エイリアン・キャッチャーズ

kou

エイリアン・キャッチャーズ

 校庭から運動部の喧騒が聞こえる。

 中学生の少年と少女が放課後の教室で、勉強会をしていた。

「ねえ。どうして地球に生き物が生まれたのかな?」

 光の反射で青く輝く長い黒髪をポニーテールにした、小柄で華奢な少女は唐突に言った。

 名前を松村まいという。

 対する少年は、身長が中くらいで、やや細身の体格をし、活動的で元気な印象があった。

 名前をいずみ伸行のぶゆきという。 

「え? なんでって……。難しいこと訊くね。地球が46億年前に誕生して、生物が誕生したのは40億年前。ユーリー・ミラーの実験によると落雷でアミノ酸ができたって……」

 突然の質問に対して、伸行は戸惑いながらも答えた。

 しかし、舞は納得していないようだ。首をかしげて、さらに聞いてくる。

「おかしいわよ。アミノ酸はタンパク質で命じゃないわ。地球は、最初はどろどろした火の玉で海も酸素もなく、生物は存在できない世界だった。そんな地球にどうやって命が生まれて、今のような生物が暮らす惑星になったの?」

 生物の勉強をしていて、舞の疑問に伸行は驚く。

「……タヒチの植物の60%は島の外から鳥が種を運んできた外来種って聞いたことある。これを宇宙レベルで考えたらどうなるかなって思ったんだけど、パンスペルミア説と言って、地球上の最初の生命は宇宙からもたらされたという仮説があるんだ」

 少し考えて、伸行は答えた。

 それを聞いて、舞は顔を輝かせる。

 どうやら彼女の望む答えだったようだ。

「それよ。この地球の命は、きっと宇宙から来たのよ!」

 目を輝かせながら、舞は言う。

 そして舞の言ったことは、現実となって二人の前に現れることになる。


 ◆


 夕暮れ時の森林公園。

 一匹の生物が駆け抜けた。

 それは中型犬くらいのサイズで、全身を覆う鱗があり、鋭い爪を持っていた。

 体長ほどもある尾を揺らし、四本の足で歩く姿は、一見トカゲのようだ。

 しかし、明らかにトカゲとは違う特徴があった。

 頭部にある、2本の触覚である。

 目はなく、耳もない。

 代わりに、二本の触手のようなものが生えているのだ。

「伸行。行ったわ!」

 茂みの中から、舞が叫んだ。

 生物は伸行目掛けて突進して来る。

 伸行は腰にある30cm程の棒を手にスイッチを押すと、強化スプリングが棒を一瞬で伸ばしカーボンファイバー製の刺股さすまたへと変形させる。

 刺股とは、相手の動きを封じ込める武具だ。

 伸行の物は、同時に先端の刃を展開し、槍にもなる。

 伸行は構えると、向かって来た生物に向かって突き出した。

 だが、生物はそれを躱す。

 素早い動きで、右に左に動き回る。

 まるでこちらの攻撃パターンを読んでいるかのようだ。

 生物は、伸行の背後に回り込むと、そのまま飛びかかった。

「舞!」

 伸行の叫びに応答するかのように、舞は茂みから飛び出すとベレッタM92FSを構え発砲する。エアガンを防衛省の技術部門が改造。実弾ではなく麻酔剤の弾薬カートリッジを発射可能にした麻酔銃だ。

 ガス銃特有の静かな空気の切れる音が立ち上がる

 麻酔弾は、正確に生物の胴に命中した。

 撃たれた生物は、その場に崩れ落ち、そこを狙って伸行は刺股を突き刺し生物を地面に固定した。

 ものの数秒で、生物は麻酔が効いたことで動かなくなった。

 舞はスマホで連絡を入れる。

「エイリアンの捕獲完了。回収をお願いします」

 政府関係へ連絡する舞を見て、伸行は安心した。

 エイリアン・地球外生命体が出現して以降、日本に限らず各国では極秘裏に、その対策に追われていた。

 彼らは空から飛来し、人間の生活圏での活動を開始していたのだ。

 その為、フットワークの重い自衛隊・警察だけでは対応できず、民間でのエイリアン対策として協力が求められていた。

 ある一件でエイリアンに遭遇した二人は、機密事項を知ったことで、そのままエイリアンハンターとしてスカウトされたのだ。

「それにしても。まさかエイリアンが本当に居るなんて思わなかったよ」

 伸行の言葉に、舞も同意する。

「本当。一体、何で来るの?」

 舞は一番星を見ながら呟く。

「それは偉い人が考えることだけど、予測はつくよ。舞が以前言っていた地球に生物が誕生した理由。これは、一種のフランチャイズだよ」

 伸行が言う。

「フランチャイズ?」

 舞は理解できなく訊き返す。

「エイリアンは何もなかった不毛の惑星・地球に自分達が持っていた命を芽生えさせ、地球を生物が豊かな惑星にした。それによってエイリアンは得をしたんだ」

「得? そんな手間と時間をかけて何の利益になるの?」

 舞の問いに、伸行は答える。

 多分、こういうことだろうと思う仮説を口にする。

「食料供給地、生息地、繁殖地としてのロイヤリティを獲得することができた」

 中学生の仮説だが、舞は妙に納得した。

「なるほど。伸行の説が正しいなら、人類は、それに乗っかって誕生したわけね」

 舞は納得したように頷いた。

 伸行のスマホが鳴り、電話に出る。

「舞。もう一匹エイリアンが残ってるってさ」

 伸行は、舞にそう伝えると、彼女はウンザリ顔をした。

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エイリアン・キャッチャーズ kou @ms06fz0080

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