第49話 養殖にとりかかる

 養殖する魚が決まった。ニジマスとナマズである。

 なんたって地底湖だ。海水ではなく淡水で育つ魚にしなきゃならない。


 いま俺とショーグンは、地底湖に網を張って、いけすにしているところだ。

 全面を覆うのはムリなので、逃げていかないように穴をふさぐ感じで張るのである。


 そしてパイプをいくつか通した。

 飲料水として山からの湧水を通すパイプ。

 湧き出た温水を風呂場まで運ぶパイプなどだ。


 地底湖の温度は18度ぐらい。湧き出た温水と混じりあってそれぐらいになっている。

 いまのところ養殖に適した温度のようだが、太陽光が届かなくなったらどうなるか分からない。

 ヒーターで温める必要もででくるだろう。


 ただ、地底湖で気になるのは水質だ。

 とくに湧き出る温泉。鉄分やカルシウム、ナトリウムにマグネシウム。それらが多く含まれていると養殖はできなくなってしまう。


 温泉と言えば、金泉、銀泉だ。

 金泉は塩と鉄分、銀泉はラジウムと炭酸が含まれてるんだと。

 温泉としては嬉しいが、そんなもん混じってしまえば困るのだ。


 だから水質調査をした。

 そういう会社があるらしく、湧き出た温泉を持っていって、成分を見てもらうのである。


「結論から言うと、お湯っスね」


 どうやら湧き出ていたのは温泉ではなく、単なる温水だったようだ。

 もちろん各種鉱物も含まれていたが、ごく少量。

 天然水であれば、当然含まれているべき量だ。


 あー、よかった。

 これで養殖の可能性が見えてきた。

 とはいえ、あくまで見えてきただけだ。


 ノウハウもそうだが、もっとも問題となるのが魚のエサだ。

 養殖なのだから、こちらでエサを用意しなければならない。


 ところがだ。

 魚のほとんどは肉食。いくら品種改良で作物を育てても、エサとして使えんのだ。


 どうすんべか。

 いちおうエビを養殖する予定ではある。

 食べてよし、魚のエサにしてよしのスーパー甲殻類である。


 ちっちゃいヌマエビとか野菜を食べてくれるしな。市販のエサとコイツらでなんとかやっていくしかないか。

 昆虫を繁殖させるって手も、あるにはあるんだけど……。


 でも、それはイヤだ。

 きっしょい虫に囲まれて十数年も洞窟生活とか耐えられない。

 へたしたら最後、食うものがなくなって虫を食べましょうとかだってあり得る。


 いやだいやだいやだ。

 俺は美食家びしょくかのまま氷河期を乗り切ってやるのだ!


「旦那様。これ、もう収穫できるんじゃないですか?」


 身震いする未来を想像して、ジタバタする俺にショーグンが話しかけてきた。

 お! いよいよ試作品の収穫にこぎつけたか。


 収穫物の根元をチョッキンコとハサミで切って、つまみあげる。

 それから、うにゅにゅにゅにゅんとマヨネーズをかけて口に運んだ。


「うま!」

「おいしいですね」


 収獲したのはホワイトアスパラだ。

 地底湖の水を使っての水耕栽培である。


 アスパラは育つのに数年かかる。しかも土もいる。

 だから『もやし』とかけあわせた。

 大豆を水につけてると一週間で、もやしになる。

 その特性を利用したってわけだ。


 太陽をあびればグリーンアスパラ。

 太陽をあびなければホワイトアスパラになる。

 洞窟なので自然とホワイトアスパラになるつー話だな。


 おそるべし品種改良の力。

 アスパラが一週間で育つとは。


 これまでラディッシュをベースに、栽培を時短してきた。

 ここへきてさらに効率的なベースとなる作物を見つけたのである。


 なんたってもやしは太陽光を必要としない。

 タネに蓄えられたエネルギーで生長するのだ。まさに洞窟暮らしの救世主である。


 このアスパラは『もやアスパラ』と名づけよう。

 そして、もやシリーズの野菜を育てまくってやるのだ。


 うはははははは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙人からの贈り物、品種改良BOX。~ポンコツメカが農業で地球を救うって? いや俺はムリだと思う~ ウツロ @jantar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ