第38話 アルバイト店員は女子高生を救う
仕事でミスをしてしまい、社内から冷ややかな目でみられ、罵られ、心が折れかけた。引きこもろうと思っていた。世の中に絶望し、なにもやる気が起きないと思っていたのだが、実家に戻ってからというものの想像以上に自分は前向きだった。
職を失い、35歳で実家に戻ってきたのに人生七転び八起きだと思える。まだまだこれからだ。小さい頃から努力を続けることに意義を見出していた。中途半端になるくらいならやり切る。会社ではミスをしてしまい、やる気を失いかけたが、環境を変えればまた立ち上がれる。人生は勉強だ。体を鍛え、知識を蓄える。まずは再度立ち上がるためにバイトでも始めようと思ってコンビニでバイトを始めた。
バイト先には年下も年上もいる。時には年下から仕事を教えてもらうこともある。人生は学びの連続で、誰からでも学ぶことはある。社会人を経験してるからといって変なプライドは持ち合わせていない。教えてもらえることに真剣に耳を傾け、自分のできうる範囲で最大のパフォーマンスをする。地道に積み重ねることが大事なのだ。
とある日のバイト終わりの帰り道、スマホを一心不乱に見続ける女子高生が歩いている。全く周りに気を使っている様子はない。ただただスマホの画面を見続けている。信号が変わりかけているが女子高生はそんなことを意に介さないようで信号が変わっても歩き続ける。信号の奥にはスピードをおとさないトラック。信号は青になっているがまだ女子高生は横断中だ。トラックは全然スピードを落とす様子もない。やばい轢かれる。
そう思ったとき、二人一緒に轢かれる映像がフラッシュバックする。
「「同じことを繰り返すな! 今なら救える! 迷わず走れ!」」
頭の中で強くだれかが叫ぶ、ぼんやりと叫んでいる人のイメージもでてくる。走馬灯なのだろうか。すらっとした体、セミロングの黒髪、シルエットしかイメージできないがたぶん美人なのだろうという雰囲気の女性が頭の中で叫ぶ。
その瞬間、俺は走り出していた。一瞬の戸惑いもなく、走り出していた。
普段から筋トレやランニングを欠かさず積み重ねてきたからだは脳のイメージと実際の体の動きが一致する。足はもつれず女子高生を救うために加速する。
「危ない! 前をみろぉ!」
俺の叫び声に女子高生はトラックの存在に気づくが動かない、いや動けないのか。トラックはなおスピードを落とさずに向かっている。
俺はそのまま女子高生に向かって走り、ためらわず抱きかかえ、自らを彼女の盾として道路に飛び出した。車の下敷きになる前に身を挺して守った。
トラックのタイヤが路面を擦りながら停まり、周囲に衝撃が走った。俺と女子高生は地面に倒れ込んだが、幸いにも無事だった。
間一髪で女子高生を救う。
「あ、ありがとうございます・・・・・・。すみません、全然見てなくて・・・・・・」
「いいんだ。無事だったなら。でも、スマホにばかり気を取られてたら命を落としかねない。気を付けるんだよ」
怒られると思って身構えていたのか、女子高生はうつむいていたが俺の言葉を聞いて顔をあげ笑顔を見せる。
「ごめんなさい。でも、お兄さんすごいね」
アルバイト店員は女子高生を救う。
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