葬式の夢
劉度
ご芳名
怖い話、って言うには幽霊も妖怪も出てこないんですけど。私も怖いと思ってないし。
でも話すと、みんなおかしいっていうから、多分怖い話なんでしょうね。
10年くらい前、3日連続で葬式に出たんです。
帰ってきたらくたくたに疲れてて。ご飯とお風呂を済ませたらすぐに寝ました。
その時見た夢の話です。
夢の中で飛び起きたんですよ。
何だかよくわからないけど、凄く焦ってて。電車に乗ってて寝過ごしたような感じですね。
それで慌てて着替えるんですけど、普通の服じゃなくて、喪服を着るんです。
それで、ああ、そういえば葬式だ、って思ったんです。葬式から帰ってきた日の夢の中でも葬式ですよ。完全に引っ張られてますよね。
着替えて部屋の外に出ると、もう葬儀場なんです。ほら、夢の中だとよくワープとかしません? あれです。
ただ、夢の中ですから、その時はワープしたことは不思議に思いませんでした。
周りの様子を見ると、お葬式はまだ始まってなくて、弔問に来たお客さんが雑談をしたり、椅子に座って待ってたりしていました。
何を喋ってたか? いや、わかりませんね。夢とはいえお葬式ですし、皆さん小さな声でしたから。
それで周りを見て気付いたんですけど、受付に列ができてたんですよ。
随分長い列だなって思ったら、受付に女の人ひとりしかいなかったんです。
それを見て、ああ、ひとりてやってるのにお客さんがいっぱい来ちゃったから、手が足りてないんだな、って思いました。
そしたら急に、手伝おうと思ってたのに寝てて遅れちゃった! って思って焦るんですよ。
意味わかんないんですけど、夢の中ですからね。不思議に思わないで、すぐに受付に入りました。
「すみません、遅れました! 手伝います!」
そう言うと、先に入ってた女の人が私の顔を見て変な顔をしてました。困ってたのかもしれません。
でも、その時の私は慌ててたから、そのまま芳名帳の前に立って受付を始めちゃったんです。
やること自体は難しくなかったんですよ。弔問客の人に記帳してもらって、香典を受け取る。それだけです。あとはちょっと挨拶するだけ。
いや、正式な作法とは違いますけど、何しろ3日連続で葬式に出てましたからね。見様見真似でそれっぽいことはできました。あと、夢ですし、あれで良かったんだと思います。
それに私、学校でも会社でも真面目が服着て歩いてる、って言われるくらい真面目に見えるみたいで、真剣にやれば何やっても大目に見てもらえるんですよ。あはは。
そうして受付の手伝いを続けてたんですけど、人の数がとても多かったから、やってるうちに夢中になってました。
お客さんが皆、私の顔を見ると驚いた顔をしていたけど、全然気にしてませんでしたよ。改めて考えると、当然なんですけど。
それで、しばらく経ったら弔問客の列はきれいさっぱり無くなりました。
芳名帳にはびっしり記名がされていたし、お盆には香典が山積みになってました。
お葬式で言うのも変ですけど、大繁盛でしたね。
夢の中の私は一仕事終えた気分で、芳名帳とお盆に乗った香典を、一緒に受付をしていた女の人に渡しました。
女の人は凄く不思議がっていたけど、素直に受け取ってくれました。
それで、さあ帰ろうかって思った時に、ふと気になったんですよ。これ、誰の葬式なのかなって。
散々手伝っておいて、主役の故人を知らないってのも変な話ですけどね。
普通のお葬式は会場のどこかに『なんとか家』みたいな案内があるんですけど、夢の中だからか、そういうのが無かったんです。
お客さんの話もよく聞こえなかったから、どういう故人だかわかりませんでしたし。
それで、ご遺体がある祭壇に遺影が置いてあるじゃないですか。
あれを見れば誰だかわかるだろうって思って、見に行ったんです。
椅子に座ってるお客さんの間を通って、棺の上に飾られた笑顔の写真を確かめました。
私の顔でした。
そこで夢から目が覚めました。
まあ、なんていうか。自分の葬式を手伝う夢だったんですよ。
『トムソーヤの冒険』だと、主人公のトムが死んだと勘違いされて、葬式が挙げられてる最中に帰ってくる、っていう話がありましたね。それよりも上ですよ。
そりゃあ、お客さんもみんな怪訝な顔をしますよね。葬式に来たのに、死んだ人が黙々と受付やってるわけですから。
疲れてると変な夢を見ることはありますけど、これはとびきり変な夢でしたね。連続でお葬式に出てたから、こんな夢を見たんでしょうか?
葬式の夢 劉度 @ryudo
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