第4話 夏ではない

こんなに暑いのに

もう夏じゃない

肌に感じる風が 

なんだか 今日は

違うんだもの


毎年 そんな瞬間が

突然やってくるのに

不思議ね

いつも初めて知ったみたいな 

気分になる


少し前から感じてた


隣にいるのに

いつもと変わらない

時間を過ごしてる

ハズ

なのに


だけど


ああ

おんなじことなのね


夏の扉が

「ちゃんと見なさいよ」

私に言い放ち

ぱたんと閉じた


何かが

誰かが

悪いなんてこともなしに


空気が入れ替わって

渚から潮が引き

湿ったセンチメンタルだけが

取り残されて

お別れがやってくる


自由だと うそぶく 私は


ここで

じっとしていて

季節が去っていくのを

見送るほうが性に合ってて


ごめんね

最後まで

好きでいさせてあげられなくて


私を傷つけるなら

あなたもちゃんと傷ついて欲しい

勝手に好きになって

勝手にいなくなるんだから


違和感に気付かぬふりの

優しいつもりでこれっぽっちも

優しく無い

ずるいあなたの

嘘っぱちなぬくもりは

空寒くって 

でも確実に温かくて

名残惜しくて


私は

心を閉じて

ひっそり背中に寄り添った


ん? どうした?

ううん? なんにも


ねえ私

怖いけど 泣かないで

逝く季節は止められないでしょう?

なすすべが あるようでない

泣くのですら 自分で止められないのに


独りの準備を始めよう

いいえ ずっとこのままでいさせて

本当は要らないくせに

いいえ コマ送りで引き留めたい 


しっちゃかめっちゃかの方向線


私 多分 今 淋しく なりたくない

ただそれだけよ

10年後も泣き続けてる自分の姿 

想像できないもの

大丈夫 黒くてぽっかりしても 大丈夫

私は 私に戻るだけ


馬鹿じゃない

知らなかった時とは 違うのに

やっぱ やめて

やっぱ やだよう 

何が大丈夫だっていうの 

ダメだよう あなたがいいのに

大丈夫な 気なんて ちっとも しやしない


支離滅裂の蹂躙


息を吸って吐くように

ごめんね

あなたに捨てさせたい


新月一歩手前の月に腰掛けて

それを 私 仕方なく 

予感しながら

星の点滅音を

静かに 聴いている





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る