第5話 俺は本当に勇者なのか

魔王城付近にて


ウルテナ

「はぁ、はぁ、はぁ。だいぶ奥まできたな…

意外とこんなにもボロボロになるんだな。正直、舐めてた。」


(疲れて座り込む)


「はぁ…あの時、スライムを仲間にしとけば、もう少し楽だったのだろうか。あの時、伝説の剣を手に入れてれば、もう少し楽だったのだろうか。

あぁ…今更何を言ってるんだ。情けない。」


(傷が痛む)


「うっ…少し、横になるか…。

はぁ、はぁ。疲れたな。眠たくなってきた。」



(朦朧とした意識の中)



大妖精

「ウルテナ・・・」



ウルテナ

「ん?」



大妖精

「目覚めなさい。ウルテナ。」



ウルテナ

「だ、誰だ。」



大妖精

「勇者ウルテナ。ようやくあなたと出会えました。」



ウルテナ

「な、なんだお前!」



大妖精

「私は、大妖精です。」



ウルテナ

「だ、大妖精?俺を勇者にした犯人か!」



大妖精

「…はい。」



ウルテナ

「本当にいたのかよ。」



大妖精

「本当にいました。」



ウルテナ

「姫様には悪いことしちゃったなぁ。」



大妖精

「えぇ。見てました。ホントにひどい方なんですね。姫様が可哀想で可哀想で。」



ウルテナ

「疑問に思うことを言っただけだ。誰が、「あなたが勇者です」って言われて素直に信じるんだよ。」



大妖精

「それもそうですね。私にも非があるのでしょう。」



ウルテナ

「なんだ。物分かりがいいな。さすが大妖精。」



大妖精

「ありがとうございます。」



ウルテナ

「ま、無駄話も終わりにして…。

なぜ今更、俺の前に現れた。何かあるんだろう?」



大妖精

「はい。察しの良い方で助かります。魔王城を前に控えた貴方に伝えなければいけないことがあります。」



ウルテナ

「まぁ待て。俺にも聞きたいことがある。」



大妖精

「はい。そのつもりでした。何でもお聞きください。」



ウルテナ

「俺の人生をめちゃくちゃにしたんだ。それくらい答えて当然だよな。」



大妖精

「はい。申し訳ありません。それで、聞きたいこととは?」



ウルテナ

「俺が・・・本当に勇者なのかどうかってことだ。」



大妖精

「…。」



ウルテナ

「あんたにしか分からないことだ。答えてもらう。」



大妖精

「それを聞いてどうするのですか?」



ウルテナ

「勇者じゃないのなら、今すぐ帰る。勇者なら魔王を倒す。それだけの覚悟はもってるつもりだ。」



大妖精

「なるほど。では、もしあなたが帰るという決断をした時には、私があなたを消し去ります。」



ウルテナ

「は?」



大妖精

「私があなたを消します。それが答える条件です。」



ウルテナ

「あのな。大妖精とはいえ、俺もここまで生き延びたんだ。舐めてもらうのは困る。」



大妖精

「あなたも大妖精という存在を甘く見てるようですね。」



(異次元の殺意に戦慄するウルテナ)



ウルテナ

「ちょっ。マジで殺す気だな。」



大妖精

「条件を、のんでくれますか?」



ウルテナ

「…わかった。条件をのもう。」



大妖精

「申し訳ありません。理論を黙らせるには、力しかないのです。」



ウルテナ

「それはよく分かる。姫様にも力でねじ伏せられた。」



大妖精

「それではお答えします。」


ウルテナ

「あぁ。」



大妖精

「あなたは…勇者ではありません。」



ウルテナ

「…は!?」



大妖精

「あなたは勇者ではありません。」



ウルテナ

「ここまできて、そんな事ってあるのかよ。」



大妖精

「だからこそ。あなたを勇者に選びました。」



ウルテナ

「何だそれ。言ってることめちゃくちゃだぞ。」



大妖精

「もともと貴方には勇者の素質なんて微塵もありませんでした。」



ウルテナ

「おいおい、結構、酷いこと言うんだな。」



大妖精

「そんなに腐り切った心をもつ若者もいるのだなと、逆に感心しておりました。」



ウルテナ

「嬉しくないよ。」



大妖精

「姫様に勇者であるのか反抗し、仲間になりたいスライムにも反抗し、ましてや伝説の剣を抜く必要があるのかと反論する。こんなにもひねくれた勇者なんて存在しません。」



ウルテナ

「さっきから失礼だな!これまでの理不尽な状況に問題提起をする俺は立派な革命家みたいなもんだろ!歴代勇者の声を代弁してるんだよ!」



大妖精

「歴代勇者がどう思っていたか知ってるのですか?」



ウルテナ

「あ?え、いや。「なんで俺がこんな目に」とか思ってるんじゃないのか?」



大妖精

「推測で語ってるのですか?根拠もなく。」



ウルテナ

「う、うるせぇな!」



大妖精

「今のが、これまであなたと関わってきた者たちの気持ちです。どうですか?ねぇねぇ、今どんな気持ち?」



ウルテナ

「あーもう!分かったから!俺が悪かった。すみませんでした。」



大妖精

「えらいえらい。ですが、安心しております。」



ウルテナ

「何がだよ。」



大妖精

「私の様な存在にも、臆せず理詰めをしようとする姿勢があります。」



ウルテナ

「どこが安心なんだよ。どう考えても迷惑だろ。」



大妖精

「あなたにも迷惑だという自覚があるんですね。」



ウルテナ

「うるせーな。」



大妖精

「ともかく、その状況を変えようとする姿勢が世界に必要だったのです。」



ウルテナ

「どう言うことだよ。」



大妖精

「これまでの勇者は素直すぎました。実直で、正直で、正義感のある立派な方々でした。あなたとは違って。」



ウルテナ

「分かった分かった。もうディスるのやめてくれないか?」



大妖精

「ですが、その素直さが全ての原因だったのです。ある者は世界の半分を貰おうとして。ある者は仲間から裏切られ。ある者は伝説の剣を抜いた途端死んでいきました。」



ウルテナ

「それはただ、勇者の力が及ばなかっただけじゃないのか?」



大妖精

「私もそう思っていました。ですが違いました。」



ウルテナ

「何が分かったんだよ。」



大妖精

「これまで見てきた素直で立派な勇者が辿ってきた道のりは、全て死へと繋がっていました。仲間を増やしても、伝説の剣を手に入れても、順調に町を救い魔王城へ辿り着いても。何をしても死という運命から逃れられませんでした。」



ウルテナ

「それこそ、分からないじゃないか。

たまたまかもしれないだろ。根拠はあるのかよ。」



大妖精

「これまで生まれた歴代勇者の数は10万人です。長い歴史を見てきましたが、魔王を倒すことはあっても、皆死んでいきました。

そして魔王は復活し、また新たな勇者が生まれる。」



ウルテナ

「これまでずーっと同じことを繰り返してきたわけか。」



大妖精

「はい。その輪廻を断ち切るために、あなたが必要だったのです。」



ウルテナ

「それは…俺が勇者じゃないからか?」



大妖精

「そうです。前例を覆す必要があったのです。勇者であるべくして生まれた人間を勇者にしても運命は変わりません。」



ウルテナ

なるほどな。



大妖精

「あなたは、これまでの前例を覆してきました。自分を勇者であるのか疑い、仲間が必要なのかと疑い、伝説の剣を抜く必要があるのか疑い、今までの流れを断ち切った行動をしてきました。」



ウルテナ

「俺の今までの行動を肯定してくれてるのか?」



大妖精

「はい。」



ウルテナ

「こんなことして褒められるなんて今までなかったぞ。」



大妖精

「人でなしと思われてきたのでしょうね。」



ウルテナ

「あんたのせいでな。」



大妖精

「ですが、私はあなたを選んで良かったと思っています。最初こそ、こんなにも性根の腐った人間でいいのかと思いましたが。」



ウルテナ

「お前、もしその理論が正しかったとしたら、俺はお前から感謝される立場のはずなんだが?よくもまぁ恩人に好き勝手言えるよな。」



大妖精

「私はこの理論は正しいと思っています。確かに感謝すべきですが、あなたがクズなのもまた事実。嘘偽りを話すつもりはありません。」



ウルテナ

「それでも、少しくらいは感謝しろよ。」



大妖精

「相変わらず口が回る方ですね。そんなあなたが勇者だと思われてるのも、私の発言があったからですよ?人間は愚かですから、私のお告げを簡単に信じてくれます。」



ウルテナ

「俺がお告げをもらったら絶対疑うけどな。」



大妖精

「勇者に選ばれたら嬉しくなりそうな感じしますけどね。」



ウルテナ

「そんなの肩書きだけだろ。」



大妖精

「ですから、私は貴方に感謝を伝えにきました。

魔王城までよく生き延びて下さいました。ありがとう。」



ウルテナ

「な、なんだよ急に。調子狂うだろ。」



大妖精

「本当に感謝しています。あなたじゃなければ、この輪廻を断ち切ることは出来ませんでした。」



ウルテナ

「そういうのは魔王を倒してから言うもんだ。

俺はまだ倒せてないし、倒せるかも分からないんだぞ?」



大妖精

「あなたなら倒せます。」



ウルテナ

「根拠は?」



大妖精

「私がそう言っているからです。」



ウルテナ

「急にガバガバだな。」



大妖精

「傷を癒やしましょう。これくらいしか私には出来ませんが。」



ウルテナ

「お、おう。助かる。やっと大妖精らしいことしてくれるじゃん。」



大妖精

「それと…。」



ウルテナ

「なんだよ。また嫌味か?」



大妖精

「勇者でもないあなたを選んでしまって、本当に申し訳ないと思っています。」



ウルテナ

「…あぁ、そうだったな。俺、勇者じゃないんだったな。」



大妖精

「もっと普通の人生を送りたかったでしょうに。

私の身勝手によってこんなことに。」



ウルテナ

「そうだな。その通りだ。」



大妖精

「本当すみませんでした」



ウルテナ

「俺が、普通の人間だったらの話な。」



大妖精

「え?」



ウルテナ

「俺が普通の人間だったら、普通に暮らして普通に生きたかったよ。」



大妖精

「…はい。」



ウルテナ

「だけど、俺は勇者だ。」



大妖精

「ウルテナ…。」



ウルテナ

「お前が選んで死んでいった者たちはみんな勇者なんだよな?」



大妖精

「はい。」



ウルテナ

「つまり、お前が選んだ人間は勇者だってことだ。

そして、俺は死ぬ気なんてない。死なない勇者こそ真の勇者だろう。」



大妖精

「…。」



ウルテナ

「ま、こんな具合で受け止めてやるよ。

俺は勇者なんだから仕方ないよなぁ大妖精さんよ。」



大妖精

「…強くなりましたね。」



ウルテナ

「仮にも、あんたから理不尽に選ばれた勇者だからな!」



(少し微笑んで)



大妖精

「そうでしたね。」



ウルテナ

「勇者ウルテナ!魔王退治に行ってきます!!」



大妖精

「はい。無事を願っています。」



(現実)



ウルテナ

「う、うぅ…夢かでも見てたのか…俺は。

あれ?傷が治ってる。いつの間に。」



(体をのばす)



「んー、あぁ…。

よし、もうひと踏ん張りだ。さっさと魔王をぶっ倒して、普通の生活を送るんだよ!」



大妖精

「あなたは、勇者ではありません。でも、この世界を救えるのはあなただけです。勇者の素質なんてないけれど。本当の勇者ではないけれど。あなたは私の勇者です。

ウルテナ…。ありがとう。」

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勇者ウルテナの理論武装 あめがやまない @amymn

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