第3話 約束
コンビニが視界に入る距離になると、英子さんは先に来ていたのが見えた。向こうも私に気付いたのか、大袈裟に大きく手を振って来る。今日は、英子さん一人で、律ちゃんは一緒じゃない。
「あれ、律ちゃんどうしたんですか」
「今日は旦那がうちにいるから」
「そうなんですね」
「っていうか、無理矢理早く帰らせて、家に居させた」
「えっ」
「だって、約束、だもんね」
英子さんは、急に私をぎゅっと抱きしめた。そして、何も言わずに、背中を二度、とんとん、と叩いた。
よかったね。
そんな言葉の代わりのように。
とびっきりのごちそうを食べるにも、よそ行きの服なんか持ってなくて、よれよれの靴で、でも、それが今はなんだか誇らしくて。
私は、少し照れくさくなって、ぶっきらぼうな口調になってしまう。もう、すっかり純粋さなどどこかに置き去りにしてしまって、捻くれるしかなかった、ここまでの道。
「もう、お寿司の口になってます」
「ああ、はいはい。回ってるやつ……」
「金額問わない、って言ってたじゃないですか」
あははは、と、笑い声が彩る。こんな冗談も、軽快に飛んでいく。
これは、私の世界の始まり。どこまで行ったって、また足を取られることもあるし、その度に、私達は、こうしてお互いを引っ張り合う。
終わりじゃなくて、始まりの話。
大きなため息と、小さな約束 胡桃ゆず @yuzu_kurumi
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