3-3 世界と王女を救う、たったひとつの方法
「アシュルって野郎は、現世界に恨みを持ってるってことか、ザルバ」
「恨み……というか、復権を狙っているのです、エヴァンス」
ザルバ……リアンは、悲しげに首を傾げてみせた。
「世界は常に流れ、無常なものです。そこにアシュルは、一縷の望みを抱いていたのでしょう」
ザルバの推察では、こういうことだった。
ちょうど今の世界同様、前世界も危機を迎えた。マルドゥクやザルバが苗床として「ヒエロガモスの地」を用意し、誰だか知らん野郎──要するに今の俺と同じ立場の奴──が聖婚を繰り返し、現世界を創造した。その際、前世界の土地神であるアシュルは神格を失い、現世界の次元の間に幽閉された。
現世界では復権はできない。そのため幽閉場所で力の回復に努め、現世界の歴史を見守ってきた。チャンスは現世界が危機を迎えたときにしかないから。
もちろん現世界の滅亡を見届けては意味がない。単に次世界が創造されるだけだから。だが、現世界が滅亡の危機を迎え、新たなるヒエロガモスの地が活動を始めた時期なら、アシュルの望みは叶う。新世界の準備ができる前に現世界を滅ぼせば、ヒエロガモスの地で稼働を始めた世界創造システムによってやむなく、前世界が復活するから。
「つまり野郎は、ヒエロガモスの地の活動開始を待ってたってことか。それから俺を殺せば、次の候補の登場まで時間が掛かる」
「そうです。現世界が危機になったから、ヒエロガモスの地は稼働した。あなたや次の候補を殺して次世界誕生を遅延させ時間を稼げば、次世界が間に合わず、現世界は滅びてしまう。そうなれば世界創造システムの取りうる手段はもう、前世界復活しかない」
「なるほど……。前世界が復活すれば、アシュルも神格を取り戻し世界を掌握できるってことか」
「ええ」
「それが神様のやることかよ」
「神々は別に、品行方正なわけではありません。私だってそうです。マルドゥク様の……魂には逆らえない」
愛おしげに、俺の頬を撫でた。いや、俺の魂の奥底に居る、マルドゥクの魂を撫でたんだろうが……。
「それに加え、神格を失い幽閉される間にアシュルは、偏った考えをさらに強めたのでしょう。状況には同情します」
「それはそれで、わからんでもない。でも、こっちに八つ当たりされてもな」
ヒエロガモスの地に三種の神器を持ち込んだ俺によって、世界創造システムは起動した。あそこで聖婚を繰り返すことで今、次世界が次第に育ちつつあるところだ。そのシステムの邪魔をするため、俺……ひいてはマリーリ王女を狙うとか、嫌な野郎すぎる。
「それで、『道標』はどうだ。こいつも前世界の神格かなんかなのか。アシュルと対立する地域の土地神とか……」
「エヴァンス……」
なぜか、ザルバは微笑んだ。
「あなたの魂に、その御方の香りが残っています。彼は……マルドゥク様の魂の欠片」
「マジかよ」
「ええ。今世界はそもそも、マルドゥク様が設計されたのです。痕跡は広く残っていますよ。強い力を発揮するほど濃度が濃くないだけで」
「そうか……」
マルドゥクならまあ、俺達の味方だ。アシュルの呪いを察知して警告してくれたのも、当然だろう。
「それで、マリーリの呪いを解くにはどうしたらいい。次元の間ってどう行くのかわからんが、そこで野郎をぶちのめせばいいのか」
「次元の間に行く手段はあります」
「なら教えろ。呪いの発動まで、あんまり時間が無いんだろ」
「そこはアシュルの本拠地。エヴァンス、あなたが踏み込んでもなにもできない。相手の狙い通り、あっさり殺される。そして世界創造システムは、次の候補者を選定しないとならない。でも……すでにこの世界の娘達の多くは、あなたによって起動されてしまった」
それはそうだ。リアンもバステトも、ソラス先生や他のみんなも、聖婚相手として既に俺を受け入れてしまっている。
「全て始めから創造し直しになる。それから次候補者の選定。とてつもなく時間が掛かる。仮に次の候補者の登場が世界滅亡に間に合ったとしても、アシュルはまたそこにも手を伸ばすでしょうう」
「ならどうするんだよ」
いらいらしてきた。
「野郎のところには行けない。踏み込めば殺され、この世界も次世界も存続・創造の危機に陥る。ここで指を加えてマリーリが死ぬのを見ていろってのか」
「いいえ、マルドゥク様……」
ザルバは、俺の体を抱いた。ふわりと包むように。こらえ切れなくなったかのように。
「あなたは……本当にマルドゥク様そのままですね、エヴァンス。振る舞いではなく、魂が……」
耳元でささやく。
「方法はあります。たったひとつだけ」
ハズレダンジョンの制覇者 ――ガチャで俺が引いたのは、美少女モンスターしか出てこないハズレダンジョンでした ~でもレアアイテム俺だけ掘り放題だしみんなかわいいし遊んでるだけで超速成り上がって幸せです~ 猫目少将 @nekodetty
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