第6話
先生と出かける。
これは俺が目的を果たすために必要なミッションだ。
親密になれば先生だって俺の言葉にもっと耳を傾けてくれる筈。
とは言ったものの、俺はどこに連れていくかで悩んだ。
先生を連れ立っていける場所ってどこだ?
「ブラム君がまた難しい顔してます。おでこに皺が出来ますから駄目ですよ」
「先生を連れていける場所が思いつかないんですよ」
「そんなに気負わなくても良いと思います。わたしはブラム君が連れて行ってくれる場所に文句は言いません。食べ歩くのも楽しそうですよ?」
先生は誇らしげに言うが、それは今までの困窮した生活からしたら何もかもが良いと感じるだけじゃないのかなんて思ったりした。
先生は俺の作った無骨な料理にも満足していたし。
「ということで、わたしと一緒に良い店を探しましょう!」
都市とは離れた場所であるランドルクの街は荷馬車が多い。
先生を連れ帰った日も荷馬車に乗ったがここは別の領との中間地点に位置する為か他の街よりも規模はデカいほうだ。
都市に劣れど交易街としては立派で娯楽もそれなりにある。
ギルド支部が設立されるほどには冒険者も集まる街だ。
俺は先生を連れ立って色々見まわった。
「ブラム君、これ中々おいしいです! 何の肉なんでしょうか?」
「闘牛だそうですよ。この辺りじゃ珍しい」
「そんなに見てもあげませんよ?」
「……フン」
「なんで鼻で笑うんですか!?」
そして広場に行って小さな人形劇を見て一喜一憂する先生を俺はずっと見ていた。
「凄いですよブラム君!」
この人は良く笑うし、よく泣く。
俺とは真逆の人だ。
「ブラム君ごめんなさい。振り回しちゃいましたね」
「別に俺は楽しかったですよ。今までもたぶん先生と一緒じゃなかったら来なかったと思うから」
夕刻に一度鳴る鐘の音が人がはけた広場で静かに響いている。
噴水の流れる音が近くで心地よく聞こえた。
先生と並んで歩いている途中、不意に小さな体が視界から消えた。
「ねえ、ブラム君」
背中に呼びかけられた声に俺は立ち止まった。
振り返れば、立ち止まった先生が夕日で赤くきらめく水飛沫を眺めていた。
「……先生」
「わたしね、未だに迷っているの。あなたの手を借りることに」
「それは」
「自分でどうにかできなかった結果なのに。それを他人のあなたにどうにかしてもらおうと思ったわたしが嫌だった」
だって自分勝手でしょ?
先生の目はそう言っているようで俺は何も言えないでいる。
鈍い俺でもわかる。簡単に返していい言葉じゃない。
だから、俺はどうしたらいい。
先生は泣かなかった。
潤んだ瞳を俺にしっかり目を向けて言葉を紡ぐ。
「わがままだよね?」
ひりつく喉を懸命に動かそうとするも落ちていく。
気持ち悪い。
俺は俺が気持ち悪くて体中を掻きむしりたい気持ちで一杯だった。
……なんで何も言えないんだよ俺は!
「俺は「リディアじゃないか」」
水が流れる音を遮るように聞き取りやすい男の声が響いた。
先生はハッとした表情でそちらを向く。
「師匠?」
魔法童貞の俺、放つと死ぬらしい 高間鴟梟 @Takamasikyou
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