第48話 ちゃくちゃくと準備を進める

 冬がやってきた。

 北風ピューピュー、家でコタツにでも入っていたい気分である。

 しかし、俺は働かねばならぬ。

 秘密基地をならし、電気をはわせ、燃料と食料を備蓄せねばならんのだ。


 そう、俺はアリンコだ。

 キリギリスどもが浮かれているあいだ、せっせと冬ごもりの準備を進めているのだ。

 十二月になると、テレビをつければクリスマス一色だった。

 やれ、どこどこのホテルが素敵だの、イルミネーションがキレイだの、テーマパークがリニューアルしただの。

 まったく、なげかわしい。


「旦那様。クリスマスプレゼント、マイさんに何あげたんですか?」

「……手袋だ」


 スチールの棚を設置しながらショグンは話しかけてくる。

 この洞窟もだいぶ秘密基地らしくなってきた。キャンプと思えば、数日住めなくもない。

 ちなみに、クリスマスは俺も楽しませてもらった。

 一日マイとのデートである。それぐらいは息抜きしないと、精神がすり切れてしてしまう。


「温泉旅行はどうでした? 楽しかったですか?」

「……旅行じゃない。視察しさつだ」


 秘密基地には温泉が湧いている。

 それをどう活用するか調査のため温泉施設へと向かった。

 だから視察。マイと一緒だったけど、それでも視察。


「カニは……」

「やめろ! 俺が悪かったって。だからもういいだろ」


 ショーグンはチクチクとイヤミを言ってくる。

 日曜日も関係なく働きづめなんだ。

 ちょこっとぐらい遊ばせてくれたっていいじゃん。


「いや、わたしは別に……」

「オマエだって行ったじゃん」


 カニ旅行には母とショーグンも連れていった。

 焼きに天ぷらにしゃぶしゃぶと、二人ともモリモリ食っていたじゃないか。


 大変だったんだぞ! メカのおまえをごまかすの。

「え! 四名……さまですか?」みたいなことを言われて。

 それが何か? って開き直るしかなかったからな。

 普通にカニ食うオマエを見て、従業員さん固まるし。

 ビデオカメラで撮影して、ドッキリっぽい雰囲気をかもしだすとか、小細工したんだ。

 まあ、バレたところで、もはやどうでもいいけどな。


 なんだろうね。もうなくなってしまうかと思うと、とたんに名残惜しくなるもんなんだな~。

 カニだってもう食い納めかもしれないのだ。

 牛だって豚だって、これから一生食べられないかもしれない。


「いえ、そうじゃなくて養殖ですよ。カニって養殖できないんですか?」

「あ、そっち?」


 地底湖で魚を養殖する計画を立てている。

 その候補としてカニはどうかとショーグンは言っているのだ。

 ショーグンはカニを気に入ったみたいだ。

 毎日食べられれば最高ってことなのだろう。


「ショーグン。残念だが、カニは養殖できないらしい」

「え~」


 ネットで調べたところ、狭いと共食いするそうだ。

 スペースの限られた地底湖では難しい。

 それにカニは成長が遅い。効率がとっても悪いのだ。

 養殖は生き残るためにやる。

 難易度がもっとも低い魚を選ぶべきだ。


「カニ缶、たくさん買おうか」


 缶詰に頼るしか手がないと思う。

 肉もそうだな。日持ちしそうなレトルトとか探してみよう。

 チーズとかどうだろう?

 熟成させたりするから、けっこう保存ききそうなんだけどな。


「しかたがないですね」

「最近の缶詰はうまいからな。それで十分だよ」


 これ以上贅沢言ったらバチが当たる。

 それに缶詰は悪い選択ではないと思う。

 食べ終わった缶は、いずれ使う可能性もあるんだよね。

 とりあえず今は、特に使い道思いつかないけど。


 容器としての金属が、今後貴重になるかもしれない。

 まあ、街の被害次第ではあるんだけど。

 食糧は必ずなくなるが、ナベやらフライパンやらはなくならないと思うんだよね。

 隕石が近くに落ちて爆風で消し飛ぶとかでもない限り。


 でもあれだな。食糧難が予想されるのに、その食料を消費する頭数にショーグンがしっかり入っているんだよな。

 メカなのにおかしな話だ。


「あ、そうだ。旦那様」

「ん? どうした?」


 なにやらショーグンは思いだしたようだ。

 他に俺がサボってたこととかじゃないよな。さすがにもうないはずだ。

 というか、メカが思いだしたって冷静に考えればおかしいけどな。

 知っているか知らないか、分かるか分からないか、どちらかだと思うんだけど。


「バイオエタノールの方はどうなりました?」

「あー、うん。それね」


 バイオエタノールか。

 ある意味一番大事なところだな。


「うまくいかなかったんですか?」

「う~ん、そんなことも……いや、やっぱりそうかな……」


「なんか煮え切らないですね」

「まあな」


 いや、バイオエタノールじたいは出来たのよ。

 サツマイモの炭水化物を糖に変えて、それを酵母菌で発酵させて、アルコールにしてって。

 けどなあ。

 そこからバイオエタノールにするには、さらに蒸留させなきゃいけない。

 だから熱する必要があるわけよ。それにエネルギー使っちゃうわけ。

 で、サツマイモ汁500mlに対して、できたバイオエタノールが4ml。

 できた以上の燃料を作るときに使っているっていうね。


 それに理科の実験レベルでできるバイオエタノールの量って、実用的じゃないのよね。

 アルコールランプがちょっと燃えるぐらいしか作れないのよ。


「人手がいるかなあ?」


 もっと知識を持った助っ人とか。

 俺たちだけでは限界なような気もしてきた。

 でも、そんなやついるかね?

 俺の話を信じてくれて、洞窟での共同生活も可能って。

 ちょっと思いつかないなあ。


 いちおう別プランとしては、バイオエタノール生成装置なるものの入手だ。

 どうやら、企業が作って販売しているらしい。

 しかも、レンタルもしてるんだと。

 そこにコンタクトとっている最中ではある。


 レンタルってのがいいよな。たぶん、返さなくて済むと思う。

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