センタさん降臨
「ホッホッホ……センタさんじゃよ」
改新世界に人々が閉じ込められてから約10分後、その中にて白いヒゲを生やし赤い体毛を身にまとった自称センタのおじいさんがどこからともなく現れた。
「センタ……さん。ワタクシのもとにも……来てくれたんだ……」
クネヒトは感動していた。
幼少期の頃、彼の両親は貧困と夫婦仲の悪さのせいで、彼に聖夜のプレゼントを渡すことができなかった。
同世代の友人がプレゼントを貰って喜ぶ中、彼は自分が悪い子なのではないかという疑念と罪悪感に駆られていた。
そして、20歳前後の頃に子供たちにプレゼントを渡していたセンタの正体が親だと知ったとき、彼は激情に駆られた。
悪い子だったのは自分ではなく、自分を産んでおきながらロクに祝福もしなかった両親だったことを知ってしまったからである。
そして、彼の心は狂気に陥った。
それから数年後、クネヒトは改新世界ですでに離婚していた両親を殺した。
『また二人と一緒にご飯が食べたい』と言って両親を人がいないところにまでおびき寄せた後、改新世界で早急に二人をビンゴにして殺したのだ。
当時の騎士団はソーセキン指揮下だったせいで無能だったため、死因の特定ができず。結果としてクネヒトは罪に問われることはなかった。
しかし、両親を亡き者にしたことで、今後彼のもとにセンタさんがやってくることは確実に無くなってしまったクネヒトはますます歪んでいった。
彼は誕生日を祝われている人間や聖夜にプレゼントを貰えている人間に激しく嫉妬し、憎むようになった。
自分がどんなに欲しくてももう二度と手に入らないものをすんなりと貰えているのが妬ましくてたまらなかったのだ。
だからこそ、感動したのだ。
脈絡なく現れたセンタさんに。
「クネヒトくん、キミにこれをあげよう」
そう言ってセンタさんはおいしそうなイチゴを腕から生やし、クネヒトにあげた。
「うわぁ……イチゴだ。ねえ、これ食べてもいいかな」
「いいよ」
クネヒトはイチゴを食べたことがほとんどなかった。
他の果実にくらべて値段が高いイチゴは両親死亡後も貧困状態にあったクネヒトにとっては高級品だったからだ。
「わぁ……おいしい……」
あまりの美味しさについ笑みを浮かべてしまうクネヒト。
「ねえ、来年はマンゴーが欲しいな……」
「いいよ。はい、どうぞ」
クネヒトの控えめなお願いに対し、今度はマンゴーを生成したセンタさん。
「うう……おいしいよぉ……」
クネヒトは今まで食べたことのない高級果実の味に再び魅了されていった。
それからというもの、センタさんはクネヒトのリクエストに答えて次々と果物を作っては彼に渡していった。
「ありがとうセンタさん、もう大丈夫。お腹も満たされたし、罪を受けいれる覚悟もできたよ……できればさ、来年も来てほしいな」
「うん、いいよ。じゃ、またな」
そして、満腹になって満足したクネヒトをよそに、センタはどこかへと消えていった。
その直後、クネヒトは自ら改新世界を解いた。
マテリアは元の服装に戻り、ドジョーの鼻は赤くなくなり、イドルとトトキのアゴからは白ヒゲがなくなった。
こうして、聖夜祭のビンゴ大会騒ぎはクネヒトの自首という形で終わったのであった。
◆◇◆◇◆
「にしても、センタさんに扮することで窮地を脱するなんてね……」
事件解決から数時間後、自宅にてマテリアが貧悟胎界の中で作った箱型の魔道具を見ながら、隣にいる僕に話かける。
改新世界の中で脈絡なく現れたセンタさんの正体。
それは、老化した上に赤い毛皮に覆われた状態で作った僕の分身であった。
当然ながら、クネヒトに渡した果実も僕の能力で作った果実である。
「……まあ、当初はマテリアがその魔道具を作り上げるまでの時間稼ぎが目的だったんだけどね」
「そういえば、どうしてイドルはあの男がセンタさんに飢えていることに気付いたのかな」
「父さんと同じ瞳をしていたから……かな」
父さんと同じ、誰かに祝福されることを待っていた瞳。
初めてクネヒトを見た時、僕は真っ先にそれを感じた。
そして、その後の言動から僕は彼の真意を何となく察してしまったのだ。
「そっか……」
「あ、そうだ。マテリアへのクリスマスプレゼントがあったんだ」
「え!何かな?」
僕は自分用の固有空間ボックスからマテリアのクリスマスプレゼント用に作っていたものを取り出した。
「じゃーん。自分の身体変化魔術で作った金属のウロコ、いちおう肉体再生魔術がエンチャントとして付与されているよ」
「すっごい!肉体変化魔術で生成された金属はすごい貴重なんだよ!ありがとう!大事にする!そうだ!私もキミにプレゼントあげなきゃね」
そう言いつつ、マテリアは金属のウロコを机においてから先ほど作っていた箱型魔道具を僕に手渡した。
「これはね、バリア系魔術の知識や技術がなくても改新世界を作ることができる魔道具『ドメインボックス』ブレシンガに並ぶ私の傑作魔道具だね」
「え……?この魔道具、てっきり改新世界を破壊するものだと思っていたけど、そういう性能だったの……!?」
「うん。まあ、まだ起動させたことないから動くかどうかは若干怪しいけどね」
「じゃあさ、今から試しに起動させてもいいかな」
それから、僕たちは王都郊外の平原へと向かった。
夜空には満天の星空が聖夜を飾るかのごとく広がっていた。
「じゃ、起動してみるね」
僕は魔道具に思いっきり魔力を込めて起動させる。
すると、僕を中心にあたり一面が白い空に覆われ、七色の星々が輝き始めた。
そして、金色の光輪が改新世界の上空に月のごとく浮かび上がり、僕たちを祝福するかのように優しい光を放ち始めた。
「マテリア、プレゼントありがとう。この魔道具、ずっと大事にするよ」
「どういたしまして。私もキミのウロコ、大事に保管したり加工したりするね」
こうして、僕たちは白い星空の中でお互いを見つめ合い、そして口づけを交わしたのであった。
【本編完結済】18歳の誕生日、幼馴染への愛おしさが爆発した僕は世界最強の生物に覚醒してしまった 四百四十五郎 @Maburu445
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