離れられない。

「んっ、んんーっ!!?」


 黒澤は顔を真っ赤にしてアタシを突き飛ばす。肩を上下させながら荒い息を吐き、綺麗な髪が乱れるその様は魅惑的だ。


 アタシ、黒澤とキスしちゃった...

 自分の唇に手をあて、感触を確かめる。触れていた部分が、まだ熱い。


「あ、アンタ...最低...!」


 怒りか、羞恥か。どちらかわからないがさっきよりもっと赤くなった顔でぷるぷると肩を震わす黒澤を見て、ふと我に返る。


「ちっ、違っ!今のは事故でっ!!」

「うるさいっ!!」


 必死の弁明も虚しく、黒澤はよろけながらもアタシから逃げるように教室を出ようとする。その瞬間──


「──がッ!?」


 突然、心臓を握り潰されるような感覚が走った。余りの痛さに額には脂汗をかき、目尻には涙を浮かべる。


「だっ...れ、か...!」


 膝をつき、四つん這いでなんとか前に進むと、さっきまでの痛みが嘘のように引いていった。


「...なに?いまの...」


 荒くなった息を整え、未だにバクバクと動く心臓を抑えながら教室から出ようとすると、涙を流しながら胸を抑えて倒れている黒澤がいた。


「ちょっ!く、黒澤!?」


 アタシは急いで黒澤に駆けよった。

 大量の汗を流し、倒れている黒澤の様子に息を呑む。額に髪が張り付いて、頬がほんのり上気している。

 なんか、えっちだ......じゃなくて!


「大丈夫!?黒澤!!」

「問題...ないっ!邪魔...だから、どっか...いって...っ!」


 息も絶え絶えの黒澤が吐き捨てるように言った。そんな態度に少しカチンときてしまう。


「なによ!人が心配してんのにその態度!」

「...うるさぃ...も...帰る...」


 そう言って黒澤が廊下にでた瞬間──


「──ぎゃッ!!?」


 またさっきと同じ痛みが走る。ガクガクと足が震え、立つのもやっとの状態で黒澤の方を見る。

 黒澤は胸を抑えて倒れ込み、顔には苦痛の表情を浮かべている。


「く、ろさわ...!」


 痛みで頭がおかしくなりそうになりながら、黒澤の下に這い寄ると...


「...あれ?」


 スッと痛みがなくなった。

 黒澤も不思議そうな顔をして自身の胸を見つめている。


「黒澤...?」

「朝比奈...さん?」


 黒澤が顎に手をあて、何か考えている。すると、ハッと顔をあげた。アタシは訳の分からぬままぼんやりとその様子を眺めている。


「もしかして...」


 黒澤は立ち上がり、恐る恐る一歩下がると...


「ギッ!?」


 また鋭い痛みが心臓に走る。黒澤慌てて前に戻った。すると、痛みが引いたではないか。アタシは黒澤と顔を見合わせる。


「「.........」」

「ねぇ...黒澤...コレ、アタシたち...」

「...朝比奈さん...私達...」


「「...離れられれなくなってる?」」











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