胡桃ゆず

志真が働く喫茶店に、いつも仕事帰りに来るお客さん。 お互い顔を覚えて、他のお客さんよりは気安い関係ではあるけれども、特別なんてそこになかったはず。 彼女は言う。 ここのコーヒーが…

職も家もなく、この世界から自分は弾かれている。ここに自分はいない。 そう思いながら街を歩いていた時、子供を連れた女性が、自転車が溝に嵌って困っているところに遭遇する。誰もが見て見…

『一緒の時間』は、少しずつ形を変えていく。 コーヒー一杯分だけが一緒の時間。それが始まりだった二人の時間が、少しずつ形を変えて、当たり前になっていた。 同じことをしていなくても、…

一緒に暮らし始めて四年の里桜と安奈。 それなりに適度な距離を保ちつつ、上手くやってきたつもりだったが、ある日、ちょっとした衝突に発展してしまい……。 積もり積もった小さな不安や…

じりじりと焦げるような真夏の休日。 花梨は志真が働く喫茶店へ、アイスコーヒーを飲みに行こうと出かけたのだが。 お守りを失くした受験生の女の子、子供とはぐれてしまったお母さん……道…

志真はしばらく旅行へ行くのでいなくなるという。 二週間くらい、忙しくしていれば寂しさを感じることもないだろうと思っていた花梨だが、ふと、どうしようもなく志真の不在を感じてしまうこ…

私は知らない男について行った。 どこへ行くのか、何をされるのかも知らず。 でも、殺されようが売られようが、もう自分の人生がどうでもよかったから、関係ない。 さあ、どうするつもりな…

雨音と晴斗は、今日も今日とて、ちょっと退屈なくらいの時間の中、古本屋を営業していた。 ふとしたきっかけで、この古書店には秘密があることを知ってしまい……。

ある出来事をきっかけに、自分の住んでいた街から出ていかざるを得なくなり、田舎で六年間過ごしていた詩人。ひそかな楽しみは、小さなイタチと呼んでいる甥との手紙のやり取りであった。 そ…

ある日、雨音の時計が止まってしまった。 古書店を継ぐことが決まったあの時、動き出した時計が。それ以来、自分の時間が止まってしまったような感覚に襲われ、どうにもぼんやりしてしまう。…

花梨と志真の出会いのお話。 まだ、よく知りもしない頃。カフェの店員と客でしかなかった。 でも、思いを告げたくて、あれこれ散々思い悩んで、チョコレートに思いを託す。 そんなバレンタ…

太陽がない世界。そこには暗闇しかない。 空を飾る星が地上に降り注ぎ、それを採集して明りを取って生活している。 そんな世界に生きる少年と、太陽しかない、永遠に明るい世界で育った少年…

ある何でもない日曜日。 友人と出かけた帰りに、偶然通りかかったドーナッツ屋。 花梨はふと思い立って、ドーナッツを買って恋人の志真の家へ行くことに。 ただ、美味しいものを食べて幸せ…

詩には子供のころから毎日のように通っていた古本屋があった。 古本独特の匂いと、他愛ないおしゃべりが、大好きな時間。 でも、ずっと同じではいられない。時間とともに、人は変わっていか…

ある日、一羽のウサギを見つけてから、不思議の国へ迷い込んだ……わけではないはずなのに、不条理なことばかり起きる。 これは夢なのかと何度も疑ってみるけれど、何度確かめても現実なのだ…

縁というものが、そこにあるようで、ないようで、あるようで。 恋ではないけれど、恋のようで、恋じゃなく。 君は、たった一瞬だけ僕の人生を通り過ぎただけの人になるのか、それとも、手を…

焼き芋の、甘い香りとほくほくまったりした味は、僕を懐かしい気持ちにさせて、兄との記憶を思い起こさせる。 11/23『いい兄さんの日』に、いい兄さんの話を書きたいと思い立ち、ちょ…

ツイッターの診断メーカーで引き当てた創作のお題「手のひらに口づけを」をテーマにして書いてみました。 少女だった頃の、これは『過去』であったら……。