第3話 本当に伝説の剣を抜く必要があるのか

(ブレイブマウンテン麓にて)


ウルテナ:ほー、これが噂のブレイブマウンテンか!でっけー!この頂上に伝説の剣エルシオンがあるんだなー。すげー。


大賢者:ついに来たか勇者よ。ここはブレイブマウンテン。伝説の剣に導かれし者の、始まりの地。


ウルテナ:絶景だなー。パワースポットなのも納得だ。


(しばらく見惚れるウルテナ)


ウルテナ:いやーいいものを見れた!よし!帰ろう。


大賢者:ちょちょちょちょ!ちょっと待ちなされ!


ウルテナ:はい?どなたですか?


大賢者:そなた勇者であろう?私は、大賢者。伝説の剣へと導くものだ。


ウルテナ:あぁ。はい。勇者ですけど・・・。いや、私は帰るので。お勤めご苦労様です。


大賢者:いやいやいや!だから、待てと言っているだろう!


ウルテナ:もう・・・なんですか。


大賢者:大魔王デビルを倒すため、伝説の剣エルシオンを手に入れに来たのだろう?


ウルテナ:いえ・・・私はただ、伝説の剣が眠っている山はどんなものだろうかと観光に来ただけであって・・・。


大賢者:なにを甘ったれたことを言っているのだ!そなたは、エルシオンを手にし、大魔王を倒す運命なのだ。私が導いてやるから、ほれ行くぞ。


ウルテナ:待て待て待て。


大賢者:なんだ。エルシオンが手に入るのだぞ。何をためらう必要がある。


ウルテナ:聞きたいことがあるんだが。


大賢者:ほう。なんでも言うてみるがいい。


ウルテナ:その、伝説の剣エルシオンってのは。


大賢者:あぁ。


ウルテナ:抜く必要があるのか?


大賢者:・・・は?


ウルテナ:だから、わざわざブレイブマウンテンの頂上にまで行って、大地に刺さってるであろうエルシオンを抜く必要があるのかと聞いているんだ。


大賢者:なにを馬鹿なことを言っている。


ウルテナ:え?なになに?必要はないだって?なるほど分かりました!では帰らせていただきます!お疲れまです!


大賢者:勝手に話を進めるな!


ウルテナ:なら、さっさと理由を説明してくれよ。


大賢者:エルシオンを抜く必要はある。なぜなら、魔王を倒すためだ。


ウルテナ:はい・・・。それで?


大賢者:そなたも聞いたことがあるだろう。光をまとい、闇夜を照らす伝説の剣エルシオンは、希望の心と共に、大魔王の心臓を貫いたと。


ウルテナ:あぁ。エルシオンの伝承のことだろう?


大賢者:そうだ。だから、魔王を倒すにはエルシオンが必要なのだ。わかったらさっさとブレイブマウンテンの頂上を目指すのだ。


ウルテナ:賢者さん・・・一つ聞いてもいいか?


大賢者:あ、あぁ。なんだ。


ウルテナ:エルシオンじゃないと、魔王は倒せないのか?


大賢者:・・・は?


ウルテナ:だから、エルシオンでないと魔王を倒せないのか聞いているんだ。


大賢者:あ、当たり前だろう!


ウルテナ:なぜそう言い切れる?


大賢者:な、なぜって・・・。エルシオンの伝承を聞けばわかるだろう!魔王を倒した剣だぞ!


ウルテナ:先代の勇者が使っていた剣が、たまたま魔王を倒せただけの話じゃないのか?

それで、しょうもない人類が、「魔王を倒した剣だ!」と崇め奉って、勇者の名前をとってエルシオンと名付けただけだろ。


大賢者:じゃあ、なんだ!光をまとい闇夜を照らす力はいったいどう説明するつもりだ!魔王を倒すのに必要な力だろう!


ウルテナ:おいおい。あんた、仮にも大賢者なんだろ?なんでそういうところを疑ったりしないの。


大賢者:神聖なる賢者は、疑うなど、神々に背くような態度はとってはならない!


ウルテナ:はぁ・・・。頭が固いんだから・・・。


大賢者:大賢者に向かって何を言うか貴様!口を慎め!


ウルテナ:はいはい。申し訳ございませんでした。慎みます。


大賢者:では、説明してみよ。


ウルテナ:分かりました。

では、賢者様。フレーバーテキストはご存知ですか?


大賢者:フレーバーテキスト?


ウルテナ:簡単に言えば売り文句というか。ほら、例えば、グリフォンのつばさだったら

「一度行ったことのある街にひとっとび」なんて売り文句より、「どこでもあなたをいざないます。さぁ天高く翼をかかげ、授けよう。その羽を」

みたいな紹介のほうが雰囲気が出るでしょう?そういうものと一緒ってことですよ。


大賢者:違うでしょ!そんなのと一緒なわけがないでしょう!


ウルテナ:売り文句は違っても、商品は同じものです。ですから、エルシオンもカッコいいフレーバーテキストがついただけの、ただの剣です。

そんな、ただの剣を、わざわざこんなに険しい山を登って抜きに行くほうがバカですよバカ。


大賢者:そんなの屁理屈に過ぎん!!いい加減にしろ!大賢者に屁理屈が通用すると思うな!


ウルテナ:今までよりも、面倒な奴だなぁ・・・。


大賢者:ほら!さっさと行くぞ!私についてこい!ほら!


ウルテナ:ちょっと待ってください!


大賢者:なんだ。もう屁理屈は聞かないぞ。


ウルテナ:いえ、真面目な話です。


大賢者:なんだ。言うてみよ。



ウルテナ:プラシーボ効果というのをご存じですか?


大賢者:はぁ?プラシーボ効果?


ウルテナ:はい。思い込みのような、心理的な暗示によって効果がでる現象です。


大賢者:それがどうした。


ウルテナ:エルシオンの伝承の中にもありましたが、光をまとい、闇夜を照らす伝説の剣エルシオンは、希望の心と共に、大魔王の心臓を貫いた。

この言い伝えがありましたよね?


大賢者:あぁ。あったな。


ウルテナ:こうした言い伝えに、賢者様や先代の勇者たちは思い込まされてきたのです。本当にその力があるのかもわからないのに。

その思い込みがより深くなり、「エルシオンさえあれば、魔王を倒すことができる」という結論に至ってしまっているのではないでしょうか。


大賢者:我々は、エルシオンでないと魔王を倒せない、というように決めつけているわけか。


ウルテナ:はい。魔王を倒した剣がたまたまエルシオンであっただけで、もし魔王を倒したのが鉄のヤリだったら、そのヤリが今のエルシオンになっていたのではないかと思います。


大賢者:そうかもしれないが、エルシオンでなくても魔王が倒せるという証明はできるのか?


ウルテナ:魔王を倒せた武器が残っていることが、そもそも珍しいわけであって、これまで魔王を倒せてきたのかもわからない。

逆に、ここまで情報が少ないというのに、エルシオンでしか魔王が倒せないという証明もできないでしょう。


大賢者:なるほど。これは、エルシオンでしか魔王を倒せない説と、エルシオン以外でも魔王を倒せる説の証明が互いにできないということだな?


ウルテナ:そうなるかもな。


大賢者:だったら、エルシオン取りに行ったほうがよくない?


ウルテナ:は?


大賢者:少なからず、エルシオンは魔王を貫いた剣。その事実があるのだ。強い剣に決まってるだろう。


ウルテナ:なんですかそれ。そんな理由で登りたくないんですけど。


大賢者:それにな。先代の勇者がなぜこのブレイブマウンテンにエルシオンを残したかわかるか?


ウルテナ:なんですか。


大賢者:このブレイブマウンテンを攻略するほどの力がないと魔王にも打ち勝つことができないというメッセージがあるのだ。


ウルテナ:はい。


大賢者:攻略したあかつきには、伝説の剣エルシオンを手にし、魔王討伐というわけだ。わからないか?


ウルテナ:そんなことせずに、最初から王都で保管して、勇者に渡せばいいじゃないですか。

最初から使っておけばエルシオンの扱いにも慣れてくるでしょうし、武器を変えた時の違和感ってすごいんですよ?

新しい武器ってのは、慣れるのに時間がかかるんです。わからないんですか?


大賢者:貴様!いい加減にしろよ!?さっきからウダウダとねちっこいことばかり言いおって!ふざけてるのか!


ウルテナ:ふざけてなんかいませんよ!こっちは真面目に話してるんです!


大賢者:さっさとエルシオンを取りに行け!ブレイブマウンテンを登れ!


ウルテナ:いやです!絶対登りません!


大賢者:ほら!早くしろ!


ウルテナ:おい!ちょっと!離せよ!


大賢者:わがままな奴め!今までお前みたいな勇者はいなかったぞ!


ウルテナ:だから離せって!ったくもう!あのな賢者さんよ!偉いんだか知らんが、言わせてもらうけどな!

俺はこの先、命を懸けた死闘がいくつも待ってるんだよ!魔王を倒さなきゃいけない。その前に四天王なんて奴らもいるだろうな!

そして道中の敵!魔王城の付近だから強い魔物がたくさんいるかもな!そして俺には仲間なんて一人もいやしない!


大賢者:それは自業自得だろう。


ウルテナ:そんな俺が!わざわざ必要かもわからないエルシオンを取りに行く理由があるか!?ブレイブマウンテンで死ぬかもしれないんだぞ!

大賢者:そ、それは・・・。


ウルテナ:わざわざ自分から死のリスクを高めてどうするんだよ!ただでさえいつ死んでもおかしくないんだぞ!?

それともなんだ。今までの勇者の力を信用してなかったのか?エルシオンがないと倒せない~なんて泣きべそかいてたのか!?賢者のくせに!


大賢者:か、からかうな!私だって勇者のことは信じてこれまでやってきたのだぞ!


ウルテナ:俺が言いたいのはな!エルシオンを取りに行くっていう選択が合理的じゃねーんだよ!魔王を倒す前に死んでも意味ねーだろうが!!


大賢者:・・・。


ウルテナ:・・・。


大賢者:すまなかった・・・。


ウルテナ:あ、あぁ。俺も感情的になってしまった。


大賢者:エルシオンは、そなたが、必要だと思ったら取りに来るといい。私の考えが浅はかだった。


ウルテナ:あぁ・・・そうさせてもらうよ。


大賢者:もう帰ってもよいぞ。気が向けば、また来い。案内してやる。


ウルテナ:・・・一つだけいいか?


大賢者:どうした。


ウルテナ:魔王を倒した剣が伝説の剣になるならだ。


大賢者:あぁ。


ウルテナ:俺が今持ってるこの剣が、伝説の剣になる。


大賢者:・・・。


ウルテナ:だから、安心してくれ。俺はもう、伝説の剣を持ってるんだよ。賢者さん。


大賢者:ウルテナ・・・。




ウルテナ:ま、本当はただエルシオンを手に入れるのがめんどくさいってだけなんだけどな!


大賢者:き、貴様!やっぱり貴様はクズだ!最後の最後までクズたっぷりだ!

その腐りきった根性をブレイブマウンテンで叩き直してこい!このクズ!


ウルテナ:はっはっはー!!人間そう簡単に変われたりしねーよ!俺が変われるわけねーだろ、バーカ!バーカ!


大賢者:ずーっと私のことをバカにしよって!!ウルテナー!!


ウルテナ:じゃーなー賢者さん!面白かったー!またどこかでなー!


大賢者:待てウルテナー!


・・・はぁ。なんて奴だ。まったく・・・。あんなにひねくれた勇者、今までいなかったぞ。


ほんとにあいつは、勇者なのか・・・?

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