5

「雅・・・なんて姿に・・・」

「うぅ・・・ごめんなさい。守れなくて」


お母さんとお父さんが私のベッドの横で泣いている。私はあの後、本当の警備員によって救助された。けれど、私の全身は現魔王によって完全に失ってしまった。


「大丈夫。これからリハビリして絶対に治すから!お父さんもお母さんも元気出して!」


私の言葉に感動しているようだった。そして、なくなく仕事に戻り私は一人になった。看護師や医師も今はいない。


「くそくそくそくそ!なぁにがリハビリだぁ!ふざけんなあのクソ野郎!」


私から力を奪ったあいつが憎い。絶対にやり返さないといけない。だけど、今の私には指一本動かす力がない。天井に叫ぶだけで何もできない。


「ああもういらつく!誰か私に貢げよ!高級品でもSNSのいいねでもなんでもいいから私の欲を満たせよ!」


今まで感じていた養分の感覚もない。私を満たしていたすべてがこぼれ落ちた。何よりも許せないのが私の身体が動かないこと。何をしようにも何もできない。私の欲が満たせない。


「絶対に許さない!」

「きゃっ!」


この場に似つかわしくない声が聞こえた。私は目だけでそちらを見る。病室の扉のところに穂乃果がいた。


「穂乃果・・・」

「だ、大丈夫?雅ちゃんが心配で学校をサボってきちゃった」


突然の来訪に驚いた。


「ありがとう穂乃果。迷惑かけてごめんね」

「ううん。友達だもん。他のみんなも雅ちゃんによろしくって言ってたよ?」


あいつらが私の心配なんてするわけがないわね。強欲の私が消えたことに喜んでいるんじゃないかしら。この子の底抜けな甘さはこういう時にありがたいわね。癒されるわ。


「りんごを持ってきたから、切ってあげるね!」


穂乃果がほわほわオーラで私のベッドの横に座って、りんごを切り始めた。私はその様子を見るだけしかできなかった。


「へぇ~うまいものね」

「えへへそうでしょ?弟のために練習中なんだぁ」


そういってはにかむ穂乃果には惹きつけられた。


「そう。弟くんは幸せね。こんないい姉がいて」

「ほめ過ぎだよぉ」


私はそこで閃いた。穂乃果は何もしなくても底抜けの優しさで私を助けてくれる。当面は私が何もしなくても世話はしてくれる。だったら、弟の方に私の魔力の苗床になってもらいましょう。ついでに働き蜂にもね。


「ねぇ穂乃果。その弟くんはどんな子なの?」

「ええ~それ聞いちゃう~?」

「え、ええ」


イラっとする。だけど、私には反論する力がない。


「じゃあまずはね~」


でも、まさか穂乃果がここまでブラコンを拗らせているとは思わなかったわ



「でねぇ!その時朔ちゃんったら酷いんだよ!」

「もう分かったわよ!流石に長すぎるわ」

「ええ・・・」

「でも、そこまで穂乃果が言うなら会ってみたいわね」


ピタッと穂乃果の動きが止まる。私は☆7VENUS☆の一人。今や国で知らない人はいないと言われるくらいには超人気のグループのセンター。いわば顔役。そんな女が会いたいなんていったら、男なんていちころでしょう?


「・・・どんな目的でかな?」

「そんなの決まってるでしょ?穂乃果がそこまで自慢するんだもの。お世話になっているメンバーの親族なんだから一度くらい挨拶をしておきたいじゃない?」


嘘。私が会いたいのは奴隷が欲しいから。穂乃果の弟だっていうなら喜んで私の奴隷になってくれそうだしね。それで魔力を集める働きバチになってもらう。ついでに穂乃果も薬漬けにして私の奴隷になってもらいましょう。


栄養剤とか言えば喜んで騙されてくれるでしょうね。


「ねぇダメ?」


私はなるべく下手に出る。ここで逃げられると色々面倒だ。ここまで言うと穂乃果は大体OKしてくれる。


「お願い・・・アガっ!」

「う~ん、それはアウトだねぇ。雅ちゃん・・・・


ぞっ


そのまま無造作に穂乃果が私の腹に口に果物ナイフなを刺してきた。いつものほんわかした笑顔だけど、醜悪さが取れて見えた。


「な・・・に・・を」


喉を刺されながらもなんとか声にする。


「私にだったら何をしてもいいけど、朔ちゃんに手を出そうというのはダメだよぉ」

「え・・・あ?」

「信者を苗床にして、薬漬けにしてむしり取るっていうやり方は魔族的には最高のやり方だったと思うよぉ?最適だと思うし、雅ちゃんの立場だったら私もそうするかなぁ」

「な・・・ん・・・で?」

「全くあっちの世界でもすぐに逃げちゃうし、とことん私は部下に恵まれてないなぁ・・・まぁおかげで朔ちゃんと会えたんだけどさぁ」


痛い痛い痛い!


ぐりぐりとナイフを喉でかき混ぜられる。私の中で残っている感覚器官が顔だけということがわかっているようだった。


「ねぇ、マモン・・・。私ってそんなに信頼無いかなぁ?」

「!?」


私がマモンだということに気が付いている!?そして、この懐かしくて恐ろしい雰囲気は


「今の私は一条穂乃果。今生の世界では一条朔ちゃんに世界で一番のアイドルにしてもらってからお嫁さんにしてもらう予定でぇす。きゃっ言っちゃった」

「う・・・」


乙女のようなセリフを吐きながら私の喉をぐちゃぐちゃとかき混ぜる。この拷問は回復魔法と併用している。私が死にそうになるたびに高速で回復。それだけで私は何度も死にたくなる。


「さてさて、マモンちゃん。貴方は大罪を犯しました。五回以内に答えられたら、特別にその身体を治してあげるよ」


私の口の中を動かすナイフの手が止まった。とにかく生き残りたい私はがむしゃらに言葉を紡ぐ。


「貴方を裏切ったことです!」

「ぶっぶー」

「貴方の力を奪ったこと!」

「ぶっぶー」

「イジメたこと・・・暴力を振るったことですか・・・?」

「ぶっぶー」

「お金を奪ったことですか・・・?」

「ぶっぶー不正解。正解発表で~す!」


そして、さっきまでの笑顔から能面のような表情になる。


「私の朔ちゃんを誘惑しようとしたことだよ。それは死よりも重い罰だよね!」

「え・・・」

「朔ちゃんは優しいから顔の感覚も残しておいてくれたらしいけど、私はもっと色々やれるんだよ?」

「や、やめて!助けてください!なんでもしますから!」

「ふふふ、それじゃあ永久に終わらない旅へレッツゴー!」

「あ・・・あ・・・あ」


最後に穂乃果だったものの笑顔を見て、私の感覚は徐々にインクの染みのように消えていった。見えない聞こえない感じない嗅げない味がない。私の感覚器官はすべて閉じられた。だけど、恐怖だけはそこにあるし、何を言っているのかも伝わってくる。


「五感も奪っちゃいましたぁ。イエイ!ついでに永遠の命も付与してあげたよ?やったね!これで永遠のアイドルの爆誕だよ?これからも見舞いに行くから!また今度ね」


私の永遠の絶望が始まった。こんなことなら勇者と戦って死んだ方がマシだったかもしれない。



「ふんふふ~ん♪」

「お疲れ様です、穂乃果様」

「ん?ミオちゃんじゃん!」


病院の屋上のフェンスの上でくるくると回っていた穂乃果様に声をかけます。


「うんうん、その様子だと【強欲】も馴染んでるかなぁ?」

「はい。おかげ様でさらなる力が手に入りました」

「いいことだねぇ。朔ちゃんのためにその力を使ってね?」

「かしこまりました」


私は慇懃に対応します。穂乃果様は天真爛漫にニコニコと笑っています。この人がさっきまで浜辺雅を拷問で弄んでいた人とは同一人物とは思えません。


「それで何か用かな?」

「は、はい、浜辺雅の代わりに私が☆7VENUS☆の新メンバーとして加入することになりました。その挨拶をと」

「おお~ミオちゃんが同僚かぁ頑張ろうね!」

「はい!」

「うんうんいい返事だ。礼儀正しいし、朔ちゃんは恵まれてるなぁ」

「勿体ないお言葉です」


穂乃果様はフェンスの上で☆7VENUS☆の歌のダンスを踊りながら私を褒めてくださいました。くるくると天衣無縫を表す穂乃果様に見惚れていると、


「ああ、そうそう」

「え?」


いつの間にか私の耳元に穂乃果様の顔がありました。


「もし朔ちゃんを裏切ったらマモンちゃんと同じかそれ以上にひどい目に遭わせるから覚悟してよね?」

「!も、もちろんです!もとより私は朔様に救われた身です!死ぬまで仕えると誓っています!」

「うんうん、いい返事だね~みんなもだからね?」


どこにいたのか≪魔王の七剣≫全員が穂乃果様の眼前に現れます。そして、


「私はこのまま≪国民的嫌われアイドル≫として、≪魔王の七剣≫には引き続き朔ちゃんの計画の進行をよろしくね?」

「はい!」


≪魔王の七剣≫は全員その場で頭を垂れました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人気絶頂アイドルグループ侵略計画 ラブコメの前に義姉を国民的嫌われアイドルに貶めたすべてに復讐を addict @addict110217

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ