第39話 エミリーの日常

「エミリー、おはよう。オースティンくんも元気そうね。っていうか二人はいつも一緒にいるのね。付き合ってるとはいえ四六時中一緒にいたら嫌にならないの?」

 ヴェンと一緒の時間に口をはさんできたのはエマ・オグレディ。魔術学部に入学してから研究テーマも近かったので一緒の研究室で学んでいる友人である。

「四六時中は一緒じゃないよ! だってヴェンは剣術学部だし、研究のときはエマとほぼ一緒じゃない」

「えぇ~だってちょっと休憩があるとすぐにオースティンくんに会いに行くし、研究中もヴェンはなにしてるかなぁとかぼそっと言うじゃない。これはもう四六時中一緒なのと同じだよ」

「ちょっとエマ! 余計なこと言わないでよ!」

 エミリーは耳を真っ赤に染め、エマの背中を平手打ちする。強めだったのかエマがかけているメガネの位置がずれてしまっている。エマに余計なことを言われ、ヴェンのことをみられずにいたが、ポンポンと肩をたたかれ顔をむけるとにこーっといつもと同じように優しい笑顔のヴェンがいた。

「僕も同じだよ。エミリーのこといつも考えちゃうし、四六時中一緒にいたいと思うほど好きだよ」

 エミリーは耳だけではなく顔全体が真っ赤になったんじゃないかというくらいになっている。その横ではやれやれとエマが一冊の本を頭に軽く乗せている。

「オースティンくん。君たち二人が付き合っているのはわかっているけれど、そんなイチャイチャされたら見ている側はたまったものじゃないよ。ただでさえ、魔術の天才で学力もトップ、才色兼備のエミリー・ロクサスと剣術学部で無名ながらシピン先輩を決闘で倒した塩顔イケメンのヴェン・オースティンというパワーカップルなんだから付き合っているのはビジネスです的な真相じゃないと納得できない。イチャイチャしないで完璧すぎ」

「いやそんなに褒められても」

「褒めてないし、苦情だし」


 エミリーとヴェンは互いに顔を向け、困ったような満たされているような表情で微笑みあう。夏の暑さもだんだんと緩やかになっていき、新緑の木々だった学院までの景色は徐々に紅葉への準備を始めている。


「そういえばオグレディさん。その持っている本はどんな本なの?」

「これ? これは私のお気に入りの本なんだけど・・・・・・」

 ヴェンは一瞬だけ、眉間にしわを寄せるような表情になるがすぐにいつもの表情に戻る。

「魔術基礎学って本。今までは魔術は既存のものを組み合わせるっていうのが真理だと思っていたけれど、エミリーがその概念ぶち壊したからね。魔術は生み出せるものだってわかってからこの魔術基礎学を読み直すと解釈がかわってくる。魔術の土台となっている本なんだよね。何度読み返しても発見があるから好きなの。ってなんでほっとしたような表情になるの?」

「・・・・・・え、いやそんな表情してたかな。研究熱心なのに基礎をいまも学び続けてるのはすごいなって」

「やっぱり魔術は基礎が大事よねエマ。誰かさんみたいにうまくやれるコツを教えてくれーとか基礎をすっ飛ばすのはよろしくないよ」

「それ僕のこと言ってる? いいんだよ僕は剣術学部だから」

「剣術学部だって魔術使うでしょ? 今私たちで空間転移の魔術研究してるから、完成したら講義にまぜてあげるよ。空間転移して。あっもう今日は研究棟にいかないといけないんだった。ヴェン、また後でね」

 エミリーとエマは魔術学部へつながる道へと歩みを進める。エミリーがふとなにを思ったか、振り向くと、ヴェンはまだ剣術学部と魔術学部の分かれ道のところで止まっていた。

「あれヴェンまだあそこに立ったままだ。どうしたんだろ・・・・・・」

「エミリー早く行かないと、今日は賢者ローズに研究課程報告するんでしょ。あの人朝の時間以外神出鬼没だからこの時間逃すと報告できなくなっちゃうから早く行こ」

 

 

 エミリーはヴェンが気になりお昼ごろに魔術学部を抜け出してヴェンをお昼に誘った。魔術学部の1Fの食堂だ。基本は学部生専用だが、エミリーは特待生でヴェンは剣術学部最強の先輩を破った神童として噂になっているため黙認されている。

「ヴェンさっきなにかあったの? 道で立ちつくしていたようにみえたけれど」

「ただぼぉーっと空をみてただけ、エミリーと離れ離れになるのは寂しいなって」

 エミリーは思わず飲んでいた水を吹きだしてしまった。制服にこぼれた水をヴェンが拭き取る。エミリーはよりいっそう顔が真っ赤になる。

「ヴェンは小さい頃からさ、よく恥ずかしいこと私に言ってくれたよね。なんでそこまで好きでいてくれるの?」

「それはずっと君を見てきたから。もう離れたくないんだよ。それこそ四六時中一緒にいたいんだ。だから好きだよ」

「私も好きだよ」


 食堂でほかの学生もいる中で気にも留めず二人の世界に入り込んでいた。


 エミリーは小さい頃にいじめっ子から石を投げつけられ泣いているところをヴェンに助けられた。実力は間違いなくエミリーが上でやり返すこともできたはずだが、引っ込み思案だった彼女はやられっぱなしだったのだ。そんなときにヴェンが現れた。このときからエミリーはヴェンに憧れと恋心を自覚した。

 魔術の天才だと言われ、王子一行のギルドにいれられ、迷宮区に挑んだ。ゴブリンしかいないという情報だったが、変異体のイヴァゴブリンと対峙。不意打ちや、王子を守りながらの戦いだったこともあり、圧倒的な力の前に命を落としかけそうになったところにヴェンが駆け付けてくれた。ヴェンは剣と魔術でイヴァゴブリンを対峙してくれた。ヴェンは魔術なんて得意じゃないけれど、自分ができる範囲で工夫していた。このことをきっかけにエミリーは魔術は新しく生み出せるものだと確信した。

 エミリーとヴェンは同じ誕生日で、その日にヴェンから決闘を申し込まれた。

学院に推薦枠で行くことが決まったからだろうか、いままで決闘なんてヴェンとしたことがなかったから不安だったけれど、どういう意図かわからなかったけれど、ヴェンがあまりにも真剣だったので決闘を了承した。でも、ふたを開けてみればヴェンから告白された。

 

 もちろん私は了承した。


 学院に一緒に進み、卒業後も一緒にギルドに入り冒険者としてともに生きようと話している。いつでもヴェンはエミリーのそばにいる。

 

 それがエミリーの日常だった。

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愛する幼なじみが転生者だった件 古希恵 @takajun

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