第5話

 ぼくのテーブルに並べていると、急に深い溜息を吐いた。


「ご注文は以上で、それと……少しの間だけど楽しかったわ。私……ここ辞めるの……もう就職活動しないといけない……」

「ふむふむ」 

「でも、不景気で……」

「続けて……」

「もう田舎に戻るしか……楽しかったキャンパスも、楽しかったイベントも、あなたも楽しかった……あら? どうして私……?」


 ぼくたちはお互いに笑い出した。

 洒落た店内には珍しく客が疎らだった。

 食器とナイフとフォーク、そして、スプーンの音以外は静かだ。


「少しはスッキリしたかい?」

「ええ……あなたって、不思議な人ね」

「へえ。そうかい? 自分では……普通だと思ってるよ」


 彼女はまた笑った。

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