薄荷の滴

蜂蜜ひみつ

第1話 人魚

むかしは


身体を脱いで 空だって飛べたのに


何処へだって泳いで行けたのに


羽も 尾鰭おびれも 高い空も 青い海も 


全部全部 捨てたのに


陸に上がったのに


これ以上


羽あったところをむしらないで


えらで呼吸することも禁じないで


今はもう片腕 しか ないのに


片腕しか ないから 始めた水遊び


夜中抜け出して 


リーフ沖と 外海そとうみの間で

ぷかり浮かんで星空 見上げたまんま

眠ったりしないから 


陸でちゃんと寝るから


深海も 遠洋も 山越も

行けない 行かない ことは知っているでしょう?


入江から出ないから


片腕で藻屑拾いしてるから


目に見える鎖をつけないで


自分の意思で

自由じゃないのは

大嫌いなの


目から溢れた海で

泡になって消えてしまいそう


お願い

鎖はつけないで


入江から出ないから


水槽は大嫌い




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