戻る方法。

 アタシは今、ベッドの上で足をだらんとさせて座っている。黒澤は、部屋の端っこで、クッションを盾にして、アタシを睨みながら女の子座りをしている。…やっぱり、距離を感じるなぁ。黒澤のことは嫌いだけど、そんなに離れられるとアタシだって少しは傷つく。

 無言の時間が続く。先に沈黙を破り、口を開いたのは黒澤の方だった。


「…今、私たちは離れられないワケだけど…どうすれば戻ると思う…?」


 アタシは顎に手を当て、考える。

 ふむ。確かにアタシたちは約5メートル以上離れられなくなっている。これでは生活するのに少々、いやかなり不便だ。

 そもそも、なぜアタシたちは離れられなくなってしまったのか…離れられなくなる前、アタシたちは…えっと、キ、キスしたよね…もしかすると…


「……キス…とか」


 黒澤はガバッと顔を上げ、両目を見開く。素っ頓狂な顔をしながら唇に手をあて、アタシとのキスを思いだしたのか、みるみる顔を赤くしていった。学校で黒澤はこんなに感情を顔に出したりしなかったので、ちょっと新鮮だ。


「ア、アンタ、キ、キ、キ、キスって!ちょっとアンタ盛りすぎじゃないの!?」


 黒澤は勢いよくクッションを投げてくる。そんなことをすると思ってなかったアタシは反応できないまま避けれずにクッションとキスをした。


「痛っ!ちょっ、何すんのよ黒澤!」

「アンタが私に発情するから!このレズ女!」

「はぁ!?アタシは、そりゃ、女の子が好きだけど、レズってわけじゃ…ってゆーか!アンタこそアタシと変な妄想繰り広げてんじゃないの!?さっきから顔赤くしてさぁ!」

「なっ!?」


 黒澤は怒りと羞恥で顔をから湯気がでそうになるぐらい真っ赤にして、拳をぐっと握り締め唇を噛んでいる。


「と、とにかく朝比奈さんとキスとか絶っっっっっっ対!!!しないから!」

「はっ!当たり前よ!!アンタとなんか死んでも嫌だから!」

「「フン!」」


 アタシたちは二人揃ってそっぽを向いた。


 また、無言の時間が続く。今日は、放課後から黒澤とずっとケンカしたりして、疲れてしまった。お腹空いたなぁなんて思っていると…


 く~~っ


 突然、黒澤の方から可愛らしいお腹の音が聞こえる。黒澤の後ろ姿をちらと見ると、僅かに揺れ、長い黒髪の隙間から見える耳は、赤に染まっている。考えてることは同じなんだなぁと思ったアタシは、静かに笑った。


「…なに?バカにするの…?」

「いや、しないよ。アタシもお腹空いてたしさ。作るよ。黒澤は、何が食べたい?」

「……ハンバーグ…」

「…!わかった」


 正直、答えられると思ってなかったアタシは、黒澤のチョイスに意外と家庭的なんだなと思った。偏見ではあるが、黒澤は見た目がとても綺麗だから毎日高級料理を食べてると思ってた。少し、黒澤の意外の面が知れて嬉しい。


 立ち上がったアタシは、軽い足取りで台所に向かうのだった。


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