第47話 地底湖のあとは発電機

「こちらにお願いしま~す」


 搬入に来た業者を手招きする。

 今日は発電機が到着する日だ。

 秘密基地のちょっと入ったところに設置してもらうのだ。


 自然の洞窟とつながったこの秘密基地だが、奥のほうはどうやらいくつか外につながっているみたいで、空気の流れがそれなりにあった。

 洞窟で気をつけるべきは酸欠だ。その心配がなくて一安心である。

 ただ、発電機を設置するとなると別だ。排気ガスで一酸化炭素中毒とかシャレにならない。

 しっかりとダクトを伸ばして、外へと排出するつもりである。


「え? その中ですか?」


 搬入業者はすごく嫌そうな顔をしている。

 そりゃあそうだよな。洞窟で手招きするやつとか絶対コエーもん。

 しかも、その洞窟の中に設置しろとか、俺だったら逃げるね。


「ええ、よろしくお願いしやす!!」


 目一杯めいっぱいの笑顔で応対する。

 少しでも不安を和らげてもらうためだ。


 ちなみに設置場所までは、ピカピカ輝くイルミネーションでデコられてる。

 新しい形のキャンプ場ですよ、みたいな雰囲気をかもし出すのだ。


 イルミネーションに電気を供給するのは小型の発電機。

 ショーグンに地下の温泉を見せられたあと、あれやこれやと購入に走った。

 その中のひとつである。


 もうあんまり金がない。

 支払いは禁断のリボ払いである。


 このリボ払い。

 ネットの評判はすこぶる悪い。

 人によっては悪魔の返済システムだとも言う。

 しかし、払う必要がなくなる未来を知っている者にとっては、天使の返済システムだ。

 ほんとは隕石衝突直前にクレカで買い物するのが一番いいんだけどね。

 でも、さすがにそのころになると、みんな気づいているだろう。

 そうなると買い物なんてしてられない状況である。

 そもそも、店じたい開いてるとは思えないしな。


「このへんでいいですか?」

「いや、もう少し奥でお願いしやす!」


 ちょっとでも入口に近いところで作業したい業者と、ベストなポジションに設置したい俺との攻防戦である。


「へへ、こいつはお心づけですが……」


 そう言って封筒をわたす。

 中は二千円ずつ入っている。買収だ。

 作業員は二人。合わせて四千円の出費だが、ここで妥協するより四千円をだして理想の位置に発電機を置きたいのである。

 作業員さん。それで何か美味しいものでも食べてくれよ。

 貯金はするなよ。死んだら使えないからな。


 そんなかんなで設置が終わり、ショーグンと発電機を見てウットリする俺である。


「カッチョイイ……」


 見た目はダサいが、これが俺たちの命をつないでくれると考えると、とたんにカッコよく見えてくるものだ。


「けっこう馬力あるんですよね?」

「まあな」


 なんと出力は驚異の125KVA。すなわち125000Wってことだ。

 600Wの電子レンジなら208台同時に動かせる計算だ。


 どう考えても家庭用ではない。

 あの店員、クソだな!

 ドえらいもの売りつけてくれたもんだ。ジャコビニ流星群が気になりすぎて、俺は冷静な判断力を失っていたようだ。

 ――だが、しかし!

 今となっては感謝しかない。


 なんたってコイツは、バイオエタノールを前提として作られている。

 そこが、俺にとって超アドバンテージなのだ。


 バイオエタノールは植物から生成される。

 サトウキビやトウモロコシ、サツマイモなどの糖質が原料だ。

 うまくやれば自家製の燃料ができるってことだ。

 ガソリン、軽油が買えなくなっても自分でエネルギーを生み出せる。これが生き残りには必須条件のハズ。

 それをクリアできるのだ。


 普通ならうまくいかないだろう。

 だが、俺にはデタラメな品種改良がある。

 これならもしかして、光の届かなくなった大地でも育てられる品種ができるんじゃないか?


 あるいはLEDライトを使い、使った以上の電力を生み出す植物を作り出せるかも。


 だからこその、この発電機。

 ハイブリッドカーボンニュートラルなのだ!


 まあ、バイオエタノールって普通に、軽油、ガソリンのかわりに使えるんだけどね。

 この発電機じゃなくても、まったく問題ない。


 車もガソリンのかわりに入れれば走る。

 べつにそれ専用の車じゃなくていい。


 でもまあ、前提で作られてたら安心じゃん。

 知識がないやつは安全を買っとけってな話ですよ。いや、知らんけども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る