第4話  世界の半分をくれてやるだと

(魔王城にて)


ウルテナ

「ついにここまで来たぞ魔王!」



魔王

「くっくっくっく。

来たか勇者ウルテナ。

待っていたぞ。」



ウルテナ

「世界を支配する邪悪な存在よ。

今日をもってお前の生も終わりを告げるだろう。」



魔王

「こちらの台詞だウルテナ。威勢のいい貴様が弱音を吐き

最後に首をはねられると思うとワクワクするぞ。」



ウルテナ

「たわけ!いくぞ魔王!はぁぁぁぁ!」



魔王

「待てウルテナ。そう焦るな。」



ウルテナ

「…何の真似だ。」



魔王

「いい話がある。

それを聞いてから私を殺すか決めてもよいのではないか?」



ウルテナ

「…なんだ。」



魔王

「貴様がここまで来れたのも何かの縁だ。

貴様の強さを見込んで、世界の半分を貴様に与えてやろう。」



ウルテナ

「…世界の半分をくれてやるだと?」



魔王

「そうだ。悪い話ではないはずだ。

最強の貴様と私が手を組めば

この世界を支配することなど容易いことよ。」



ウルテナ

「…。」



魔王

「どうだ?少しは興味が湧いただろう。

世界を二つに分け、互いに頂点として君臨し続けようではないか。」



ウルテナ

「…魔王。」



魔王

「やはり貴様も欲していたのだな。この世界を支配したかったのだろう?

それなのに、魔王の討伐などと命じられるとは。哀れなことよ。」



ウルテナ

「いや、違う。」



魔王

「…ん?なんだ。何か問題でもあるか?」



ウルテナ

「大ありだ。」



魔王

「ほう。言うてみるがいい。」



ウルテナ

「世界の半分を俺にくれてやると言ったな?」



魔王

「あぁ。確かに言った。それがどうした?」



ウルテナ

「…お前は、本当に世界を支配しているのか?」



魔王

「あ、当たり前だ。何を言っている。」



ウルテナ

「世界の半分をくれるということは

すでに世界のすべてがお前の手の中だということが前提の話だが?」



魔王

「…と、当然だろう。私が消えない限り世界は私の手の中だ。」



ウルテナ

「お前は…過去の話をしているのではないか?」



魔王

「どういうことだ。」




ウルテナ

「確かにお前は、俺が勇者として旅立つ前は完全に世界を支配していただろう。」



魔王

「あ、あぁ。」



ウルテナ

「俺にも、『世界は魔王に支配されているんだろうなぁ』という自覚はあった。」




魔王

「そんなに緩い自覚だったのか。」



ウルテナ

「だから、過去はお前が支配していたといっても過言ではない。」



魔王

「そ、そうだな。そうだよなぁ。」



ウルテナ

「だが今はどうだ。俺は王国を旅立ち、数多くの村、街、そして王国を救ってきた。

そうして今、お前の前に立っている。」



魔王

「あ、あぁ。」



ウルテナ

「この時点でお前が、世界を支配しているということが嘘になるとは思わないか?」



魔王

「な!貴様何を言っている!私が世界を支配しているというのが嘘だというのか!」



ウルテナ

「だからそう言っているだろう。それともなんだ。

お前の世界という概念は一般の人々と認識にズレがあるのか?」



魔王

「ふざけるな!そんなものただの屁理屈だ!

私が半分を与えるといったら半分を与えるのだ!」



ウルテナ

「俺や世界の人々からすれば、俺たち人間側が支配できていないのはこの魔王城だけだと思っている。もし世間との認識がズレていないとするなら、お前が言う世界というのはこの魔王城だけのことを指しているのか?」



魔王

「そんなわけがないだろう!世界の半分をあげますと言って

魔王城の半分を与える馬鹿がいるものか!」



ウルテナ

「ここにいるじゃないか。」



魔王

「貴様…さっきから何のつもりだ。」



ウルテナ

「お前の発言が嘘か誠か問いただしているだけだ。」



魔王

「面倒な奴だな!」



ウルテナ

「ちなみに俺は、本当に世界の半分をくれるなら

その話はありだと思っている。」



魔王

「貴様、今までなんのために勇者をしてきたのだ。

勇者より魔王の素質がある。」



ウルテナ

「まぁいい。話を戻すが、今の状況を整理すると

お前の言う世界というのは魔王城のことになるが…。」



魔王

「いい加減にしろ!私は世界を支配している。」



ウルテナ

「過去の栄光にとらわれすぎているんじゃないか?」



魔王

「さっきから、ぐちぐちうるさい奴だな。」



ウルテナ

「すまない。気になるものでな。」



魔王

「もし提案が本当だったら、承諾すると言ったな?」



ウルテナ

「承諾するとは言ってないが、ありだとは思っている。」



魔王

「くくく…面白い。

ならば証明してやろう。

私が世界を支配しているということを!」



ウルテナ

「臨むところだ。」



魔王

「では言おう。この世界の魔物は、私の力により生み出されている。

つまりだ、魔物がいる限り世界を支配しているといってもよいだろう。」



ウルテナ

「なるほど。

だが、魔物を倒されて一時的に魔物が消滅する瞬間が存在するだろう。

その瞬間は世界を支配していないということになるが?」



魔物

「そんなもの誤差だ。」



ウルテナ

「お前が世界を支配しているというのなら

魔物がいるという状態を永久的に保ち続けなければならないな。

支配している時と支配していない時。

この二つの状態が繰り返されている以上、お前の発言に真意は頂けないな。」



魔王

「ならば言わせてもらうが

さっき発言したときは世界が支配できている状態かもしれないじゃないか。」



ウルテナ

「かもしれないだと?予想で言われても困るな。

何か証拠はあるのか?客観的な事実が。」



魔王

「こっちの台詞だ!

貴様こそ、世界が支配されていない根拠はあるのか?

客観的な事実を出せ!」



ウルテナ

「ということは、世界が支配できているかいないかの証明はできないんだな?」



魔王

「…貴様!」



ウルテナ

「言っていることが分かるか?

世界を支配していることを証明してほしいのに証拠がない。

つまりだ、少なくとも世界を支配している可能性は極端に低いということ。

そうなると、まだ世界を支配していないという考えの方が

信頼できるとは思わないか?」



魔王

「世界が支配できていない根拠もないくせに、勝手に決めつけるな!」



ウルテナ

「そもそも、世界が支配できていない根拠なんていらないんだよ。

世界が支配できていることを証明できないのなら

必然的に世界は支配できていないということになるからな。違うか?」



魔王

「貴様、痛いところばかり…。

勇者のくせに、ひねくれすぎではないか。」



ウルテナ

「これでも大妖精によって、勝手に選ばれた勇者だ。

根拠はない。」



魔王

「くそっ…発言に責任を持つとはこういうことなのか。」



ウルテナ

「適当なことを言われても困るからな。」



魔王

「それでも私は世界を支配している。」



ウルテナ

「ほう。まだ言うか。」



魔王

「証明してみせよう。」



ウルテナ

「臨むところだ。」



魔王

「では言おう。すべての人間は私の存在、魔王を恐れている。

その証拠に勇者をこちらに向かわせ

魔王を退治しようといった対策をしているな。」



ウルテナ

「そうだな。人間はお前を恐れているだろう。」



魔王

「そうでもなければ勇者など存在しないからな。

つまり、私が人々の中に内在的に存在しているということだ。」



ウルテナ

「まぁ、人類はお前の存在を認知しているだろうな。

たとえ見たことがなくても。」



魔王

「その通りだ。だから私は、人類を内在的に支配しているといってもよいだろう。

それゆえ、私は世界を支配しているといえる。」



ウルテナ

「人類を内在的に支配しているから世界を支配しているということか。」



魔王

「そうだ。勇者という存在がその証拠。

人々は魔王に対し恐怖し、戦慄し、おびえている。

その象徴が勇者だというわけだ。

お前の存在が、人間の愚かな感情の集合体だとは…

非常に皮肉なものだ。ははははは!」



ウルテナ

「…。」



魔王

「どうした。言葉も出ないか。」



ウルテナ

「いや・・・聞きたいことがある。」



魔王

「なんだ。なんとでも言え。所詮、負け犬の遠吠えよ。」



ウルテナ

「お前は全人類を内在的に支配している。

だから世界を支配していると言ったな。」



魔王

「あぁ、確かにそう言った。」



ウルテナ

「つまりお前の言う世界というのは

全人類のことを言うのか?」



魔王

「は、はぁ?」



ウルテナ

「人間を支配しているから、世界が支配できているということは

世界と人間は同じということだな?」



魔王

「そんなわけがないだろう。

なぜ人間が世界なのだ。わけがわからん。」



ウルテナ

「じゃあなんだ。世界を支配しているのが人間だから

人間を支配することができれば

世界を支配したことと同じだとでも考えているのか?」



魔王

「ま、まて。何を言ってるんだ。」



ウルテナ

「世界一の戦士をただの三流戦士が倒せたとしよう。

そしたらその時、世界一の戦士は、ただの三流戦士になる。

お前が言っているのはこういうことだ。」



魔王

「あ…あぁ?」



ウルテナ

「世界一の人間を倒すことが出来れば

世界一の人間を倒した人間が世界一になるということだ。」



魔王

「あぁ、なんとなく言いたいことは伝わった。」



ウルテナ

「ならいい。お前はそう考えているんだな?」



魔王

「世界が人間によって支配されているだと?

そんな馬鹿げた考えをするものか!」



ウルテナ

「お前が言ってるのはそういうことだぞ。」



魔王

「くっ…わかった。」



ウルテナ

「どうした。」



魔王

「それでいい。世界が支配できていることを証明できるのならそれでいい。認めよう。」



ウルテナ

「ほう。このめちゃくちゃな理論を認めるのか。」



魔王

「これで世界を支配していることが証明できた。さぁ、本題だ。」



ウルテナ

「面白いな。」



魔王

「世界の半分を貴様にくれてやろう。」



ウルテナ

「…。」



魔王

「くくく。考える時間はたっぷりやろう。待ってやる。」



ウルテナ

「…。」



魔王

「…。」



ウルテナ

「魔王。」



魔王

「なんだ。」



ウルテナ

「世界の半分を与えるということ。

それは人間を半分与えるということだな?」



魔王

「は?」



ウルテナ

「お前が認めた理論では

人類を内在的に支配しているから

世界を支配しているということ。」




(魔王がなんとなく察する)


魔王

「!!」



ウルテナ

「さきの会話で、人間は世界だなんて考えもあったな。

最初こそ否定していたが、お前は認めてしまった。」



魔王

「ふざけるな!

屁理屈を言うな!」



ウルテナ

「人間を半分くれてやるなんて言われても

別に俺はいらない。交渉決裂だな。」



魔王

「なんだ貴様!半分の人間を見捨てるとでもいうのか!

最低だな!このクズ!」



ウルテナ

「見捨てるだなんて言っていない。」



魔王

「だまれ!

このペテン師!

嘘つき!」



ウルテナ

「俺は…すべての人間を救うんだ。

半分もくそもあるか!」



魔王

「貴様…。」



ウルテナ

「ちょっとかっこいいだろ。」



魔王

「あぁ。クズで安心したよ。」




ウルテナ

「魔王にだけは言われたくないな。」



魔王

「…わかった。」



ウルテナ

「なんだ。まだ何かあるのか。」



魔王

「世界の定義を世間と合わせてやろうではないか。」



ウルテナ

「ほう。最初に言った理論だな。

それだと、世界は魔王城ということだが。」



魔王

「あぁ、そうだ。

それでいい。」



ウルテナ

「そうか。」



魔王

「それを踏まえて聞け。」



ウルテナ

「あぁ。」



魔王

「世界の半分を貴様にくれてやろう。」



ウルテナ

「いらない。」



魔王

「貴様!魔王が自分の城を半分もあげると提案しているのだぞ!」



ウルテナ

「いらないものはいらない。」



魔王

「ああああああああ!

もういい!

殺す!

貴様をぶっ殺す!」



ウルテナ

「臨むところだ!こい!」



魔王

「うおおおおおおおおおおおおお!」





ウルテナ

「こうして、世界に平和が訪れました。めでたしめでたし。」

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