第137話 閑話 思い出の地を巡る 最終話

 黒猫の姿で恩返しを満喫した後は、ドラゴンに姿を変えカタリーナがいる聖国へと向かった。





「!? 聖竜様がいらっしゃるぞ! 報告! 教皇様と聖女様、それとカタリーナ様に報告!」


 僕がホワイトドラゴンの姿で聖国へと近づくと、見張りの聖騎士がちょっとパニックになりながら、大きな声で叫んだ。それと同時に聖国のみなさんも僕の姿を確認したようで、ほとんどの人が両手を胸の前で合わせてお祈りしているようだった。


 僕は聖国の正門の上空を通過し、直接中央にある大聖堂へと向かう。聖竜様って言われているくらいだから、許されるでしょ、だぶん。


 大聖堂の敷地に舞い降りると、丁度中からサヤカとカタリーナが出てくるところだった。それに、なぜか後ろからハヤトまで現れた。しかも、美人女子2人に鼻の下を伸ばしているように見える。くそ! お前は魔王国に帰れよ!


〈久しぶりだね。サヤカさん、ハヤト、そしてカタリーナさん〉


「おい! なんで俺だけ呼び捨てなんだよ!?」


 僕がみんなに話しかけると、すぐにハヤトが文句を言ってきた。全く、僕と最初に出会ったとき、自分が何したのか忘れているみたいだね。ちょっと思い出せてあげようか。


「ひっ!? わ、悪かった。呼び捨てでいいよ。いえ、呼び捨ててください」


 僕は少々強めに威圧して、あの時のことを思い出させてあげたら、腰を抜かしてしまったようだ。サヤカさんも青い顔をしているし、カタリーナさんも……あれ恍惚こうこつの表情じゃないのこれは。よだれ垂れてるし……


 ちょっと話しかけるのが怖いけど、今日はカタリーナさんにお礼を言いに来たので、勇気を振り絞って話しかけてみた。


〈今日はカタリーナさんにお礼を言いに来ました。カタリーナさんのおかげで邪神と魔人に勝つことができました。ありがとう! あっ、それに女神にげんこつすることができました! 何かお礼をしたいんだけど、何か欲しいものとかしてほしいことあります?〉


「突然、とんでもないことを言い出しますね。邪神とか魔人とかも気になりますが、何より女神様にげんこつって聖女の私はスルーしてもよい案件でしょうかね?」


 おっと、カタリーナさんにお礼を言ったのにサヤカさんが反応してしまった。さすがに女神教の聖女に女神にげんこつした話はまずかったか。


「聖竜様がなさることは全て正しいです。そのお手伝いの一端を担えたのであれば、それに勝る幸福はありません」


 カタリーナさんが宗教にはまりすぎた人みたいになってて、ちょっと怖い……

 あと、ヨダレの跡を拭いて欲しい……


「そうだ、カタリーナ。せっかくだから、アレをお願いしてみたら?」


 カタリーナさんの様子から、特にお願い事はないのかと思っていたけど、サヤカさんの一言で急にカタリーナさんがもじもじし始めた。何だ、何か頼みたいことがあるのかな?


「でしたら私と婚『そっちじゃないでしょ!』」


 何々? サヤカさんがカタリーナさんの言葉を遮ってしまってせいで、よく聞こえなかったな。しかも、そっちじゃないってことは別のお願い事があるということかな?


「コホン。つい本音が漏れ出そうになってしまいました。聖竜様。ぜひ聖竜様にお願いしたいことがございました」


 カタリーナさん僕の方を向いて姿勢を正し、改まった口調でお願いしてきた。


「実は、信者達の中には聖竜様の勇ましいお姿を拝見した者が少ないので、ぜひ聖竜様のご勇姿を見せていただきたく……」


 言われてみれば、確かに僕がここを訪れたのは教皇と戦った時だけだ。その後に信者が増えたのだとすると、僕の戦う姿どころか、僕の姿そのものを見たことがない人が大勢いるかもしれない。と言うか、その状況でよくこれだけの信者の数を獲得できたね。カタリーナさんってすごい人だな。


 今回はお礼も兼ねているので、迷うことなくOKを出す。


「それでは、少し打ち合わせを……」


 僕は小さなもふもふドラゴンへと変身し、ぱたぱた空を飛んでカタリーナさん達の後をついていく。危なく、カタリーナさんとサヤカさんに飛びつかれそうになったけど、何とか高度を上げることで事なきを得た。


 その後の打ち合わせで、最近聖国の東の森に住み着いた魔物がいることを知った。随分都合のいい話だとは思ったけど、現にハヤトはその討伐に駆り出されたみたい。魔物の種類は『デスワーム』。巨大なワーム型の魔物だそうだ。

 普段は地中に潜っているみたいだけど、時折餌を求めて地上に出てくるらしい。あまりに巨大なので生半可な攻撃だと全然効果がないのと、何より再生力が凄まじく多少のダメージだとすぐに回復してしまうし、危なくなると地中に逃げてしまう習性があるようだ。

 つまり、このデスワームを倒すためには、強力な一撃で逃げる間もなく倒す必要があるということだ。


 やることはわかったので、次はそれをいつやるのかという話に移っていく。


「このデスワームは、1週間周期で姿を現し、地上の生き物を食い散らかしていきます。今はまだ動物や魔物で済んでいますが、その対象が人間になるのも時間の問題なのです。次に姿を現すのは明日だと予想しています。ぜひ、聖竜様のお力を信者達にお見せください」


 カタリーナさんの情報によると、丁度、明日姿を現す日なのだそうだ。何ともいいタイミングで来たものだ。僕は明日の朝早くから森で待機し、デスワームを待つことにした。





 ゴゴゴゴゴゴ!


 次の日、聖国近くの森で待つこと2時間。突如地鳴りのような音が鳴り響き、場面が盛り上がったかと思うと、直径5m、地面から見えてるだけで20mはありそうな、先端にトゲの生えた口があるミミズの化け物の様な魔物が現れた。


「みなさん、これから聖竜様が忌まわしきデスワームを退治してくださいます。その凛々しいお姿を目に焼き付けておくのです!」


 今回、僕の後ろにはカタリーナさんを先頭に、何百人という信者のみなさんがついてきている。何でも彼らはこの後、語り部として各地に散っていくのだとか。

 カタリーナさんが、信者を増やすために考えた仕組みだそうだ。なるほど。あの短期間で異常に信者の数が増えたのにはこんなカラクリがあったのか。


 おっと、カタリーナさんの手腕に感心している間に、デスワームが完全に僕を敵とみなし戦闘態勢に入ったようだ。

 ちなみに、僕は成竜の姿で待ち構えている。巨大な身体で頭から勢いよく突っ込んでくる。これだけの巨体ともなればかなりの威力になりそうだし、躱されてもそのまま地中に逃げることができる。まさに攻守一体の攻撃だね。防がれさえしなければ。


 僕は自身の正面に結界を張り、真っ正面からデスワームの体当たりを受け止めた。


 ドゴォォォン!


 デスワームが結界にぶち当たり鈍い音が鳴り響く。しかし、僕の張った結界はびくともせずにデスワームの巨体を受け止めた。勢いが完全に止まり、巨大な身体の大半を地面の上へと出てしまっているデスワーム。僕はすかさず重力魔法を使い、その巨体を宙に浮かべた。


 全長30mはあろうかというワーム状の身体を、ジタバタとくねらせるデスワーム。しかし、空中に浮かんでいる状態では他に何もできるはずもなく、ただの大きな的に成り下がってしまった。


 背後では信者達の驚きの声が聞こえてくる。


 僕はデスワームを一撃で倒すために、火魔法で炎の竜を3匹作り出した。


 背後で信者達の驚きが歓声に変わる。


 ゴォォォォォォォ!


 3匹の炎の竜が三方向からデスワームへと襲いかかり、デスワームは抵抗する間もなく一瞬にして焼き尽くされてしまった。自分でやっておいてなんだけど、やり過ぎた感が……

 周りの気温が一気に上がって信者のみなさまも随分汗をおかきになっている。


「みなさま、ご覧になりましたか? これが聖竜様のお力です。みなで聖竜様の慈悲に祈りを捧げなさい」


 ひとり涼しい顔をしているカタリーナさんが信者に語りかける。その言葉を聞いた信者のみなさんが膝をつき、僕の方に向かって手を合わせて祈ってきた。


 ナニコレチョットコワイ


 この出来事が、語り部となった信者達によって『巨大ワームと3匹の炎の竜』というお話となって広められることとなるに、そう時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

苔から始まる異世界ライフ(旧 苔から始まる異世界生活) ももぱぱ @momo-papa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ