読み終えた後、思わずため息

 自分が近づけば、汚してしまう。
 そんな怖れを抱くほど、強く激しく憧れるあの人。綺麗で、どこか陰のある彼──野菊さん。

 物語は、野菊さんの面影を今も尚求めてしまう男、織口の視点からはじまります。
 織口と野菊さんは、たった一度の晩、言葉を交わしただけの関係でした。
 なぜ織口は、野菊さんに執着したのか。
 そして時は過ぎ、己の死期が迫るのを感じながら、織口が待つ人物とは?

 過去から現代へ、世代をこえて想いが通じ合えたような幸福感と、物悲しさの残る結末。
 物語の余韻に浸っているとき、ふいに目に飛びこんできたのは全6話という文字。え……嘘でしょ?
 たった6話、1万字に満たない物語が、まるで映画のような深い世界観を作り上げていることに驚愕します。