またアタシが襲ってくるとか思ってるんじゃ…


「黒澤、アンタ…」

「べ、別にっ!同級生の家に来るのが初めてで、うれしいって思ってるワケじゃ…ない…からぁ……」


 黒澤は、語尾が小さく尻すぼみになるにつれ、顔をだんだんと赤くしていく。ふーん、へぇ…黒澤って意外と…


「可愛いとこあんじゃん…」

「は、はぁっ!?」


 アタシが思わず口に出してしまったことに、黒澤はびくりと跳ねた後、肩を震わせてアタシを睨んでくる。ちょっと小動物みたいで可愛いと思ってしまった。アタシは小さく頭を振り、邪念を払って小さくため息をついた。


「…あー、取り敢えず、アタシの部屋行かない?」


 そう言ってアタシは歩き出した。


 黒澤との距離は───まだ遠い。


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