必殺仕事人風台本5『お菊』

Danzig

第1話

一人の男の後をつけて屋敷の前まで来た左之助

その帰り道、一人の女に声を掛けられる


お菊:ちょいと、お兄さん


左之助:誰だ・・・


無言で左之助を見つめる女


左之助:ちっ

左之助:何も言わねぇなら俺は行くぜ


お菊:待っておくれよ

お菊:ちょいとお兄さんに話があるんだけどね


左之助:俺にはねぇよ


お菊:そっちには無くても、私(あたし)にはあるんだよ

お菊:あんたさっき、大黒屋(だいこくや)の手代(てだい)を付けてたね


左之助:さぁ、しらねぇなぁ

左之助:俺は急ぐんでな、じゃぁな


お菊:あんた仕事人だろう?


足を止める左之助


左之助:なに?


殺気立つ左之助


お菊:そんな顔すんじゃないよ

お菊:別に番屋(ばんや)に突き出そうってんじゃないんだ


左之助:誰だ、おめぇは


お菊:そんなに構(かま)えなくたって大丈夫だよ

お菊:分かるのさ、蛇(じゃ)の道は蛇(へび)ってね


左之助:お前も仕事人か


お菊:あぁ、そうさ


左之助:で、その仕事人が俺に何の用ってんだい


お菊:なぁに、仕事先でご同業さんと、ばったり出会っちまったって事かねえ

お菊:ご挨拶(あいさつ)でもと思ってね


左之助:・・・・・


お菊:で、あんた、今回は誰を狙ってるんだい


左之助:さぁな

左之助:おめぇ、仕事人にそんな事聞いて、答えが返ってくるとでも思ってるのかい


お菊:いや、思っちゃいないよ

お菊:ただ、聞いてみただけさ


左之助:ちっ、食えねぇ女だな


お菊:あんたが狙ってるのが、善兵衛(ぜんべぇ)なら、

お菊:今回はやめてくれると助かるんだけどね


左之助:もう一度言うが、

左之助:そんな事言って、「はい、そうですか」とでも言うと思ってるのかい


お菊:そんな事は分かってるさ

お菊:でもね、私には、それを承知でも、言わなきゃいけない訳があるのさ


左之助:ほう、

左之助:何だい、その訳ってのは


お菊:私は駿河(するが)の仕事人でね

お菊:こっちは、駿河からわざわざ江戸まで善兵衛(ぜんべぇ)を殺しにきて、何日もかけて仕掛けをしてきたんだ

お菊:ここで邪魔されたくないんだよ


左之助:心配すんな、おめぇの仕掛けを邪魔するつもりはねえ

左之助:だが、悪いが、相手を譲る気もねぇ


お菊:見たところ、あんたら、あと何人か仕掛るんだろ

お菊:なら、善兵衛(ぜんべぇ)だけは、私にやらしてくれよ


左之助:出来ねぇ相談だな


お菊:つれないんだね


左之助:それが俺のやり方なんでな

左之助:おめぇの相手が善兵衛(ぜんべぇ)だけなら、

左之助:俺たちが仕事を終わらせといてやるからよ

左之助:安心して駿河に帰ってろよ


お菊:私はもう駿河には帰らないんだよ


左之助:何でだよ

お菊:私はもうこれで、この稼業とはおさらばするつもりなのでさ


左之助:ほう


お菊:だから、この最後の仕事だけはキッチリ終わらせたいのさ

お菊:分かっておくれよ


左之助:おめぇの事情は分かった

左之助:が

左之助:譲(ゆず)れねぇもんは、譲れねぇ


お菊:あんた、堅物(かたぶつ)だね


左之助:そういう性分なんでな


お菊:まぁ、そういうのは嫌いじゃないよ

お菊:じゃぁいいさ、私が先に善兵衛(ぜんべぇ)を殺すまでだからね


左之助:やれるもんなら、やってみるがいいさ


お菊:あぁ、そうさせてもらうよ


左之助:分かった、

左之助:じゃぁ、お互い仕事人同士、相手の邪魔はしねぇ、

左之助:どちらが先に殺しても恨みはなし

左之助:それでいいな


お菊:あぁ、わかったよ


じっと目を見る二人


お菊:じゃぁね


左之助:ちょっと待ちな


お菊:何だい、もう気が変わったのかい


左之助:そうじゃねぇよ

左之助:おめぇの事ばかり聞いて、俺が勝っても後味が悪いかなぁ

左之助:こっちの事も教えといてやるよ


左之助:俺たちが善兵衛(ぜんべぇ)を殺(や)るのは、今晩だ


お菊:いいのかい、私にそんな事教えて


左之助:あぁ、構わねぇ


お菊:あぁ、そうかい、分かったよ

お菊:ところで

お菊:あんたの得物(えもの)は、みたところ「やっぱ(短い刃物の事)」だろ

お菊:あたしの得物はこれさ


お菊が左之助に自分の武器を見せる


左之助:ほう


お菊:あんたは「やっぱ」、私は飛ばすこの得物

お菊:同時に奴を狙らったなら、相手に届くのはあたしの方が早いよ


左之助:いいのか、おめぇの方こそ、そんな事教えちまって


お菊:私も後味が悪いのは嫌だからね

お菊:それに、江戸まで来て、最期に面白い仕事人に出会えるなんて

お菊:柄(がら)にもなく、嬉しくなっちまったんだよ


左之助:あぁ、そうかい

左之助:だが、手加減はしねぇぜ


お菊:あんたも先を越されないように、せいぜい気を付けるんだね


左之助:あぁ分かったよ

左之助:じゃぁな


お菊:あぁ


別れる二人

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